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 クラルテとノイギアは気づいた瞬間には見知らぬパーティー会場で立ち尽くしていた。


「……ッ⁉ おい、ここは何処だ⁉ それにオチバとあのおっかない雰囲気のお嬢さんは何処に行った⁉」


 突然の状況にノイギアはクラルテにそう尋ねるが……。


「今調べてるとこっ!」


 クラルテもこの状況を把握しきれていない。

 クラルテは即座に周囲を見渡して状況把握に努めるが、どこにもオチバと案内をしていた女性──ラスバブの姿は見受けられない。

 しかし、その二人を除いた大勢のマスクを着用した人達の姿は一帯に確認出来た。

 クラルテは耳を澄まして人々の会話を聞き分けるがオチバの声は聞こえず、更にはこれと言って今の状況を説明できるような類いの会話も聞こえてはこない。


「……っ⁉ 何処にもいないっ! 何かしらの魔法で分断されたんだっ! 早く助けに行かないとっ!」

「おいおい⁉ 本気で言ってるのか⁉ これだけの人数を一瞬で移動させるなんてとんでもない魔法だぞ……⁉ まだ幻覚だと言ってくれた方が納得できる……!」

「でも実際に起きてるっ! まさかボクが気付けないなんて……! ん? あっ! これって……。そうかっ!」


 クラルテは周囲の人、そしてノイギア、最後にクラルテ自身の周囲を再確認し、違和感に気付く。

 いや、違和感が無くなったことに気づいた。


「分かったよノイギア! 多分、ボクたちは予め用意されてた転移の魔方陣に誘導させられたんだ!」

「……なるほど? だがこう言っちゃなんだが、大抵の奴は複数人を転移させる程の魔法陣を動かす魔力なんて持っちゃいない。魔力は俺にも少しはあるが日常生活に使える程度のもんだ。そんな大勢を転移させる魔法陣があったとして起動させるには余程の魔力がなくちゃ成立しないんじゃないか? そんな魔力が何処にある? 仮に俺たち自身の魔力を使うにしたって足りやしない筈だ。ましてやお前さんは勇者だ。魔力が奪われたら直ぐに気付けるだろう?」

「あはは……。そうだね。確かにボクの魔力が使われたなら──ボクは絶対に気付くよ」


 (もや)による感情の乱れで魔法陣の存在は見落としてしまったものの、魔力を奪われればそれには必ず気付けるとクラルテは豪語する。


「だから確信を持って言える。ボクらの魔力は使われてない。でもほら、気付かない? ここにいる人たちとボクたちがさっきまでと違う事に。さっきまでのボクたちには──」

「なるほど……。俺たちが纏っていた靄の魔力を利用して魔法陣を起動させた訳か」

「ああっ⁉ 今言おうと思ったのにっ⁉」

「はぁ……。こんな状況で勿体ぶった言い方をするな」

「む~~~!」


 ノイギアはため息を吐きながらも、実質一人でこの状況を解明したクラルテに頼もしさを感じ、僅かに口角を上げる。


「不貞腐れるなよ? 魔法的な話は専門家に頑張ってもらわんと話にならん。何か他に分かることはないか?」

「……うん。あれだけの(もや)だったから分かる事はそれなりにあるよ。あの靄の魔力はしっかり覚えてる。今なら靄を作り出した本人を辿れると思う。それで、多分だけどあの案内役の人が靄を作り出した本人な気がする……。さっきまであった強い靄の魔力が遠くに感じるんだ」

「魔力を覚えて、更に辿れるときたか。流石勇者様だ。しかし、そうするとオチバはあの案内役と一緒って事か……。くく、だが靄の魔力を辿りさえすればオチバとの合流も難しくはなさそうだ」

「うん、そうだね! 試してみるっ!」



 ◇◆◇



 時はオチバ、クラルテ、ノイギアの三人が地図の場所へと向かい始めた頃へ戻り、場所は『カザン亭』に移る。

 カザン亭では閑古鳥が鳴いていた。

 それは二週間ほど前に従業員らが起こした問題に原因がある。

 従業員──即ちリーノとネーロだ。二人にとって決闘という儀式は余程大切だったのか、二人はモルテ=フィーレの各地で戦いながらオチバを追いかけ、それはもう多大な迷惑を各地に掛けてしまっていた。

 そしてその責任は二人を雇っていたカザン亭に向かい、多方面から多額の賠償を要求されたカザン亭は前代未聞の経営難に陥っていたのだ。


「本当に……本当にどうしたらいいんですか? この状況……」


 カザン亭のオーナー、シャンスは頭を抱えていた。


「いつかやらかすかもとは思ってましたが……。まさかここまで酷いことになるなんて……」


 傲慢な性格のネーロに、礼儀正しいがはっきりと物申す事が出来るリーノ。

 二人の性格は下手をすれば客と問題を起こしかねない。

 だが、そのリスクがあると分かった上でシャンスは二人を雇った。

 それはこの二人が誰の目から見ても明らかに端正な容姿をしていたからであり、多少性格に難があったとしても店の華になる筈だという思惑があったからだ。

 事実、二人の存在は辺境のカザン亭の名物とも言える存在となっていた。常連の多くはリーノを目当てに来ていたと言っても過言ではない。

 そんな二人が多大なる問題を起こしてしまった。 

 しかし、それでもシャンスはリーノとネーロをクビにしなかった。

 否、出来なかった。

 何故ならここでリーノとネーロをクビにしてしまえば、彼らが刻んだカザン亭の悪評だけが残ってしまうからだ。


「分かりますか……? 最早カザン亭を立て直すにはお二人に名誉挽回してもらうしかないんです」


 そうしてシャンスは起死回生の一手として、元凶である二人に何とかして欲しいと懇願していたのだ。

 シャンスを前にした二人は対照的な表情を浮かべている。

 方や自らがしでかした責任に顔を青ざめさせて俯くリーノと、方や我関せずというような涼しげな顔で壁にもたれ掛かるネーロだ。

 

「私を顎で使うとは良い身分だな。ふん、なら引導を渡してやる。私はそんな面倒な事はしない。これでこの宿はおしまいだ」

「ネーロ⁉ あんたには他人を思いやる心が無いわけ⁉」

「何だ? 思いやりで立て直せるのか? まぁ仮にそれで立て直せるとしても私は私のやりたいようにするだけだがな。ああ、それと言っておくが給金が出ないなら私は辞めさせてもらう」

「あ、あんたねぇ⁉」

「ふ、二人とも落ち着いてください⁉ これ以上暴れられても困ります⁉ ……私にはもうこの状況を何とかする手立てがありません。ですが私だってこのカザン亭には愛着がある。何とか出来るものなら何とかしたい。そこで思いつきました。私にどうする事も出来ないのなら、この状況を作ったお二人に責任を取って貰う他ないと」

「ほう、よく言った。この私にそんな口を聞くとは──」

「ネーロはあんたは黙ってなさい。……わたしも今回の事は反省してます。責任を取れるなら取らさせてください。こいつにもきちんと責任を取らせますから」

「何故勝手にお前が……」

「この惨状はわたしとあんたのせいでしょう! ややこしくしないでちょうだい!」

「……チッ」


 流石にほんの少しは責任を感じていたのか、それともこれ以上の問答に埒が明かないと判断したのか、恐らくは後者なのだろう。ネーロは舌打ちすると近くの椅子に座って腕と足を組む。


「責任と言いましたが簡単な話です。先ほど言ったように君たちの評判を君たちの手で上げてください」

「わたしたちの評判ですか……?」

「はい。人助けでも何でもいいです。悪評を払拭して下さい。それがこのカザン亭を立て直す力になる筈です」

「この私が他人に尻尾を振れというのか? どうやら貴様は──」

「確かイチジクさんでしたね?」

「なに……? シャンス、貴様どうしてその名を知っている? 何故その名前が貴様から出てくる?」

「知っているに決まっているでしょう。君たちが決闘と称して暴れたあの日、殆ど宿泊する客がいない中で宿帳に唯一記載されていた名前ですよ? 調べるに決まっています。もしかしたら君たちに非はないのかもしれない……そんな希望を胸に調べた結果は散々でしたが。とにかく、君たちは最初にこの人物に多大なる迷惑をかけましたね?」

「迷惑かどうかは見解の相違というやつだな。だが、それがどうしたというのだ?」 

「そのイチジクさんですが、先ほどスクラヴェルバウムの経営する旅館に向かっている……なんて話を聞きましてね。先ずは彼に謝罪して穏便な解決を図って下さい。何故か分かりませんが彼は未だに私たちの事を法的機関に訴えていないようなのです。ですから今の内に和解して下さい」

「貴様それを早く言え! こうしては居られん!」

「ちょっとネーロ⁉」


 ネーロは自身の周囲に何やら複数の魔方陣を展開させていく。


「ふん! 情報提供の礼は期待しているといい!」

「ああもう! わたしも行くわよ!」


 展開された魔方陣がネーロを包もうとした瞬間、リーノも出遅れてなるものかとネーロの魔方陣に体をねじ込んだ。


「貴様ッ‼ その邪魔くさい角と尻尾と胸を外してから出直して──」

「あ、あんた⁉ 乙女にそういう事を言っちゃ駄目って知らな──」


 シャンスの耳に二人の言葉は最後まで届かなかったが、シャンスの表情は穏やかなものだ。


「……これは無理かもしれないですね。夜逃げの準備をしとかないと」

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