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よろしくお願いします。



「な、なァ!? 何故ェ!? あの状況で金貨の在処を特定出来る筈がありませン!? それにどうしてアナタがワタシの欠けた殻の位置を知ってるのですかァ!?」


ダルメジアは自身が敗北した事実を認識して激しく狼狽していた。


卵人族(たまごびとぞく)の欠けた殻の位置は千差万別ゥ! アナタが的確に当てることがそもそも不可能なのですよォ!? それに欠けている場所は帽子で隠していたというのにィ!? 何故何故何故ェェ!! アナタが知っているのですゥ!? いったい何処で知り得たというのですかァ!!」


いや、狼狽している本当の理由は“賭け勝負に負けたから”ではなく、“誰も知り得るはずのないダルメジアの情報を俺が知っていたから”なのかもしれない。


「へぇ〜、そうなのかよ。卵人族ってのはそんな特徴があったのか。そいつは知らなかったぜ」

「知らなィ!? そんな筈がないでしょウ!? 今のがただの偶然だとでも言うつもりですかァ!?」

「ああ、偶然みたいなもんだ。偶々、“金貨が何処に隠されてるのか教えてくれる声”が聞こえてよ。俺はその声を信じて答えただけだぜ」

「声が聞こえたァ!? 何を言ってェ……!! そんな馬鹿な話がァ……! まさかァ!? アナタもルフナ様と同じ“心を読む魔法”を持っているとでもォ!?」


ダルメジアはどうやら俺が魔法を使ったと推測したようだが、当然そんな事は有り得ない。


「おいおい、んな訳ねぇだろ。“魔法が使えない”ってのは、賭け魔法が定めたルールだ。仮に俺の魔法がルフナと似たようなもんだとしても魔法を発動出来ない事には変わりねぇ。そうだろ?」

「だ、だとすればァ! アナタはやはりルフナ様の手を借りて正解を知り得たということですねェ……!! それはルール違反ですよォ……!!」

「ルール違反じゃねぇよ。正確には、“外野の声が聞こえなくなる”ってルールだ。ルフナの手を借りることはどこもルール違反じゃねぇ。つーか、ルール違反なら賭け魔法がそういう判定を下すんだろ? 自分で言ってたじゃねぇか」

「ぐぐぐぬゥ!? だとしてもォ!! ルフナ様の魔力切れがこんな短時間で回復するなど有り得ないでしょウ!?」

「ははっ……! それは、()()()()()のお陰だろうな。オチバが渡してくれたこの魔道具が少しずつ俺の魔力を回復してくれたのさ」


ダルメジアの抗議に対して声を上げたのはルフナだ。

そしてその手には俺が貸し与えた()()()()()がある。

タリスマンには魔力が宿っており、所持者に少量ながらも魔力を与える能力があった。

だからルフナがダルメジアとの賭け勝負に負けた直後、俺はルフナに金貨を隠すと同時に魔道具であるタリスマンも手渡していたのだ。


「いェ……! いェ……!! それでも辻褄が合わないでしょウ!? それでルフナ様がワタシの心を読めたとしてもォ! それをアナタに伝える術はなィ!!」

「その通りだぜ。だからここからは賭けだった。ルフナの“伝心魔法”が、その名の通り“()()()()()()”だって可能性にな……!」


ルフナの魔法である伝心魔法。

それはルフナ自身が相手の心を読む魔法だ。

しかし、そうであるならば何故“伝心魔法”なんて名称だったのか。


「伝心って言うからには、“他人に自分の心を伝える力”があったっておかしくねぇ。俺はその可能性に賭けたんだよ」

「そしてオチバはその賭けに勝った。オチバが俺の魔法を信じてくれたからこそ、俺はその可能性に気付く事が出来た。後は、“貴殿の心を読んで金貨の在処を知った俺がオチバにその在処を伝えた”というだけの話さ」

「そ、そんなものはイカサマでしょウ!? 心の内とはいえ言葉を耳にしたというのならそれは紛れもなく…………!!」

「何度も言わせんなっての。他でもないお前の賭け魔法が“問題ねぇ”って判定を下したんだよ。潔く負けを認められねぇのか? 全く、()()()()()()()()()

「ぐぎぎィ!?!?」


先程の仕返しにダルメジアから受けた言葉をそのまま送り返してやると、憤怒したダルメジアは次第に全身を真っ赤に染めていく。


「認めませんよォ……! こんな事が認められて良い訳がなィ……!! ワタシが負ける事などあってはならないのですよォ!!」


ダルメジアの雰囲気に約束が反故にされてしまう可能性が頭を過るが、


「ですがァ…………。賭け勝負で賭けたモノを清算しなければならないのもまた事実ゥ。致し方ないですがァ、“兎人(うさぎびと)の解放”と”アナタ方三名が裏町から脱出するまで手を出さない”という約束は守るとしましょウ……」


どうやら賭け勝負での約束を反故にすることはないようだ。


しかし、


「とはいェ……! 後から来たお仲間のことまで見逃すつもりはありませんけどねェ……!! 今度はアナタたちを餌に再び呼び寄せるだけですよォ!!」


直後ダルメジアは液状化魔法で幾つもの分体を作り、その分体を目標に向けて走らせる。


だが、


「状況はよく分かんねーけど、向こうから攻撃して来たって事はやり返しても構わねーってことだよな?」

「構わないでしょう。大人しく攻撃される(いわ)れがありません」


それはダルメジアにとって決定的な間違いだった。


一斉に走り出したダルメジアの分体が穴の空いた天井から差す月明かりに照らされた瞬間、その足下に映し出された“分体の影”が蠢き、分体と瓜二つの影法師がその動きを止める。


「なァ!? であるならばァ!!」


続いて本体のダルメジアは腕を液状化させ、もう一人の人物へ攻撃を仕掛ける。

しかし、その攻撃は紅い目を輝かせる少女に見切られ、その手に握られた剣によって次から次へと切り落とされていく。


「はィィ!? 何なのですかこの強さはァ!?」


レファリオとスピラの動きにダルメジアは驚きを禁じ得ず、


「この二人は手練れですねェ……! ならばもう一人の(ほう)を狙うまでェ……!!」


残る一人を標的にしようと首を向ける。


すると、


「ッ!?」


首を向けた目と鼻の先に残る一人(クラルテ)がいた。


「う~ん……。魔王因子は無いかな。でもボクの仲間に手を出したから少しだけお仕置きさせて貰うねっ!」


クラルテはそう言うと全身から魔力の光を発し、それと同時に風圧が生じる。


「あァッ!?」


そしてその風圧は目の前にいるダルメジアを軽く吹き飛ばし、ダルメジアは舞台下へと転がり落ちていった。


「頭がァ!? 卵が割れるゥ!?」

「うわぁ!? ご、ごめんねっ!? そこまでするつもりじゃなかったんだけど……!?」

「ゆ、許しませんよォ……!! こんな屈辱は初めてですからねェ……!! アナタだけは絶対にィ…………!?」


卵人族にとっての琴線(きんせん)に触れたのかダルメジアの怒りの矛先はクラルテへと集中する。


しかし、


「ま、待ちなさィ……!?」


月明かりに照らされたクラルテを確認したダルメジアはその顔面を一瞬にして蒼白にした。


「まさかそのマントはァ……!? ゆ、()()ですとォ!?」

「ん……? あっ、そっか! この辺りは帝国でも端の方だからこのマントを知ってる人もいるのかな? うん。ボクは勇者だよ!」

「ひィィィイ!?」


ダルメジアはクラルテの自己紹介を受けて震え上がり、腰を抜かしている。

いや、ダルメジアだけじゃない。

この場にいる無法者たちのほぼ全てがクラルテから逃げ出し始めた。


「えー!? 何でそんな反応するの!?」

「あー、ここじゃ仕方ねぇ事情があんだよ。何でもこの裏町は帝国の外でやらかした奴らが逃げ込む場所みてぇだからな。後ろめたい何かがあんだろ」


唖然(あぜん)とするクラルテに説明してやるが、それでもクラルテは納得がいかない様子だ。


「だってやっぱりちょっと不公平って言うか……。オチバだって魔王(ゲルトナー)を倒したんだから勇者みたいなものなのに〜!」

「お前……!?」

「ゆ、勇者が二人ィ……? ほっほーゥ……。既にワタシの野望は突き止められていたという事ですかァ……」


勇者の肩書きとはそれ程までに帝国の外では強力なのだろう。

ダルメジアは泡を吹いて失神し、クラルテとダルメジアの発言から俺を勇者だと誤解する無法者たちがざわめきを見せ始めた。


「ほら!? もう変な勘違いが起きちまってるじゃねぇか!?」

「えー!? これってボクのせいかな!?」


何とか誤解を解きたいところだったが、


「二人共いいですか? ルフナさんは外傷が無いようなので問題なさそうですが、アリクティさんの容態はかなり悪いです。急ぎで屋敷に戻って治療を受けさせる事を推奨しますよ」

「そうだった! こんな所で油を売ってる場合じゃねぇ!?」

「本当だ!? 急いでティミさんに見せなきゃだよ!?」


レファリオに二人の容態を聞かされた俺たちは慌てて二人を連れて屋敷に戻る準備に取り掛かる。


そんな中、


「なぁ? あの卵男はどうすんだよ? 何したかは知らねーけど、悪党なんだろ?」


スピラが泡を吹いて失神しているダルメジアの処遇を俺に尋ねてくる。


「…………確かにどうすっかな」


正直な話、“ダルメジアとはもう関わり合いになりたくない”というのが俺の本音だ。

叶うことならこのまま放置してこの場を去ってしまいたい程に。


だが、執念深いダルメジアをこのまま放置しておくというのも安心できない。個人的には投獄なり何なりして俺たちとは関われない状態にしておきたい所だ。


────けど、それは難しい話なんだっけか……。


確かルフナの話によれば、“裏町を仕切るダルメジアがいなくなると裏町が無法地帯と化してしまう”とのことだっと記憶している。


────流石に無法地帯になる切っ掛けにはなりたくねぇし……。マジでこいつどうしたもんかな……。


そんな調子でダルメジアの処遇について決めかねていると、


「オチバ。君は裏町の事情も、ダルメジアの事も気にする必要なんてない」


今まさに肩を貸して真横にいるルフナが、まるで俺の心を読んだかのようなタイミングで口を挟んだ。


「ルフナ……。あれ? もしかして今俺の心の中を……?」

「ははっ……! 残念ながらそうじゃない。相変わらず君の心は読めないままさ。だが、君が何に悩んでいるかくらいの想像はつく。そしてその点については安心してくれていい」

「……? あっ!?」


俺はルフナが視線で示した先を目で追い、その光景を見て思わず声を上げた。

ルフナの視線が示していた場所は、今の今までダルメジアが泡を吹いて失神していた場所だ。


しかし、今の俺たちにはそんなダルメジアの姿を確認する事は出来ない。


その理由は明快だ。


「あいつ、相当な恨みを買ってたんだな……」


幾人もの無法者たちが失神したダルメジアを取り囲んでいたからだ。

そして、ダルメジアを取り囲む彼らはその誰もが剣呑な雰囲気を纏っている。


「当然さ。ダルメジアは裏町で誰とも信頼関係を築いてこなかった。築いてきたのは支配による従属関係だけだ。……ははっ! もし俺が奴の傀儡になって皇帝になっていたら、俺も最後はあんな風になっていたのかもしれないな!」

「全然笑えねぇっての……。つーか、あれ下手したら死んじまうんじゃ……?」

「ははっ! 俺たちを散々な目に合わせた奴の心配をするとはな……。やっぱり君は面白い奴だよ、オチバ」


────いや、流石に殺人の片棒は担ぎたくねぇってだけなんだけど……。


「なに、ダルメジアの心配は不要さ。ダルメジアには他人から奪った膨大な魔力がある。そして賭け魔法の制約が解けた今、気絶しているとはいえダルメジアの体は魔力で強化された状態だ。ただのリンチで死ぬって事はまずない。痛みは伴うだろうがな」

「そ、そうか……」


────結構エグい事になってる気もすっけど、とにかく殺人の片棒を担がなくて済んでホッとしたぜ……。


「あ、そういやさっき言ってた『安心してくれていい』ってのは?」

「そのままの意味さ。君が悩んでいたのは、“ダルメジアの処遇”についてだろう? 放置するのも危険だが、捕まえる事で裏町を無法地帯にしてしまうかもしれないと君は危惧している」

「まぁ、そうだけど……」

「ははっ! だったら安心してくれ。今夜の一件で状況は大きく覆ったのさ」

「……どういうことだよ?」

「ダルメジアが裏町の支配者でいられたのは無敵の強者だったからさ。だがダルメジアはこれだけ大勢の前で、自分の縄張りで、しかも得意とする賭け勝負(ルール)で負けた。奴の絶対的な賭け勝負の強さが覆されたという訳だ。今夜の一件は明日にでも裏町中で持ち切りになる。そうなれば最早ダルメジアの言う事を素直に聞く無法者はいない。それどころか暫く奴は“魔法を禁止した賭け勝負”を挑まれ続ける日々を送るだろうさ」

「要は、ダルメジアは裏町での求心力を一気に失った上に、俺たちにかまける余裕も無くなったって事か……?」

「そういう事さ」


それは俺としてはこの上ないほど良い結果だが、


「でもそれってどっちにしろ()()()()で裏町が無法地帯になっちまうって事じゃねぇか!?」


それは裏町が無法地帯となる事を意味していた。

いや、重要なのは俺がその切っ掛けを作ってしまったという事実だ。


────嘘だろぉ……!? 俺はこの先ずっと一つの町を無法地帯にしちまったって業を背負ってかなきゃいけねぇのか!?


しかし、


「君のせい? ははっ! 違うだろ? オチバのお陰さ」


それは俺の思い違いであり、


「…………は?」

「俺も驚いたぜ? ()()()()()()()()()()()()()!」


ルフナのとんでもない誤解だった。


「えっ!? いや、違っ!?」

「勇者の目が行き届く町で悪さを働く奴なんてそうはいない。勇者である君がダルメジアを倒した事で、この裏町に巣食う問題の解決口になってくれたのさ。オチバ、本当にありがとう」


────嘘だろ、おい!? クラルテ!? お前が変なタイミングで変な事言ったせいでまた誤解の輪が広がったんだけど!?


「だが安心してくれ。不用意に君の名前を持ち出すつもりはない。……だが実際のところ、この裏町を良くしていかなければならないのは辺境伯である父上やその息子である俺の領分だ。その為に少しだけ、その肩書きの力を利用させて欲しい」


ここで『俺は勇者なんかじゃない』と否定することは出来ただろう。

しかし、そもそも何人もの無法者に名前が漏れている時点で裏町に俺の名前が広がるのは時間の問題だった。


だから、


「お、おう……。くれぐれも俺の名前は伏せて、勇者の仕業ってな感じで喧伝しといてくれ……。リスティアお嬢様に迷惑が掛かるからな……」

「……ありがとう。オチバ」


俺は自分の名前が広まるよりも先に“勇者”という肩書きが広まる事を期待してルフナの頼みを了承する他なかったのだ。


そうして準備を整えた俺たちは辺境伯の屋敷へと無事に帰還し、フロンツィエでの長い一夜が過ぎ去ったのだった。



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