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よろしくお願いします。
出題者となったダルメジアが黒球に包まれて見えなくなる。ここから三十秒が“ダルメジアが金貨を隠す時間”だ。
回答者となった俺はダルメジアが金貨を隠した場所を当てるまで回答し続け、その誤答した数によって俺とダルメジアの賭け勝負の勝敗が決まる。
そして既にダルメジアが回答者となる手番は先程終了しており、その時のダルメジアの誤答数は八回だった。
────つまり、俺に許された誤答回数は七回まで……。最悪でも八回目の回答で正解しなきゃなんねぇ訳だ……。
その回数が多いのか少ないのか今一判断しかねる所だが、確実に言えるのは“同数回による引き分けは俺の負け”という事だ。
────仕切り直しになっちまったらもう同じ手なんて通じねぇだろうからな……。何としてもこの八回の回答で決める……!
そうして俺が先ず最初に考えたのは“ダルメジアが何処に金貨を隠すだろうか”ということだった。
────ダルメジアが金貨を隠す場所……。それには少しだけ当てがある。ルフナとの賭け勝負を見てたからな……!
シルクハット、襟元、両袖、左右の靴、両足の下、背中、胸ポケット。
それはダルメジアがルフナとの賭け勝負の時に金貨を繰り返し隠していた場所だ。
────九箇所もあるけど、俺は八回の回答で正解すりゃ良い……。確率的には正解する可能性の方が高ぇ。
当然、ダルメジアもそのことに気づいているだろう。
────けど、気づいたからって直ぐにどうにか出来る問題でもねぇ……! 魔法が禁じられてる以上、俺が予想できる範囲内でしか隠せねぇ筈だ……! 勝機はある!
そうしてダルメジアの手番が始まって二十秒が経過した辺りで、ダルメジアを包み込む黒球が消え失せた。
俺は自信を漲らせてダルメジアを待ち受けるのだが、
「お待たせしましたァ〜」
「……!?」
その自信はダルメジアの策によってあっさりと揺らぎを見せてしまった。
「お前……! その手に持ってる金貨……! 偽物じゃねぇな……?」
「えェ……。この賭け勝負で使用する本物の聖教金貨ですよォ〜。ほらァ〜、印もあるでしょウ〜?」
姿を現したダルメジアの手には、先程の俺と同様に金貨が収まっていた。
だが、俺と決定的に違うのはその手にある金貨が正真正銘この賭け勝負で使う聖教金貨であることだ。その証拠にその金貨にはしっかりとこの賭け勝負で使うための印が見受けられる。
「どうやら完全に俺の真似って訳じゃねぇようだな……! お前、いったい何を企んでやがる……!」
「ほほーゥ! もう油断はしないと決めましたのでねェ。何処に隠すのか悩んでしまった結果ァ、こうすることにしたのですよォ……!」
するとダルメジアは右手に持つステッキで舞台を叩く。
瞬間、
「────ッ!?」
舞台袖から無法者たちがわらわらと出現した。
「さァ、皆さン! 時間も無いのでテキパキと並んでくださいねェ〜!」
彼らはダルメジアの支配下にある無法者なのだろう。ダルメジアの指示に従って次々とダルメジアの目の前で整列していく。
「まさか……!?」
この整列の意味は直ぐに分かった。
────俺の視線を遮断する為だ……ッ!?
金貨を隠す場所は誰の体でもいい。
それは俺自身が示した抜け道だ。
そしてダルメジアの前には十人近くの無法者が並んでいる。
────最悪だ……ッ!!
「はィ……! もう離れて結構ですよォ……!」
直後、整列していた無法者たちの幾人かは舞台の下へと降りて他の無法者たちの中へと紛れていく。
────こいつはヤバい……ッ!!
「その顔ォ……! どうやらもうお分かりのようですねェ……! そうですよォ! いったい誰が金貨を持っているのかアナタに当てられますかなァ……!!」
◆◇◆
今回の賭け勝負で追加したルールには、“魔法の禁止”以外にもう一つあった。
それは、“俺とダルメジアは外野の声が聞こえなくなる”というもの。
────でも、対戦者の声は外野に届く……! やられた……ッ!!
ダルメジアは呼び寄せた無法者の数だけ金貨の隠し場所を増やしたという事だ。これで八回の回答で正解する確率はグッと下がってしまった。
────ダルメジアの周囲に五人……。ダルメジアから離れて舞台から降りたのが五人ってところか……。ん?
だが、問題はそれだけじゃなかった。
「…………おいおいおいッ!? 嘘だろ!? あいつらこっちに向かって来てやがる!?」
なんとダルメジアの下に残っていた無法者たちが俺に向かって近づいて来ていたのだ。
彼らが何をしようとしているかなど、握りしめているその物騒な武器を見れば一目瞭然だろう。
「冗談じゃねぇぞ!? これは明らかにルール違反だろ!?」
彼らは明らかに俺に対して攻撃的な意思を持って動いており、俺は彼らから逃げるように舞台の上を駆け回る。
しかし、いつまで経っても賭け魔法は“彼らの攻撃行動がルール違反である”という判定を下さない。
つまり、そういう事だ。
────これがルール違反じゃねぇってのかよ!?
「ほっほーゥ! 外野が勝手にアナタを攻撃しているようですねェ! 相当な恨みを買っていたのでしょウ!」
「ふざっけんな!? 全員お前の手下じゃねぇか!! どう考えてもお前の命令だろ!!」
「はてェ……? 何の事でしょうかァ……? ワタシは一度だってそんな命令を出してはいませんからねェ〜! 何よりィ〜! 賭け魔法がワタシを咎めていないのですから何も問題はないのですよォ〜!!」
「くっそ……!」
納得のいかない話だが、これ以上の問答で貴重な回答時間を浪費する訳にはいかない。
────今は何処に金貨を隠したのかってのを考える方が先決だ……! ダルメジアが持っていやがんのか……! それとも無法者たちに渡しやがったのか……! どっちだ……!
「って危ぶねぇ!?」
考えることに集中したい所だが、それは俺を追ってくる無法者たちよって中断させられてしまう。
────取り押さえられちまえばそのまま敗北だ……! でもこのまま逃げに徹してても俺の方が先に力尽きちまうのは確実……! つーか、それ以前に制限時間の問題だってある……!
「こんな状況で金貨の場所を考えろってのは無理があるだろ!?」
そうしている間にも三十秒の回答時間は着実に終わりへと向かっていた。
────つっても、何も回答しなかったらそれだけで負けだ……! だったら今はとにかく回答するしかねぇ……!!
「ダルメジア! お前の襟元に金貨は隠されてる!! どうだ!!」
俺は直感に頼って回答する。
「ほっほゥ! さてさてェ……。当たっていますかねェ……」
俺の一答目は、
「あァ〜! 残念でしたねェ〜!」
不正解だった。
────くっ……!! 次の三十秒でなんとかしねぇと……!
俺はダルメジアが呼び集めた無法者たちを把握するために舞台下を見渡そうとするのだが、
「おやおやァ〜? 余所見をしている場合ですかァ〜? 足を動かし続けないと危ないですよォ〜?」
俺を追う無法者たちが俺の直ぐ後ろまで迫っていた。
────駄目だッ! 無法者から目を逸らす訳にはいかねぇ! 気を抜いたら直ぐに囲まれちまう……!
そうして無法者たちの包囲網に捕まらないよう立ち回るだけで既に二十秒が経過している。
残り十秒でまともな推察をすることは叶わず、
「────ダルメジア!! お前のそのシルクハットの中に金貨が隠されてる!!」
「ほほほほーゥ! 残念ながら違いますねェ〜!」
二答目も不正解となってしまった。
◆◇◆
「くっそ!? どうすりゃ良い!? 金貨について考える余裕が全然ねぇ!?」
あれからも同じ展開が続き、今俺は五度目の不正解を繰り出した所だった。
────あと三回……! あと三回で正解しねぇと俺の負けだ……!
「けど手掛かりが掴めねぇ……!」
冷静に物事を注視すれば何かしらの手掛かりはあるのかもしれない。
だが、五人に追われている状態でそれらの手掛かりを見つけることは余りにも困難だった。
「ほっほほっほーゥ! どうやらアナタの噂は尾ヒレのついたものだったようですねェ〜! 初代皇帝の再来と噂される人物がまさかただの無法者相手に逃げの一手しか繰り出せないとはァ〜! そんな体たらくでいったいどのようにして帝都闘技場での闘いに勝ったというのかァ〜! 是非ともお聞かせ願いたいものですよォ〜!」
ダルメジアは俺を貶める為にそんな台詞を言葉にしたのだろう。
だがしかし、
「…………“帝都闘技場での闘いにどうやって勝ったのか”、だって?」
それは俺に一つの真実を思い出させてくれた。
────そうだ……! そうじゃねぇか……!!
ラスバブの時も、ゴーレムの時も、リスティアお嬢様に狙われた時も、ゲルトナーの時だってそうだった。
────俺はどんな時だって、仲間を頼って窮地を潜り抜けてきた……!
俺の最大の失策は、一人でダルメジアに挑んでしまったことだ。魔法さえ使われなければ勝機があると勘違いしてしまっていた。
────でも実際は違った……。
ダルメジアには賭け勝負に対する慣れがあった。
その上、いざという時の為に手下を控えさせてもいた。
最初からダルメジアは賭け勝負において万全な対策を持って臨んでいたのだ。
────奴の土俵で戦ってちゃ絶対に勝てねぇんだ……!
ならばそんな万全な対策をしている相手にどうやって勝てるというのか。
悩むまでもない。その片鱗は目にしたばかりだ。
────奴に効いたのは“盤外戦術”だった……!
ダルメジアに一杯食わせる事ができたのは、ルール外の存在であったルフナの助力があったからだ。
────盤外戦術……!! それが勝ち筋だ……!!
「っと! 制限時間が近ぇ……! けど、こっからは攻めさせて貰うぜ……!! そこの一番手前にいるお前! お前が金貨を持ってる!」
俺は適当な無法者を指差して不正解となり、次の三十秒を確保する。これで六度目の不正解だ。
「攻めると言った側からそんな破れかぶれな回答が出るとは笑えますねェ〜! 果たして残り二回の回答で正解に辿り着けるのですかねェ〜!」
ダルメジアは俺を煽ってくるが、
「礼を言うぜ、ダルメジア……! お前が俺を煽ってくんなきゃ、俺はドツボに嵌まったままだった……!」
「何ですとォ……?」
今の俺は全く負ける気がしない。
「視界が開けた気分だ……。そうだよな。仲間を呼ぶのがルール違反じゃねぇってんなら、賭け勝負が始まって俺が最初にすべきだったのは“仲間を呼ぶ事”だったんだ」
「ほゥ? 仲間を呼ぶゥ〜? この状況でそんな悠長な事が出来ますかねェ〜?」
確かに俺の状況はかなり危機的だ。
だが“俺とダルメジアの賭け勝負が始まる直前”と比べれば、現状は十分に仲間を呼べる条件が整っている。
さっきまでの俺はダルメジアの魔法を前にして逃げることすら出来なかった。背を向ければ攻撃されるのが予測出来たからだ。同様に助けを呼ぶような動きを見せても攻撃されていたことだろう。
しかし、その厄介だったダルメジアの魔法は賭け魔法の影響で無力化している。
「今こそが助けを呼ぶ絶好の機会だ……ッ!!」
「ほほほほーゥ! だからどうやってですゥ〜? 残り少ない時間でどうやって辺境伯に助けを求めるつもりなのかお聞かせ下さいよォ〜!」
「んな方法は昔から決まってんだよ……!!」
「はィ〜?」
俺は足を止めて息を大きく吸う。
そして、
「助けてくれーーーー!!!!」
精一杯の大声で助けを求めた。
「ほ……ほっほっほっほーゥ!! 何を言い出すかと思えば命乞いィ〜! アナタァ、やっぱり道化としての才能はピカイチですよォ〜! ほっほーゥ!!」
「はぁ……はぁ……。命乞いだって……? それは違ぇな……!」
ダルメジアは腹を抱えて笑い、無法者たちは息切れして足を止めた俺をゆっくりと取り囲んでいく。
「こいつは、“助けを呼ぶ声”だ……!」
そうして包囲網が完成したその瞬間、突然“何か”が天井を突き破り、包囲網の中へと降ってきた。
「────!? いったい何事ですかァ!?」
その衝撃的な出来事に無法者たちも思わず足を止め、ダルメジアも取り乱す。
「知らねぇのか? 助けて欲しい時には、助けてくれって口にするもんなんだぜ? そんで、俺の仲間には助けを求められたら手を差し伸べちまう奴がいるんだよ……!」
そんな張り詰めた緊張感の中で、
「───────! ──────────────────────!? ──────────!」
「────────────────、──────。─────────────────」
「─……? ──────、────────────。────────、──────────?」
俺は見慣れた三人の顔ぶれを見つけて頬を緩めたのだった。
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