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よろしくお願いします。

 

 セアリアス学園の門を潜って直ぐユーリィさんは入学に関する手続きで近くに設置された天幕へ向かい、俺は天幕から少し離れた位置でユーリィさんが戻るのを待っていたのだが……。


「……ユーリィさん、随分時間が掛かってるみてぇだな」


 三十分ほど時間が経過しても未だユーリィさんが天幕から出てくる気配はなかった。


「レファリオが向かった時は直ぐだったけど、やっぱりなんだかんだ公爵家ってことで融通されてたのかもな……」


 思えば俺やリスティアお嬢様に絡んできた昨日の青い癖毛の生徒も身分を思い切り振りかざしていた。


 セアリアス学園では“貴族階級を重視していない”との話だったが、そう簡単な話じゃないという事なのだろう。


 ────ひょっとして、リスティアお嬢様が公爵家の人間だったからこの国の公女殿下が学生寮の案内役を任せられたりとか……?


 そんな事をぼんやり考えていると、


「……出てきたな。おーい! ユーリィさん、こっちだ!」


 (ようや)くユーリィさんが天幕から姿を現した。

 ユーリィさんは周囲をキョロキョロと見回し、俺を見つけると急ぎ足でやってくる。


「待たせてごめんね〜! 思ってたよりも時間が掛かっちゃって!」

「良いって良いって。時間には全然余裕あるしな。次は学生寮に向かうんだろ?」

「うん。その事なんだけど、実はもう一人来てくれる事になってね?」


 ユーリィさんはそう言いながら誰かを探すように天幕の方へ視線を巡らしていくと……。


「お待たせ、ユーリィさん! さっそく学生寮に案内するね!」


 ちょうど天幕から出てきた人物がユーリィさんに向かって声を投げ掛けた。


「はい! よろしくお願いします! ()()()()()()()()!」


 ユーリィさんが呼んだその聞き覚えのある名前を耳にして俺は直ちに背筋を正す。


「オチバくん、この人はジークリット先輩! 学生寮について色々教えてくれるんだって!」


 ユーリィさんが紹介するその人物はやはり俺の想像通りの人物だ。


 ────ジークリット・ヴィッツ公女殿下……。


 その家名と役職が示す通り、彼女はこのヴィッツ公国の公女である。


 そんな特権階級の頂点に近い所にいる筈のジークリット公女殿下だが、俺は彼女と昨日の段階で一度対面していた。


 というのも、彼女は昨日も学生寮の案内役としてセアリアス学園に着いたばかりのリスティアお嬢様とレファリオに付き添ってくれたからだ。


 ────つってもまぁ俺自身はジークリット公女殿下とまともに会話もしてねぇし、流石に他所の従者の顔なんて覚えてねぇだろうけどな。


 そう考えた俺はジークリット公女殿下に目礼での挨拶を済ませるのだが……。


「あれ……? 貴方はリスティアさんの従者の……」


 ジークリット公女殿下は俺の顔を覚えていた様だった。

 こうなってしまえば昨日ジークリット公女殿下にきちんと挨拶を済ませていない俺が取る行動は一つしかない。


「昨日はリスティアお嬢様がお世話になりました、ジークリット公女殿下。改めまして、俺はリスティア・アーディベル様の従者をしているオチバ・イチジクです」

「そうでした! オチバさんでしたね! 昨日のディアンくんの件では助かりました!」


 俺が名前を伝えるとジークリット公女殿下は両手を合わせてニコニコと笑顔を浮かべる。


 だが、


「え……? ジークリット先輩が公女殿下……?」


 ユーリィさんにとってそれは寝耳に水だったようだ。



 ◆◇◆



 案内を務めてくれる先輩がまさかの公女殿下だと知ったユーリィさんはそれはもう慌てた様子で気安い態度で接した事をジークリット公女殿下に謝罪し、それまで見せていた陽気な雰囲気は一気に鳴りを潜めてしまっていた。


 俺はてっきり“ユーリィさんはジークリット公女殿下の正体を知った上で打ち解けていた”と思っていたのだが、どうやらジークリット公女殿下はユーリィさんに自分が公女殿下だという事を隠して接していたらしい。


「もう、ユーリィさんが萎縮しちゃったのはオチバさんのせいですよ? はぁ、さっきまではあんなに懐いてくれてたのになぁ……」


 ジークリット公女殿下はため息を吐くものの諦めるつもりは無いのだろう。再びユーリィさんとの心の距離を元に戻そうとユーリィさんに声を掛け続けている。

 だがそうやってジークリット公女殿下がユーリィさんに距離を詰めれば詰める程、かえってユーリィさんは萎縮してしまっているように思えた。


 そして、そんな二人の様子を見て俺は深く反省する。


 ────ジークリット公女殿下にもだけど、ユーリィさんには特に悪いことしちまったな……。


 失礼な話だが、俺は露店街で会ってから今までのユーリィさんを見てきて、“ユーリィさんは誰に対しても物怖じしない人なのだ”と勝手な思い違いをしていたのだ。


「……ジークリット公女殿下、そしてユーリィさん。二人の仲をぎこち無くさせてしまい申し訳ありませんでした」


 二人への申し訳無さから俺は心からの謝罪を二人へ送る事にしたのだが……。


「オチバさん!? そんな、止めてください! ちょっとした意趣返しのつもりで言っただけですよ!?」

「オチバくん!? わたしが勝手に縮こまっちゃってるだけでオチバくんは何も悪くないよ!」


 二人は同時に口を開き、更には互いの勢いある声にも反応して顔を見合わせる。


「「あ、あはは……」」


 気恥ずかしさからか二人とも照れ笑いを浮かべるが、その笑い方も二人は似通っていた。


「……なんだか、()()()()()()()()とわたしって少し似てますね?」

「……!! そうだね! きっとユーリィさんとはもっと仲良くなれる気がする!」



 ◆◇◆


 ギクシャクしていた時間が嘘だったかのようにジークリット公女殿下とユーリィさんは会話を弾ませ、偶に投げ掛けられる問や共感を求める声に俺が相槌を打っていると……。 


「え……? ユーリィさんって特待生だったのか……?」


 会話の中でユーリィさんが特待生としてセアリアス学園にやってきたという事を俺は知った。


「あれ? オチバさんは知らなかったんですか?」

「初耳ですよ……。 ユーリィさん、やっぱり只者じゃなかったんだな」

「えへへー! 何だか照れちゃうなぁ〜!」


 セアリアス学園の特待生になるのがどれほど大変なのかは調べた事があるので知っている。


 ざっくり説明すると、特待生制度とは“学費による問題で入学できない者の為の救済措置”のことだ。


 セアリアス学園に入学を希望する者は大勢いるが、その全てを受け入れる事は当然できない。

 だから巨額の学費を要求することで入学者を大幅に制限しているのだ。


 しかしそれでは金銭に余裕のある貴族や商人の子弟だけしか通えない学園となってしまい、才能のある者が学園に通えなくなるという事態が多発してしまう。


 そんな事態を出来る限り回避する為、学費が免除される特待生制度が導入されているという訳だ。


 そして肝心の特待生に選ばれる方法についてだが、それはセアリアス学園が取り決めた二つの条件を両方満たす事で認められる。


 その条件とは、『伯爵以上の爵位を持つ帝国貴族、又はセアリアス学園の教諭からの推薦を受けること』と『定期的に帝国各地やヴィッツ公国で行われる試験において優秀な成績を示すこと』の二つだ。


 それらの条件はどちらも金銭的に不利な状況下で容易に満たせるものではないだろう。

 その上、条件を満たしてもセアリアス学園が人気の学園であることから競争率だって高いに違いない。


 だが、ユーリィさんはそんな大勢の中から選ばれた一人なのだ。


 ────だからマジですげぇんだよなぁ……。他にも魔力は強いし、雰囲気も普通とは違う感じがするし……。もしかしてユーリィさんも何かしらの神と関わり合いがあったりして……。


 なんて思考に(ふけ)っていると……。


「ハッ! 特待生と聞いてわざわざ見に来てやってみればまさかそんなみすぼらしい姿の女とはな!」


 昨日も耳にしたような尊大な態度の声が俺たちに向かって投げられたのだった。



読んでいただきありがとうございます。


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