巨漢と魔術師、少女を探し当てる
二人の男が『見返り美人亭』の扉をくぐった。
まばらに入っていた客の多くが、その異様な風体に目を向ける。
一人は町行く人々よりも頭二つほど抜けた長身、分厚い胸板に丸太のような腕。いまにも衣服がはちきれそうな巨漢である。僅かに白髪が混じっていることからも、年齢は40歳前後であろうか。
もう一人は緑色のローブに魔術師の杖。端正と言って良い顔立ちは若々しく、連れの男ほどではないが長身である。杖を握る手は限りなく細く、病床の女性のようであった。
「いらっしゃいませ、お二人ですね。ご夕食ですか?」
小柄な少女が席に案内するなり、魔術師風の男が口を開いた。ぼそぼそと陰気な声がようやく耳に届く。
「お前がノエルだな?」
「はい、そうですが?」
「あなたがノエルちゃん?探したよもー!」
巨漢がノエルの手を大きな両手で握り、力強い声を上げた。ノエルは外見と言動の不一致に混乱して声も出なかったが、妙に記憶を刺激してもいる。構わず魔術師は続けた。
「俺はカイン、こいつはリックだ。この名前に聞き覚えはないか?」
「カイン?リック?・・・もしかして?」
「『エルナークRPGオンライン』でパーティを組んでいたはずだ」
ノエルには確かに記憶があった。ゲームに限らず知識が豊富な魔術師カイン、ノリと勢いで全て解決してしまう戦士リック。パーティ内のチャットが盛り上がってしまい、つい朝方まで遊んでしまったのだ。
「・・・うん、思い出した。二人とも『こっち』に来てたんだ?」
「うん!でね、ノエルって子が宿屋の看板娘になったって聞いてきたの」
リックという大男は、ノエルの手を握ったまま上下に激しく振り回した。
懐かしい?頼もしい?嬉しい?それとも前の世界を思い出してしまって煩わしい?様々な感情が渦巻き、脳味噌まで揺さぶられたように混乱が収まらなかった。