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よろしくお願いします。

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 背後から聞こえた声に嫌な予感を覚えながら振り返ってみると、そこには想像していた通り昨日俺たちに絡んできた青い癖毛の青年とその取り巻き達の姿があった。


 ────確かあの青い癖毛はスィエルディーチ公爵家の子息の……名前は確かディアンとか言ってたっけか。


 スィエルディーチ公爵家。それはロイライハ帝国北部の広大な寒冷地帯を領地に持つ大貴族の家名だ。


 スィエルディーチ家は領地に鉱山や森林といった豊富な資源を持つが、それと同時に多くの魔獣が各地に生息しており、昔から魔獣討伐を伝統としてきたスィエルディーチ領では武闘派な考え方が強く根付いていると聞く。


 又、スィエルディーチ家のもう一つ特筆すべき情報としてアーディベル家との仲の悪さが挙げられる。

 アーディベル家は“協調性”を重視するのだが、スィエルディーチ家では“強者”を重視する傾向にあるのだ。

 その考え方の違いが両家を常に対立関係に導いてしまうのだとか。


 などと俺の知る限りのスィエルディーチ家についての情報を洗い流していると……。


「なっ……!? 貴様は昨日の……!! くっ……! 先を越されたか……!!」


 ディアンは俺を見つけると険しい表情を露わにする。


 しかし、


「……いや、どうやら貴様の主人はいないようだな。だったらわざわざ貴様と話すこともあるまい。従者風情は下がっていろ。用があるのは特待生の方だ」


 ディアンの目的はどうやらユーリィさんと接触することにあったらしい。

 辺りに視線を散らして周囲にリスティアお嬢様がいないと見るや否やディアンは早々に俺のことを視界から外し、その視線をユーリィさんへと向かわせた。


「確認するが、貴様が特待生で間違いないな?」

「そうだけど……。わたしに何か用かな……?」

「ハッ! 用がなければ公爵家の俺がわざわざ貴様のような貧乏人に声など掛けるものか。……よく聞け特待生。俺の名はディアン・スィエルディーチ! 皇帝陛下より帝国北部一帯を任される大貴族、スィエルディーチ家に名を連ねる選ばれし人間だ」

「スィエルディーチ家って……。あの、公爵家の……!? あっ! わたしはユーリィ・マヤリス! えと、よろしくね! ディアンくん……!」


 相手が公爵家だと分かって焦る様子を見せたユーリィさんだったが、どうやらジークリット公女殿下から教わったセアリアス学園の規則を思い出したようで気さくな態度で挨拶を返す。


「…………随分と無礼な態度だな。本来なら許すべきではないが今日の所は聞き流しておいてやろう。だが、家名持ちだと? それは聞き捨てならないな。つまり貴様は貴族か商家ということか?」

「あ、あははー……。えーと、はい……。一応は男爵家といいますか……」

「ハッ! 嘆かわしい……。その服装で平民だとばかり思っていたが、まさか帝国貴族だったとは……。いや、特待生にならなければ学園にこれなかったということは余程田舎の貧乏貴族だったのだろう。だとすれば、俺と出会って貴様は幸運だったな。これからはそんな貧乏な思いなどしなくとも済むぞ。特待生、貴様を今からスィエルディーチ派閥へと迎え入れてやろう。光栄に思え」

「は、派閥……?」


 半ば強引にユーリィさんを自身の派閥に加わらせようとするディアンだが、ユーリィさんはそもそもこの状況についていけていない様子だ。


「どうした? 遠慮する必要はあるまい。スィエルディーチ派閥に加われば俺が色々と援助してやると言ってるんだ。悪い話じゃないだろう?」

「その、話が急過ぎるというか……」

「ディアンくん。そこまでにして下さい。ユーリィさんが困っているでしょう」


 参っているユーリィさんにいよいよ助け船を出したのはジークリット公女殿下だ。


「おや、昨日ぶりです。公女殿下様。ですがこれは帝国の未来を左右するやもしれぬ重大な派閥についての話です。中立を公言する貴女に口を挟む権利はあるのでしょうか? 見方によっては、“ヴィッツ家は中立的な立場を放棄した”と捉えられてもおかしくないですよ?」

「……っ! そうではなく、私は無理強いするのを止めるようにと……!」

「ほう……? 俺の勧誘が無理強いですか。ではそこの()()()()()()()()()はどう説明するのです? 外堀を埋めるようにして逃げ道を塞ぎ、ゆくゆくは派閥に取り込もうとしているのが透けて見えるのですが……。それは無理強いではないと?」

「そ、それは……」


 ジークリット公女殿下は言葉を詰まらせてしまうが、それも致し方ない事だろう。

 そもそもジークリット公女殿下は、俺とユーリィさんがどのようにして知り合ったのかも知らないのだ。

 中立を公言しているのならば無責任な発言を軽はずみにすることはできない。


 とはいえ、俺は派閥勧誘を目的にユーリィさんへと近づいた訳ではない。

 しかし、現状それを訴えた所で証明する手段はなく、傍から見れば確かにディアンの言うように見えたとしてもおかしくないのかもしれない。


 ────それに下手に口を挟んでリスティアお嬢様に迷惑かけたくねぇしな……。


 俺は口出ししたい気持ちを律して静観を心掛ける。


 だが、ユーリィさんの心は大きく揺さぶられているようであった。


()()()()()()()()()……? それって公爵家の……あのアーディベル家……? え……? じゃあオチバくんの仕えてる人って……」


 呆然と俺を見つめるユーリィさんの表情には戸惑いの色が浮かび、やがて顔を俯かせてしまう。


 ────くっ……。先入観なしにリスティアお嬢様と会ってもらおうって考えたのが裏目に出ちまったか……。


「何だ? ……ハハハッ! そうか! 特待生、貴様はアーディベルの従者に騙されてでもいたのか! アーディベルも小賢(こざか)しい手段を取るんだな! だが俺はそれを責めんよ! 特待生ともなれば高い能力を持っているのは確実だからな! 貴様らアーディベルも是が非でも特待生を派閥に引き入れたかったのだろう!」


 ディアンは形勢有利と確信したのか、更に言葉数を重ねていく。


「悩む必要はあるまい! 従者ごときを遣わしたアーディベルに対して、スィエルディーチは当主の子息である俺が直々に貴様を勧誘しに来てやったのだ。どちらが貴様を厚遇しているかなぞ一目瞭然! それに我がスィエルディーチ派閥に与すればそんな泥臭い格好なぞしなくて済むぞ? ハハハハハ!」


 高笑いするディアンと顔を俯かせるユーリィさん。


 場の空気は重苦しく、ディアンを除いて静まり返っていたのだが……。



「もーっ、オチバくん! そういう事は早く教えといてよー!? あっ! ディアンくんは教えてくれてありがとう!」



 ユーリィさんが心の底からホッとしたような声でそう言い放つと重苦しい空気は一瞬で消し飛んでいった。


 さっきまで眉間にシワを寄せていたジークリット公女殿下も、高笑いしていたディアンもユーリィさんのあっけらかんとした態度を見て唖然としている。


 そしてそれは俺も例外ではなく……。


「は、はは……! マジか……! ポジティブ過ぎんだろ……!」


 ユーリィさんのその予想外な発言に思わず笑いが溢れてしまう。


 しかし、


「は……? 意味が分からんぞ……。どうして貴様が俺に礼を言う? いや、そもそも俺の話を聞いてどうしてそんな話になる……!!」


 話の腰を折られたディアンとしては面白くないのだろう。強い口調でユーリィさんに噛みついていく。


「え? だってわたしリスティアさんが公爵家だなんて知らなかったし、今ここで知れて良かったな〜って……。知らなかったら絶対わたしリスティアさんに変な事しちゃってると思うもん……。だから本当に教えてもらえて助かったよ。ありがとう、ディアンくん」

「なっ……⁉」


 だがそんなディアンの噛みつきにもユーリィさんは毒気の抜かれるような笑顔と再度のお礼で応じ、ディアンは信じられないとばかりに絶句するのだった。



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