アルバイトの少女、立ち尽くす
翌日以降、ノエルはエルナーク市での生活基盤を確保することにした。
一つは自警団に加入、二つ目は宿屋『見返り美人亭』での仕事だ。可憐な容姿と丁寧な受け答えで、いずれも好感をもって受け入れられた。
自警団に入ったのは、まず戦闘経験を積むためだ。昨日のような事件が頻繁にあるとは思えないが、訓練でも得るものがあるだろう。
人数は総勢100名弱、毎日の訓練に参加しているのは半分に満たない。ギースのように目立って腕の立つ者はいなかった。職業兵士のようにはいかないのだろう。
そして『見返り美人亭』では18時から21時までの3時間、1階食堂で接客と清掃をすることになった。
「んー・・・」
「それにしても・・・暇だなぁ」
後に『傾国の少女』とまで呼ばれることになる娘は、誰に見られることもなく無人のホールで立ち尽くしている。
見返り美人亭での仕事は暇を持て余すものだった。18時から21時までの3時間、1階食堂で接客と清掃をするのだが、この日は宿泊客が1組、夕食のみが4組。しまいに女将のベラは編み物を始め、影の薄い主人のグルドンは厨房で煙草を吹かすという有様である。
(うーん・・・素材は新鮮、料理の味も悪くない)
(でも清潔感がないし、宣伝もしていない。ちょっともったいないかな)
「グルドンさん、ベラさん、お掃除ついでにちょっとメニューなど書いても良いですか?」
「ん?ああ、構わないよ」
「ありがとうございます!」
古い装飾を撤去して清掃を徹底し、メニュー表もおすすめ料理を大きく表示。屋外にメニュースタンドを出して、初めての客でも安心して入れるようにする。
1週間が過ぎ、少しずつ客足が増えてきた『見返り美人亭』の看板を、二人の男が見上げていた。
「ここだな、ノエルがいるという宿屋は」
「入ってみる?」
「そのために来たんだろう。わざわざ聞く必要はない」