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よろしくお願いします。
「悪りぃ! 誤解させるような言い方だったよな……⁉ マジでごめん!」
ユーリィさんの懇願でリスティアお嬢様が盛大に勘違いしている事に気づいた俺は大急ぎで誤解を解き、
「その、わたくしの従者が大変失礼しました……。それにわたくしも高圧的な態度を取ってしまったりしてごめんなさい」
全てを理解したリスティアお嬢様はバツが悪そうにユーリィさんへの謝罪を口にしていた。
「だ、大丈夫大丈夫! 確かにちょっとびっくりしちゃったけど、ちゃんと誤解も解けたしね! わたしは気にしてないから二人とも気にしないで!」
ユーリィさんの表情と態度からは本当に気にしていないという気持ちが伝わってくる。
────最悪の状況は回避できたみてぇだな……。
どうにか丸く収まったと内心ホッとするのだが、
「……あなたの寛大な心に感謝します。ですが、わたくしはアーディベル家の人間として相応しくない行いをしてしまいました。……何かお詫びをさせてください」
リスティアお嬢様は言葉だけの謝罪では気が済まないらしい。
しかし、
「お、お詫び……? いやいや! いいっていいって⁉ ちょっとした勘違いなんだし、そこまでしなくていいよぉ⁉」
ユーリィさんはリスティアお嬢様の申し出をきっぱり断った。
「なっ……⁉ だ、駄目よ! これはわたしだけの問題じゃなくてアーディベル家の誇りが掛かってる問題だもの! しっかりお詫びさせてもらうわ!」
「えぇっ⁉」
だが、リスティアお嬢様もまさかお詫びの申し出が断られるとは思っていなかったのだろう。
ユーリィさんの返答に強く動揺し、他所向けの丁寧な口調は消え失せ、普段の口調に戻ってしまっている。
「さぁ、あなたが望むことを言いなさい! 可能な限り叶えてみせるわ!」
「そ、そう言われても望むことなんて……。あっ、そうだっ‼」
リスティアお嬢様に退く気配はなく、何か言わなければ解放されないと観念したユーリィさんだったが、土壇場で何かを閃いたようだった。
「えと、それじゃあお詫びに“今からちょっとだけあなたの時間をわたしにくれる”っていうのはどうかな……? その、“話に付き合ってほしい”と言うか……」
「……あなたの話に付き合う? そんな願いでいいの?」
「う、うん! それが良い‼」
「そ、そうなのね……。いいわよ! それで? あなたはわたしにどんな話をしたいのかしら?」
「えっと……! なら先ずは、自己紹介とか……? ほら、まだちゃんとお互いに名前を名乗ってなかったなぁって……」
「……そうね。そう言えば挨拶もまだだったわ。わたしはリスティア・アーディベルよ」
「良かった……‼ わたしはユーリィ・マヤリス! 実はリスティアさんと同じ新入生で…………あれ? あっ⁉ それはさっきオチバくんが言ってくれてたっけ⁉ じゃあ、えと……好きな事は魔道具作りとお菓子作りで……。他にはえっと、えっと……!」
焦るユーリィさんはしどろもどろになって自己紹介どころじゃない有様だが……。
「……ふふっ。あなたって面白いわね!」
リスティアお嬢様を笑顔にさせる事はできたようだ。
「……‼ 改めてよろしくね! リスティアさん!」
「そうね。よろしく、ユーリィさん。…………いえ、よろしくお願いしますわ。ユーリィさん」
「あ、あれ……?」
「…………どうかしましたか、ユーリィさん?」
「えと、話し方が……。その、今のがリスティアさんの素なんだよね……? オチバくんと話してる時もそんな感じだったし……」
「…………」
リスティアお嬢様はユーリィさんの指摘に沈黙し、助けなさいと言わんばかりに俺たち従者を見つめるが……。
「ま、観念するしかねーんじゃね?」
「す、スピラ⁉」
「ですね。大事な局面でボロが出たら不安ですし、味方がいた方が心強いと思いますよ」
「レファリオまで⁉」
「つーか、もうバレてんだし今更取り繕ってもって感じだろ」
「オチバも⁉」
「あの……私もリスティアお嬢様にはあまり無理はしてほしくないです……」
「ティミ……」
俺たち従者は全会一致でリスティアお嬢様の退路を断つ。
「はぁ……。分かったわよ……」
溜息と共に観念した様子のリスティアお嬢様は、
「……それじゃあ、これからは自然体でやらせて貰うからよろしく。ユーリィ」
「……‼ うん! リスティアちゃん!」
ユーリィさんにも素顔を見せる事にしたのだった。
◆◇◆
リスティアお嬢様とユーリィさんの会話は暫く続き、二人の距離が縮まったのは間違いないだろう。
しかし、
「ふ〜ん? リスティアさんの素顔についてはまた今度私にも見せて貰おっかな〜?」
「ご、ご容赦ください……。ジークリット先輩……」
同時にこの場に居合わせたジークリット公女殿下にもリスティアお嬢様の素顔は知られる次第となっていた。
「あはは! ん〜、リスティアさんに先輩って呼ばれるのも悪くないね!」
リスティアお嬢様はこれまでアーディベル邸より外の世界と触れた機会が殆どなく、先輩や後輩といった関係性について知る機会も全くといって良いほどなかった。
だが、ユーリィさんとの会話で色々と気づきもあったようでジークリット公女殿下を改めて先輩と呼ぶことにしたらしい。
「二人の楽しげな会話には混ぜて貰いたいし、邪魔したくないんだけどね……。ユーリィさんはこれから学生寮の案内とか入寮についての話もあるから」
「あっ! そうだった……! ごめんなさい、ジークリット先輩! それじゃあリスティアちゃん、また後でね!」
「ええ、ユーリィもまた後で」
そしてジークリット公女殿下とユーリィさんが学生寮に立ち去ると、
「さぁ、わたしたちも行くわよ!」
リスティアお嬢様の音頭で俺たちも移動を始める。
行き先について俺は全く知らされていないのだが、
────そういや、一旦腰を落ち着ける場所に行くってスピラが言ってたな……。
着けば分かるだろうとリスティアお嬢様に追従するのだった。
◆◇◆
そうして俺たちが行き着いたのは学園が有する広々とした庭園だった。
アーディベル邸にある庭園よりも圧倒的に広い庭園であり、生け垣による仕切りで個室にも似た空間が幾つも設けられている。
また、それぞれの空間にはイスとテーブルが配置されているのも確認できた。
レファリオが率先して空間の一つを確保し、その空間に用意されたイスにリスティアお嬢様が腰を落ち着けた所で準備が整う。
「じゃ、俺から報告するぜ。リスティアお嬢様たちと別れて向かったアーディベル家の宿泊施設の件だけど、それは無事に見つけられた。ちょっとばかし施設の管理者のルーギッド・オペレーさんってのから条件を突きつけられたけど、今のところ特に問題はねぇかな」
「そう! 良かったわ!」
「……ルーギッド・オペレー? その名前は家令から聞いた覚えがありますね……。確か何代も前のアーディベル家当主の従者だったとか……。いえ、流石に存命ではないでしょうし別人ですね。恐らくは子孫か名前を襲名した方でしょうか」
レファリオはロルフさんからルーギッドさんの名前を聞いた事があるようだが、どうやら同名の別人だと考えたらしい。
ルーギッドさんは自分自身を幽霊だと明言していたこともあり同一人物という可能性は高そうだが……。
────今はその話よりもしなくちゃならねぇのがあるからな……。
「まぁ、そんな感じで当初の目的の拠点作りは上手くいったんだ。けど、想定外の事も起きたから同時に報告させて貰う」
俺はより一層真剣な空気感を作り、再び口を開く。
「一つはユーリィさんの件だ。色々とクラルテがユーリィさんに迷惑を掛けたらしくてさ。そのお詫びって事でクラルテがユーリィさんを同じ部屋に泊まらせたんだ。一応、管理者のルーギッドさんの許可は出てるけど事後報告になって悪い」
「それってさっき説明してくれた話よね? いいわ、許してあげる。夜は寮にいるわたしと連絡できないものね。……ふふっ。何よ、驚かせるみたいな空気しちゃって。そんなの今更問題にしたりしないわよ」
リスティアお嬢様はホッとして相好を崩すのだが、
「……いえ、リスティアお嬢様。オチバさんは、“一つはユーリィさんの件”と言ったのです。安心するのはまだ早いかと」
レファリオは緊張感を解かずにリスティアお嬢様へ注意を促す。
「流石レファリオ、その通りだ。想定外の件はもう一つあるんだ。リスティアお嬢様たちと合流する直前なんだが、昨日のディアン・スィエルディーチって奴がまた絡んで来やがった。その場は大きな問題は起こらずに済んだけど、目を付けられたのは間違いねぇ。リスティアお嬢様は勿論、皆も十分気をつけてくれ」
「あー、昨日のあいつか……。つっても魔力は強くなさそうだったし、別に絡まれても余裕で勝てそうじゃね?」
「そうかもしれませんが、僕はスィエルディーチ家を侮らない方がいいと思いますよ」
スピラはディアンを取るに足らない相手だと評価しているが、レファリオはそう考えていないらしい。
「あの家は代々武闘派揃いで有名ですからね。あのディアンって方も手の内を隠している可能性は十分にあります。それにほら、確かスピラの身内にもいましたよね? 魔力を使わないで戦う方が」
「…………ドミ姉か。それを言われたらわたしも納得せざる得ねーな。取り敢えず相手の手の内が判るまで喧嘩は買わねーようにするよ」
「で……ですね! とにかく! リスティアお嬢様に怪我だけは無いようにみんなで注意しましょう……!」
俺の報告が終わり、従者間での方針も固まると……。
「それでは次に僕たちからの情報共有ですね」
今度はレファリオから昨日俺と別れた後の情報が共有されるのだった。
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