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よろしくお願いします。

 

 ユーリィさんの笑顔とお礼に絶句するディアンだったが、心が落ち着きを取り戻すとユーリィさんを警戒するように睨みつけていた。


「あ、あははー……。そんな怖い目で睨まないでよぉ〜。……いきなり名前で呼んだのが嫌だったのかなぁ。あっ、もしかしてディアンくんって上級生だった……⁉ それで怒ってるんじゃ……⁉」

「その心配はないよ。ディアンくんもユーリィさんと同じで今年から学園に通うことになった新入生だからね」


 ユーリィさんの不安を解消したのはジークリット公女殿下だ。


「この学園で上級生かどうかを見分けるにはその人がつける記章を見ればいいの。貴女も入学式を終えたら一学年を示す記章が配られるはずだよ」


 セアリアス学園は入学可能な年齢が幅広い。

 だから新入生であっても年齢にバラツキが生じ、見た目だけでは目の前の相手が上級生なのか下級生なのか、それとも同級生なのかが判別できない。


 だが、どうやらその点については生徒それぞれが学年に応じた種類の記章を所持する事で判別できる仕組みになっていたようだ。


「へぇ、そうなんですね! じゃあ、やっぱりディアンくんとは同級生って事になるんだ! これから長い付き合いになると思うし、改めてよろしくね!」


 そうしてユーリィさんがディアンの手を取って握手をすると……。


「貴様……!? な、ななっ……!! 何をする⁉」


 ディアンは驚きのあまり肩を跳ねさせていた。


「勝手に俺の手を取るんじゃない……⁉ 俺は公爵家の人間だ……‼ 無礼だぞ……‼」

「え〜、無礼って……。今更じゃないかなぁ……? わたし、もう公女殿下のジークリット先輩に色々と失礼なことしちゃった後だよ……? それにここだと爵位は気にしなくてもいいってジークリット先輩も言ってたし……」

「そ、それで納得して平静を保てている貴様がおかしいのだ……‼ ええい……‼ 離せ‼ 馴れ馴れしくするんじゃない‼」


 そう言ってディアンはユーリィさんの手を振り払うのだが……。


「……全く、貴様みたいな奴は初めてだ」


 ディアンの頰は朱に染まっており、満更でもなさそうな表情を浮かべている。


「えと、どうもありがとう……?」

「ほ、褒めてなどない‼ ……だが、貴様は俺の手を取った。その決断は利口だったと褒めてやろう! 特待生、貴様はこれより我がスィエルディーチ派閥の一員だ! 歓迎してやる!」


 ディアンはユーリィさんの握手を派閥への加入意思だと解釈したのだろう。


 しかし、


「え……? わたし、別にディアンくんの派閥に入るつもりなんてないよ?」


 ユーリィさんがスィエルディーチ派閥に入るつもりはないと言葉にした事でまたもや空気に亀裂が走った。


「……何だと? それはつまり、貴様はこの俺の誘いを断ってアーディベルの派閥に与すると言うことか? フン、つまらん冗談はよせ。貴様も貴族の端くれなら今後の振る舞いをよく考えろ。はっきり言って今のアーディベルは落ち目だ。何せアーディベルは跡取りとなる男子がいないからな。その点スィエルディーチは跡取り問題についての心配はない。今後の事を思えばどちらを選ぶべきかなど明白だろう?」


 先程の強引な勧誘とは打って変わり、ディアンは理路整然とスィエルディーチ派閥を選ぶことが有利である点を並べる。


「うーん……。というか、そもそもそのアーディベルって派閥にもまだ入るって決めた訳じゃ──」

「ハッ! そういう事か……! ハハハハハ! なるほどな……! 全て分かったぞ!」


 ユーリィさんが何やらディアンに説明しようとしたのだが、ディアンはそれを最後まで聞かず、突如何かを確信した様子で高笑いした。


「えっと……。分かったって、何が……?」

「ハッ! 単純な話だ!」


 彼がいったい何を言い出すのかと固唾を飲んで見守っていると……。




「────アーディベルの従者、貴様が諸悪の根源という訳だな……‼」




 何故か話の矛先が俺に向かってぶっ飛んできやがった。


「え……? は……? 俺……?」

「貴様が特待生を(たぶら)かしたんだろう……? そうでなければスィエルディーチよりもアーディベルを選ぶなど絶対にありえん‼」


 無防備な横っ面をいきなり叩かれたような急展開に俺は一瞬言葉を失っていたが、


「いや、いやいやいや⁉ 全然違ぇけど⁉ お前どういう思考回路してやがんの⁉」


 ヤバい状況になりつつあるのを理解した俺の脳は直ぐに復帰を果たした。


「ハッ! それ見たことか! 従者風情の癖して公爵家に対してその粗暴な言葉遣い……! それが貴様の本性という訳だ! これは貴様の主人に抗議しなければならないなぁ!」

「ぐっ……⁉」


 下手に言い返すものならリスティアお嬢様に迷惑が掛かってしまうのは間違いないだろう。

 予想外の展開に思わず声を上げてしまったが、そんな事態になるのを俺は望んでいない。


 ────だったら、ここは冷静に我慢しとくべきだ……!


「ハハハハ! どうやら言葉も出ないようだな! 噂では余程の強者だと聞いていたがやはり貴族には刃向かえまい! ハハハハハ!」


 そうしてディアンの言葉に反論せずに俺が口を結んでいると、


「あの……ちょっといいかな?」


 ユーリィさんが俺たちの間に割って入ってきた。


「どうした、特待生? 目を覚まして俺の派閥に加わる決心がついたか?」

「ううん、そうじゃないよ」

「……なら黙って見ているといい」

「そういう訳にもいかないよ。喧嘩はよくないことだもん。それに、そもそも何でディアンくんはそんなに怒ってるの?」

「そ、それは……。貴様を誑かそうとする悪人を成敗しようと……。そうすれば貴様も目を覚ますに違いないからな……!」

「……そっか。わたしの為だったんだね」


 ユーリィさんの問にディアンはしどろもどろになりながらも答え、ユーリィさんはディアンの言葉を真剣に受け止めていた。


「ありがとう。でも、だったら怒る必要なんてないよ。わたしはどの派閥にも入らない。これで喧嘩しなくて済む筈だよね!」


 ユーリィさんはあっけらかんとどの派閥にも入らないと宣言するが……。


「……貴様、分かっているのか? 派閥勧誘を断れば派閥の面目が立たなくなる。スィエルディーチ派閥を敵に回したいのか……? 学園での居場所が無くなるぞ? どの派閥に与するかは貴族として最も重要視すべき事の筈だと教わらなかったのか?」


 それを耳にしたディアンは冷たい目でユーリィさんを見つめる。


「……そうかもしれないね。でもわたしは派閥なんて関係性に囚われたくないかな……。ジークリット先輩やオチバくんとも友達でいたいし、これから会うリスティアさんとも沢山お話してみたいもん。……それにディアンくんとだって仲良くなりたい」

「ばっ……⁉ 貴様……! そんな気恥ずかしい台詞を平気で口にするな……!」

「恥ずかしくなんてないよ。本心だもん。ねぇ、これって派閥がどうとかじゃなくてわたしとディアンくんの気持ちさえあれば叶えられると思うんだけど……。どうかな……? わたしと友達になってくれる……?」


 ユーリィさんに見つめられたディアンは頰を染め、視線を逸し、葛藤した末に(ようや)く言葉を絞り出した。


「お、お前みたいに常識のない田舎貴族を引っ張ってやるのも公爵家としての務めだ……! 仕方ないからこの俺が友達として厳しく指導してやる! 感謝するといい特待生、いや……()()()()()()()()!」

「……‼ ありがとう! これからよろしく、ディアンくん!」

「だ、だが忘れるな! 俺は貴様がスィエルディーチ派閥に入らないと宣言したことを認めた訳じゃない! これは俺のプライドの問題だ……! いつか俺の派閥に入りたいと貴様に言わせてやる……! それとアーディベルの従者、オチバ・イチジク! 貴様とはいずれ決着を付けてやる!」


 早口で言葉を捲し立てたディアンは取り巻きたちの事も忘れて走り去っていき、取り巻きたちもそんなディアンの後を追いかけて消えていった。


「あれ、行っちゃった……。でも、名前は覚えてくれたみたいだし、()っか!」


 名前を覚えてもらってユーリィさんは満足気だが……。


 ────嘘だろ……? 勘弁してくれって……。


 ディアンに名前を覚えられるどころか完全に目を付けられてしまった俺は全く心が落ち着かないのだった。

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