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よろしくお願いします。
ディアンとのひと悶着は想定外な出来事であったが……。
────これならリスティアお嬢様たちとの合流時間に遅れる心配はなさそうだな。
ユーリィさんが上手く対処してくれたお陰でディアンはこの場から立ち去っていった。
「それにしても見事だったよユーリィさん! ディアンくんがあんな簡単に退いてくれる所なんて初めて見た!」
ジークリット公女殿下は余程ディアンに手を焼いていたのだろう。
ディアンを退けたユーリィさんの手腕に目を輝かせていた。
「あはは……。でも、ディアンくんの目的ってわたしだったみたいですし……。実はわたしのせいな気もするって感じがしないでもないといいますか……」
「だとしてもだよ。ディアンくんはほら、かなり気難しい性格だから……。うーん、これからディアンくん関連の問題はユーリィさんに仲裁してもらおうかなぁ。……なんてね?」
「ディアンくんを……? えと、任せてください! ディアンくんはこの学園で出来た最初の友達ですから!」
「あ、あれ? 冗談のつもりだったんだけど……。ユーリィさん、やっぱり只者じゃないね……」
そんなこんなでジークリット公女殿下とユーリィさんの会話に耳を傾けながら学生寮に向けて進んでいくと男子寮と女子寮の分かれ道が見えてきた。
そしてそこには既にリスティアお嬢様、レファリオ、スピラ、ティミが揃い踏みであり、リスティアお嬢様とレファリオはジークリット公女殿下やディアンと同じセアリアス学園の学生服を身に纏っている。
「あっ‼ やっと来たか! 遅せーぞ、オチバ!」
最初に俺を視界に捉えて声を上げたのはスピラだ。
また、スピラもいつもの動きやすい服装からティミと同様のメイド服に装いを変えていた。
「悪りぃ! 待たせた……!」
「全くです。確かに集合時間には遅れていませんがリスティアお嬢様を待たせるのはどうかと思いますよ? もう少し気を引き締めて貰いたいものですね」
冗談めかした口振りで小言を述べるレファリオは装いこそ違えどいつも通りだ。
「そう言ってくれんなって、こっちも色々と立て込んでたんだよ」
「お、オチバさん……! おはようございます……!」
「お! ティミもおはよう!」
スピラ、レファリオ、ティミと続いて次はリスティアお嬢様へと視線を移すのだが……。
「えーと、リスティアお嬢様……?」
リスティアお嬢様は眉根を歪め、あからさまに不機嫌な雰囲気を醸し出していた。
────おいおい何だ……⁉ 何か知らねぇけどめちゃくちゃ怒ってるじゃねぇか……⁉
ティミもたった今リスティアお嬢様の様子に気づいたらしく慌てて執成そうとするが、リスティアお嬢様がゆっくりと手を翳すとティミは直ぐに口を押さえて静かにする。
「……オチバ。あなたにはいくつか聞きたい事があるのだけど、先ずはジークリットさんへの挨拶を優先するわね?」
俺に拒否権はないと言わんばかりの言い回しからも何かしら俺が彼女の怒りを買ってしまったに違いない。
「お、おう……」
俺が頷くのを確認したリスティアお嬢様はレファリオを連れてジークリット公女殿下の方へ挨拶に向かっていく。
そうしてリスティアお嬢様の照準が俺から外れるとスピラが俺の側にやってきた。
「なぁ、スピラ。リスティアお嬢様は何をあんなに怒ってんだ……?」
「はぁ……。アンタ、やっぱり分かってねーのな」
「……分かってないって何の事だ?」
「簡単な話じゃねーか。アンタはリスティアの従者だろ? なのに主人よりも他の奴と仲良くしてやがる。それが気に障ったんじゃねーの?」
「え……? んな子供みたい理由で……? いや、そういやリスティアお嬢様ってまだ十三なんだっけか……」
大人びた容姿で忘れがちになってしまうが、リスティアお嬢様はまだ十三歳の少女なのだ。
さらに言えば公爵家という特別な環境で成長したことで精神的にもまだ幼さが残っており、それらを鑑みればリスティアお嬢様の反応はそれほどおかしくない年相応のものだと言えるだろう。
「ってことは……。うわぁ、マジか。そりゃ確かに俺の配慮不足だ……。後でちゃんと説明してやんねぇと。教えてくれてありがとな、スピラ」
「気にすんなって。そんじゃこの後の予定だけど、リスティアが挨拶を終えたらみんなでどっか落ち着ける場所に移動して情報共有って感じになると思うぜ」
「了解。……けど、あんな不機嫌なリスティアお嬢様なんて最近はそうそう見ねぇからなぁ。どうしたもんか……」
「責任持ってリスティアの機嫌は宥めといてくれよ? 学生寮に帰った後に苦労すんのはわたしとティミなんだぜ?」
「だな……。何か考えてみるよ」
スピラからこれからの流れを教えてもらい、リスティアお嬢様の機嫌をどう回復させるか考えていると……。
「それではジークリットさん、これで失礼しますわ」
丁度リスティアお嬢様たちも挨拶を終えたようだ。
ジークリット公女殿下との会話で少しは溜飲が収まっていることを期待したいところだったが、
「あなた達、行くわよ!」
その声色からは不機嫌な色がありありと感じ取れた。
────うーん……。これはリスティアお嬢様とユーリィさんを引き合わせるのはまた今度にした方が良さそうだな。
取り敢えず今は足早に立ち去ろうとするリスティアお嬢様に付いていくことにしよう。
そう思って足を踏み出したその時、
「あ……! ちょっと待って!」
ソワソワした様子のユーリィさんが俺の袖を掴んだ。
「ゆ、ユーリィさん……?」
「あ、いきなり掴んでごめんね……? でも、確認したくて……。その、あの人がリスティアさん……なんだよね?」
「えーと……」
彼女の目的はリスティアお嬢様の友人になる事だ。
それは俺が提案したことであり、彼女はその案を飲んだからこそこうして俺と行動を共にしていた。
だから、こうしてユーリィさんがリスティアお嬢様と話す場を作ろうと動くのは至極当然の行動なのだ。
しかし、今のリスティアお嬢様に話し掛けるのは無謀としか言えない。
そこで俺はユーリィさんを止めるべく彼女と正面から向き合うのだが……。
「あら、足を止めてどうしたのオチバ? わたし、あなたと話があるって言ったわよね?」
「────⁉」
その瞬間、底冷えするようなリスティアお嬢様の冷たい声が俺の全身を震え上がらせた。
また、リスティアお嬢様は俺だけじゃなく……。
「……あと、オチバの袖を掴んでるそこのあなた。わたしの従者にいったい何の用かしら?」
ユーリィさんにもその冷やかな声を浴びせていた。
「お、オチバくん⁉ あの人がリスティアさんなんだよね⁉ 何だか凄く怒ってるような気がするんだけど……⁉」
「『オチバくん』……? あなた、わたしの従者と本当に仲が良さそうね」
「ひえっ……⁉」
最早リスティアお嬢様とユーリィさんの互いの第一印象は最悪としか言いようがないだろう。
だが、この状況は殆ど俺が引き起こしてしまったと言っても過言ではない。
リスティアお嬢様の心情を汲み取れずに機嫌を損ねてしまったのも、安易にリスティアお嬢様の友達になって欲しいなんてユーリィさんに頼んだのも俺なのだ。
────だったら流石に関係修復の責任くらいは取らねぇとだよな……!
「リスティアお嬢様……! 少し説明させてくれ‼」
リスティアお嬢様は俺の声に反応して視線を寄越すがその口は横に引き結ばれたままだ。俺はそれを『続きを話せ』という意味だと捉えてそのまま続ける。
「先ず、この人はユーリィ・マヤリスさん。昨日、夜街で知り合ったんだ」
「────⁉ ま、待ちなさい⁉ いま、夜街って言ったのかしら⁉」
「……? 言ったけど……。そんで色々と物色してたら気になる商品を見つけたんだ。ユーリィさんとはその店で会ったんだよ」
「〜〜〜〜⁉ (や、夜街って……⁉ 噂に聞くあの大人のお店が沢山ある場所のことよね……⁉)」
「お、オチバくん⁉ なんだかとんでもなく変な誤解が起きているような気がするんだけど……⁉」
ユーリィさんがなにか抗議しているが、肝心のリスティアお嬢様はなにやら難しい顔を浮かべるだけで特に口を挟む様子もない。
ならば問題はないと俺は説明を続ける。
「それで話してたらユーリィさんもこれから学園に通う新入生って分かってさ。結構リスティアお嬢様とも良い関係を築けそうだなって思って。そこでリスティアお嬢様と会ってみねぇかって俺がユーリィさんに提案したんだよ」
「へ、へぇ〜……。じゃあ、あなた達はついさっき合流したってことなのかしら……?」
「ん? それは違うぞ。ユーリィさんはまだ宿が見つけられてなかったみたいでさ。それを聞いたアーディベル家の洋館の管理人がユーリィさんに宿泊許可を出したんだよ。だから一緒に洋館を出発して今に至るって感じだな」
「い、一緒に……⁉ ま、まさか二人同じ部屋だったなんて言わないわよね⁉」
「え……。いや、ユーリィさんを疑う訳じゃねぇけど別々の部屋にして何か問題があっても大変だしな……。同じ部屋だぞ?」
「なっ……⁉」
昨夜のユーリィさんはクラルテの連れとして洋館にやって来たが、彼女自身はアーディベル家の直接的な客人ではなかった。
それらを踏まえれば、“ユーリィさんがクラルテと同じ部屋に泊まる”という結果に収まる事はそこまでおかしな話でもないだろう。
────細かな所は違うかもしんねぇけど、まぁ大体はこんなところだな……!
そうして説明を終えた俺が周りを見渡してみると……。
「お、大人の世界だわ……⁉」
「オチバさん……! リスティアお嬢様にその手の話はまだ早いと思います……!」
リスティアお嬢様は顔を火照らせながら呆然と立ち尽くし、ティミは頰を紅く染めつつそんなリスティアの耳を両手で塞いでいた。
「全く、やれやれですね……」
「アンタってつくづく場を引っ掻き回す天才だよな……」
また、レファリオとスピラはどっと疲れた表情を浮かべており……。
「ええと、オチバさんの話はどこまで真に受けていいものなんですかね……?」
ジークリット公女殿下は困り顔で……。
「オチバくん‼ 早く! 早く誤解を解いてぇ‼」
ユーリィさんは涙目で俺にそう強く訴えたのだった。
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