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 元々スクラヴェルバウム商会はラスバブがクルエル教の国を作り上げる為の土台として創設した組織だった。

 しかし、何もその構成員の全てがクルエル教徒という訳ではない。

 商会としての表向きの顔を維持するためにもスクラヴェルバウム商会はあらゆる人員を迎え入れる体制を敷いているからだ。

 そして組織が肥大すればするほど様々な交流が増え、スクラヴェルバウムはやがて凶悪な犯罪者たちとも繋がりを持つようになり、多くの構成員を従える組織となった。

 無論、そのようにして不特定多数を招いて大きくなった組織にクルエル教の信者はそう多くない。

 もちろん中にはクルエル教の教義に心酔してクルエル教徒となる者もいたが、その殆どは強大になっていくスクラヴェルバウムの後ろ楯を手に入れるために恭順の意を示す者がほとんどだった。

 だがラスバブはそれを知った上で彼らをスクラヴェルバウムへと招き入れる。

 何故ならラスバブが彼らに求めたのは組織への忠誠ではなく、戦力としての役割であり、彼らの悪名によるラスバブの隠れ蓑としての役割だからだ。

 既にスクラヴェルバウムの内部は細分化され、今やスクラヴェルバウムを立ち上げた存在を知る者はいない。

 故にスクラヴェルバウムがどれだけ目立とうとラスバブの名前が世間に広まる事はないのだ。

 普通、組織のトップが分からないというのは大きな問題だろう。

 だが、スクラヴェルバウムに所属する彼らにとってそんなのは何ら気にする事ではない。

 それというのも、多くの犯罪者を取り込んで強大な武力を得た今のスクラヴェルバウムを取り締まれる組織がこのモルテ=フィーレ共和国に存在しないからだ。


 彼らスクラヴェルバウムはこのモルテ=フィーレ共和国において暴力の頂点に君臨している。

 

 だが、そんな彼らの天下はより強力な暴力によって粉砕される運命にあった。



 ◇◆◇



 モルテ=フィーレ共和国の東端区域にスクラヴェルバウム商会が所有するパーティー会場があった。

 そこでは今まさにスクラヴェルバウムによるパーティーが開かれ、大勢の人がパーティーの装いをしている。


 そしてその上空では魔方陣により浮遊するネーロと彼にしがみついているリーノがパーティー会場を見下ろしていた。


「とうとう追い詰めたぞイチジク」

「……あんたさっきから見つけるスクラヴェルバウムの建物全部にそれずっと言ってるわね。わたしから見れば滑稽が過ぎるわよ?」

「…………振り降ろしてやってもいいんだぞ?」

「やれるものならやってみなさいよ。竜人な怪力を舐めないで」

「チッ、面倒な奴だ」

 

 シャンスからオチバの情報を得たネーロは先程から手当たり次第にスクラヴェルバウムの所有する建物に赴いては襲撃を行っていたのだが、今のところどの建物にもオチバの姿は確認できていない。


「……腹が立ったな。次は派手に行こう」


 ネーロは片手を下方のパーティー会場へ向け、魔力を圧縮した魂をいくつも空に浮かべていく。


「ちょ、ちょっとネーロ⁉ それはやりすぎじゃない⁉ もしかしたらあそこに───」


 リーノの静止を求める声にネーロは耳を貸さず、高出力の魔力弾がパーティー会場に放たれた。

 しかし、発射された魔力弾は会場に直撃せず周囲に降り注ぎ、会場の周囲は魔力弾によって生じた火柱で包まれる。会場の正面出入口以外の逃げ道を塞いだ形だ。


「先程は逃げようとする輩がイチジクかどうかを確認するのに多少手間取ったからな。逃げ場を統一すればその手間も省ける」

「あんたね……。本当に心臓に悪いわ……」


 そうして二人はこれまでに壊滅させたスクラヴェルバウムの施設同様に会場の入り口へと降り立つ。


「さぁ、パーティーの始まりだ」

「……それもさっきから聞いてるわね」


 状況は殆どネーロの思惑通りと言ってもいいだろう。

 パーティー会場にいる人のほぼ全ての人はパニックに陥いり、正面出入口へと殺到していた。

 

 だが、荒くれ者や脛に傷を持つ者を多数抱えるスクラヴェルバウムにはこのような事態にも対応できる猛者が集まっている。彼らは襲撃者であるネーロとリーノを見つけるや即座に応戦するのだった。



 ◇◆◇



「いったい何が起こってやがる⁉」

「膨大な魔力の塊で攻撃された……? でも会場そのものには被害がないし……。外した? いや、違う……! 逃げ道を塞ぐのが目的なんだ!」


 まさにこれからオチバの居場所を探る為に靄の持ち主の魔力を辿ろうとしていたクラルテとノイギアだったが、突如として聞こえた轟音と地鳴りに二人とも意識を向けずにはいられなかった。

 

「って⁉ うわわっ⁉」


 直後、パニックに陥った会場は逃げ惑う人々で互いを押し合い、クラルテは人波に流されそうになるが、(すんで)の所でノイギアに首根っこを掴まれ、パーティー会場の柱の陰に上手く身を隠す。


「……逃げ道を塞ぐってことは、ここにいる誰かに用が有ると見えるな。心当たりはあるか? 因みに俺はない」

「う〜ん、ないとは言い切れないかな……」

「ならお前が狙いじゃないことを祈ろう。どうやら今は他の奴らがこの惨状を引き起こした奴らと応戦してるようだ。なら今の内にお前さんは(もや)の魔力の持ち主の居場所の特定を急いでくれ」

「そうだねっ!」


 そうしてリーノとネーロの二人とスクラヴェルバウム勢力のぶつかり合いは、まもなく前者二人の圧倒的な武力と魔力によって決着が付く頃合いとなっていた。


 ────それにしても奴らは何者だ……? あの強さは只者じゃない……。

 

 ノイギアは柱の陰からスクラヴェルバウム勢力を蹴散らした二人組を観察するが二人の顔に見覚えはない。ノイギアに分かった事と言えば、この二人が誰かを探しているという事くらいだろう。

 二人組──リーノとネーロは今しがた蹴散らしたスクラヴェルバウム勢力の顔をマスクを外して一人一人確認するといった様子を何度も見せていた。

 

「……こいつも違うわね。逃げた中にも見当たらなかったし、ここには居ないんじゃない?」


 リーノはマスクを外させた人たちの中にオチバの姿がないことを確認し、次の場所へ行くことをネーロに提案する。


 ────よし、このまま大人しく去ってくれよ……。

 

 そしてノイギアは二人組がこの場を去る兆しを見せた事に安堵するのだが……。


「何を言っている。まだそこに隠れている者がいるだろう」


 残念ながらノイギアの願いは叶わない。ネーロは柱に隠れるノイギアたちの存在に気づいていた。


「ノイギアさん、こうなったらボクが時間を稼ぐからその内に逃げて」

「……まぁ待て。見たところこいつら殺しまではしてないようだ。落ち着いて対応すれば見逃してもらえるかもしれん」


 ノイギアは意を決すると両手を上げて柱の陰から身を出す。


「降参だ。俺に敵対意思はない。お前さんらが何を目的にしているのか分からんが、こんな(じじい)を痛ぶるのが目的って訳じゃないだろう? ならここは見逃してくれたりやしないかね?」

「……ネーロ、この人はどう見ても違うわ。それにもう一人の方も違う。言っておくけど、わたしだってこの人たちの気配には気づいてたわよ? 気配からしてこの人たちは違うって分かってたから敢えて放って置いたの」

「ふん……。だがもう一人が柱から出てこないようだが? それはこの私に隠し事があるからだろう? 魔を統べ、王となるこの私に隠し立ては通じん」

「あんたねぇ……。はぁ、ごめんなさい。コイツちょっと強いからって自分のこと魔王とか言っちゃう頭がイっちゃってる奴なのよ」

「魔王? …………っておいっ⁉ 待てクラルテ!」


 魔王の名前が二人から出たのを聞いたクラルテはノイギアの静止を待たずに柱の陰から姿を現していた。


「…………魔王、うん確かに感じる。そっか。キミはボクが気づかないほど精密な魔力操作が出来るってことだね」

「ほら、やっぱりイチジクじゃないわ。これで満足したでしょ。次に行くわよネーロ」


 クラルテの姿を確認し、オチバではなかったと確信を得たリーノはネーロに次を促すのだが……。


 ────イチジク……! オチバのことだ……‼ この人たちはオチバを狙ってこんな事を……‼


 リーノの口からオチバの名前が出た事でクラルテは二人の狙いがオチバにあると知ってしまった。


「……呑気なものだな。あちらは私たちを行かせるつもりはなさそうだぞ?」


 そしてクラルテから向けられた戦意にネーロが反応する。


「嘘でしょ⁉ ちょっとあなた止めて置きなさい! こいつ、こう見えて結構強いのよ⁉ 見てたでしょ⁉」 

「心配してくれてありがとう。でも大丈夫。……キミは魔王因子の保持者じゃないみたいだね。よかった。でも彼は間違いなく魔王因子の保持者だ。ならボクが止まる理由はないよ」


 リーノはネーロに敵対意思を向けるクラルテを止めようと声がけするが、クラルテの意思は固い。

 

「なるほど。お前は私が王だと分かるか。そうか、つまりお前も王を目指す者という訳だな?」


 また、そんなクラルテに対してネーロも乗り気な様子を見せていた。


「おい、クラルテ……。お前、なんて顔してやがる……。お前らしくないぞ? 一旦冷静になれ」


 クラルテの鬼気迫る表情にノイギアも落ち着かせようと動くが……。


「ねぇ、キミたちはオチバを探してどうするつもりなの?」


 それでもクラルテは止まらない。


 魔王因子を保有するクラルテは、過去にクラルテの魔王因子を求めた別の魔王因子保持者に命を狙われた過去があった。 

 だからこそ、クラルテにしてみれば魔王因子保持者であるネーロが特定の誰かを探す理由なんて一つしか思い当たらない。


「オチバだと? ああ、イチジクのことか。無論、私の王としての力をより強固とするために役立ってもらうつもりだ。……そうだな、お前もなかなかに興味深い。降した(のち)、私が上手く使ってやろう」


 その返答は、“ネーロが魔王因子を取り込む為にオチバを探している”というクラルテの仮説をより強くする。


「私の名は、ネーロ・エンブラオン。魔王が滅びし今、この世の全ての魔を導く王となる者だ」


 一触即発の空気の中、ネーロが尊大な態度で名乗りを上げ……。

 

「……ボクはクラルテ・フライハイト。魔王因子を持つ人を狙っているなら、ボクもその一人だ。オチバを狙いたいなら先ずは勇者であるボクを倒してからにしてもらうよ!」


 呼応するようにクラルテも名乗りを上げ、戦いの火蓋が切られた。

 

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