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よろしくお願いします。

 

 何でもセアリアス学園の教師陣は誰もがその道で名を馳せた専門家だとかで、彼らの手ほどきを受けるために帝国近隣の諸外国からも少なくない数の留学生が毎年やってくるのだと聞く。


 また、セアリアス学園を卒業する事は帝国貴族にとって非常に大きなステータスでもあった。


 というのもセアリアス学園は数多くの歴代皇帝を排出した名門であり、新たな皇帝を決める年にはロイライハ帝国を建国した立役者のロイ神・ライハ神が降臨する謂わば帝国民にとっての聖地のような位置づけでもあるからだ。


 ────とまぁ、俺が何を言いたかったのかと言うと……。


「──お疲れ様です。取り調べは以上となります」

「あ、どうも。こんな時間にすみません」


 それだけ有力な貴族の子弟を数多く抱えるセアリアス学園は生徒たちを守る為に一つの規則を設けており、私的な理由での学園外への外出を禁止しているのだ。


 要するに、俺は門の付近に設置された天幕でセアリアス学園の外に出る為の手続きに時間をめちゃくちゃ取られていた。


 ────やっと終わったぜ……。


 魔法が存在するこの世界ではどんな手段で生徒が外出しようとしているのかひと目で分からない。

 その為にこうして誰であっても門を潜ろうとする人物は例外なく取り調べされるのだという。

 これから毎回学園の帰り際にこの取り調べを受ける事になると思うと億劫だが、それが規則だというのなら仕方ない。


「……よし。取り敢えず門は出られた。これ以上遅くなったら道も見えなくなりそうだし早く施設の方に向かわなきゃな」


 そうして脳内地図を描きつつ、当初の予定通り使用人宿泊施設に向かって歩を進めていくとやがて豪邸が並ぶ区画へと辿り着き、俺の足はその一画に建てられた立派な洋館の前で止まった。


「ここがそうだよな……?」


 その洋館はアーディベル邸よりも圧倒的に小さいが、一般的な感性で言わせてもらえば十分に豪邸と断言できる建物だ。庭もついており、端の方には厩舎らしき小屋も確認できる。

 また、ここが目的地だと証明するように俺たちがここまでの道のりで乗っていた魔馬車も厩舎の付近に停められていた。


 一見すると優雅な別荘のようにも感じられるが、辺りが暗くなりつつある事も相まって何処となく不気味な雰囲気を帯びている。


「…………クラルテはいねぇみてぇだな。外から見た感じ屋内の灯りも付いてねぇし、どこか出掛けてるのか?」


 そんな疑問を呟きながら庭に足を踏み入れた瞬間、


「あなたがオチバさんですねー! お待ちしてましたー!」

「うぉっ!? な、なんだ!?」


 元気すぎる声がいきなり耳元から聞こえてきた。

 俺はその大声に驚いたはずみで前のめりに(つまず)くが、何とか姿勢を保って背後に目をやる。


 しかし、


「……え? 誰もいない?」


 確かに耳元まで近づいていた筈の声の主の姿は何処にもいなかった。


「キャハハ! 上ですよー! 上ー!」

「上……?」


 聞こえた声に導かれるように見上げてみると、


「初めましてー! ロルフさんから聞いてますよー! オチバさんですよねー? わたし、アーディベル家の色んな施設の管理を任されてるルーギッド・オペレーっていいまーす! ()()()()()!!」


 俺を頭上から見下ろしているゴスロリ風の西洋人形と完全に目があってしまうのだった。



 ◇◆◇



「キャハハ! う~ん! 残念!! もっと驚いてくれると思ったんですけど最近の人はこういうドッキリに強いんですねー! クラルテさんも全然驚いてくれなかったですしー!」


 ────いや、十分に怖かったっての……。


 ルーギッド・オペレーは紛うことなき西洋人形、つまりビスクドールの体を持っていた。

 全長は約40センチ程。青いグラスアイが瞳に埋め込まれ、巻かれたブロンドヘアは腰まで伸びている。


 ビスクドールを見慣れていない俺からしたら先程の邂逅は完全にホラーだったとしか言いようがない。


 辛うじて俺がこの場から逃げ出さなかったのは、このルーギッド・オペレーと名乗るビスクドールがアーディベル家に仕えていると自己紹介した事に加え、ロルフさんの名前も口にしていたからだ。

 また、もう一つ理由を挙げるとするなら俺がクルエル教というもっと怖い存在を知っていたから、というのもある。


「改めてわたし、ルーギッド・オペレーって言いまーす! 気軽にルーギッドさんって呼んで下さいねー! あっ! ルーギッドちゃんも可ですよー! それとカジュアルな言葉遣いが推奨でーす! 幽霊だけどこれからよろしくでーす!」

「あ、ああ……」


 ルーギッドさんはこの屋敷を預かる管理人だ。部屋を間借りさせて貰う身として出来るだけ家主の意向には沿っていきたい。


「えーと、俺はオチバ・イチジク。これからよろしく、ルーギッドさん。……それでなんだけど、クラルテは何処にいるんだ? 姿が見えないけど」

「キャハハ! まだちょっと固いですねー! でもそれはこれから慣らしていけばいいですかね! それでクラルテさんですか? 確かナンとか因子があるか調査しに行って来るーって言ってた気がしますねー」


 ────そういやクラルテの目的は魔王因子の被害を抑えることにあるんだったな……。


 アーディベル邸でも時間を掛けて調査してた事を考えると今回の調査でもかなりの時間が掛かる事が予想されるだろう。


「では早速屋敷の案内をしましょうかー!」


 張り切るルーギッドさんに付いていき、屋敷の間取りを次々と案内されていく。


 その傍ら、自己紹介を兼ねてルーギッドさんは自身が幽霊になった経緯について口を開いていた。


「実はルーギッドさんがこんな幽霊になっちゃったのはルーギッドさんの固有魔法の影響みたいなんですよねー! 幽体魔法って言うんですけどー」

「幽体魔法?」

「そうですそうですー! 簡単に言えば、幽体離脱する魔法ですねー! 魔力さえ補えれば疲れ知らずで色んな場所を高速で見回りできる便利な魔法なんですよー! この魔法のお陰でアーディベル家に雇われましたからね、わたし! こう見えて生前からアーディベル家に仕えてるエリート先輩使用人なんですよー! あ、でも目上だからって敬語とか止めて下さいねー! 固っ苦しいんでー!」

「わ、分かった。……それで幽霊になった経緯ってのは?」

「はいはい! そうでしたね! 実はルーギッドさん、普通に老衰で大往生だったんですよー! でも、ルーギッドさんってば死の間際でも悪戯心を忘れないお茶目さんでして、ぽっくり逝っちゃう寸前に幽体になってみたんですよねー! そしたら元に戻れなくなっちゃいましてー! キャハハー!」

「えぇ……」

「そんな感じでルーギッドさんは悪霊とかではありませんのでご安心をー!」


 ────まぁ、ルーギッドさんの人柄はよく分かったかな。


 中々にテンションのおかしい幽霊ではあるが、低いテンションの幽霊よりかは断然良いだろう。


 これならばこれからの居候生活もそう心配することはないかもしれないと安心したところで、


「あ! そう言えば部屋を間借りさせる対価の話をしてませんでしたねー!」


 ルーギッドさんから重要な話題が飛び出してきた。


 ────ついに来たか……!


 この屋敷の一室を借り受けるに当たって俺はウルリーケ公爵から許可を得ているが、何も客人としてただで住まわせてもらえるという訳ではない。

 あくまで俺はアーディベル家の使用人としての立場でここにいるのだ。一介の使用人としての立場である以上、この洋館の管理人であるルーギッドさんから仕事を言いつけられたらそれを無視する訳にはいかない。

 因みに客人扱いとなったクラルテにこれは適用されていない。


 ────見た限りこの屋敷の使用人はルーギッドさんしかいない……。仮にこの洋館を全部清掃するってなったらかなり骨が折れるぞ……。


 ルーギッドさんの次の台詞に戦々恐々とするが、


「ここに住む間はルーギッドさんに供物を捧げて下さいね! うんと甘いお菓子とかがオススメですよー! あっ! 朝昼晩の三食とおやつに夜食も忘れないで下さいねー!」

「…………まぁ、それくらいなら」


 どうやらその心配は無用だったようだ。



 ◇◆◇



 その後ルーギッドさんから幾つか屋敷の取り扱いについて教わった俺は、早速ルーギッドさんに対する供物と自分の夕飯を調達しに夜中でも開かれているという大通りの露店街へとやって来ていた。


「本当に昼間と変わらないくらいに活気があるな」


 今年はライハ神が降臨する年という事で露店街はまだまだ寝静まる気配を見せていない。


 何かの肉を焼いた屋台や芸術性があるのかないのか分からない置物を商品として並べる露店に、魔道具を専門とした露店などがずらっと並んでいる。


 どれもお祭り価格且つ夜中の販売だからなのかアーディベル領や帝都で見た商品の値段よりも割増で売られているが、コンビニの無い世界だと思えば夜に買う分には良心的にも思える。


 ────まぁ、そう思えんのも自由に使えるお金が十分にあるからだろうな。


 これも何だかんだ半年近く公爵家で使用人をしていたお陰だ。


「まぁ、使う暇がなかっただけな気もするけど……。取り敢えずは見て回るか」


 甘味の売ってる屋台を幾つか見繕いつつ、時折気になった食べ物を購入しては露店を巡る。

 そうして様々な露店を巡っていると、“珍しい魔道具がある”という触れ込みで客寄せをする露店がやけに多いのが分かる。


 例えば、“魔力を攻撃性能の高い魔弾に変換する魔銃”や“魔力を注げば防壁へと変化する魔障壁”などだ。

 彼らは目の前で実演しながら販売しており、確かに優秀な魔道具にも思える。


 ────でも、肝心の魔力が尽きたらどうしようもねぇんだよな。


 俺には魔力がなく、俺が一日の中で使える魔力の量はタリスマンから生成される魔力に限定されている。

 実演に消費された魔力の話を聞く限り、タリスマンの魔力を用いたとして俺が魔銃や魔障壁を使える回数は多くても二回が限度だろう。


 ────それにただでさえ魔力で身体を強化できない身だしな。使い捨てって割り切るにしたって重量になる荷物は命取りだし……。うーん、どれも俺には過ぎた性能なんだよなぁ。


 目ぼしい魔道具は見当たらなかったものの、目ぼしい屋台を見つけてまぁまぁ満足した俺はそろそろ露店巡りを終わりにしようとし、


「ん? あれって……」


 一つの露店を見つけて足を止めた。


 その露店ではどうやら旅道具を専門に扱っているようで、地べたに広げられた敷物の上には旅のお供として有用な道具ばかりがずらりと並んでいる。


 ────実際に助けられてる身としちゃ、魔道具よりこっちの道具の方が気になっちまうな。掘り出し物が見つかるかもしんねぇし、最後にちょっと覗いてみるか。


 そうして俺はこの旅道具を取り扱う露店に向けて歩を進めるのだった。




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