少年と少女、街を歩く
「ギースさん凄いだろ。昔は国中を渡り歩く傭兵だったんだぜ」
「ええ。結構なお年に見えましたけど、体も引き締まっていましたね」
「ああ見えて44歳だぜ。まだまだ団長やってくれないと困るよ」
ノエルはギースの半白髪を思い出し、以前の自分よりも年下であったことに衝撃を受けた。しかしよく考えてみれば、同年代で白髪どころか頭髪がそっくり抜け落ちた友人がいたような気もする。
「ところでノエルちゃんは何歳?」
「えっと、確か16歳です」
「俺と同じか!妹くらいだと思った」
「妹さんがいるんですね?確かにザックさんの方が年上に見えます」
「ああ、こんなに可愛くはないけどな」
耳まで赤くなるとはわかりやすい男子だ。また人差し指を顎に当てて小首を傾げたのは無意識の動作だが、可愛い女の子はこういう時にこういう動作をするものだ、という思い込みによる演技だったかもしれない。
「え、えーっとじゃあ、俺のことはザックって呼んでくれよ。敬語もなしで」
「はい、ザック」
「敬語もなし」
「はい」
果物を選んでジュースを作ってくれる屋台、女性向けの雑貨店、値段の割に質の良い服飾店、町を流れる川にかかる大橋、飛べない大きな鳥を飼う牧場。昼食どころか太陽が傾くまで共に過ごしたのは、意外とノエル自身にとっても楽しい時間であったからだ。
ノエルは仔細にエルナーク市のことを聞き出した。人口1万人程度の交通の要衝であること、西方の王都ルークまでは馬車でも1週間かかること、北の港町や東のドワーフ族との交易が盛んなこと、そのため経済的に豊かで宿屋が多いこと。一応王都から総督が派遣されているが、税を徴収するだけの存在らしい。
町のことばかり聞いているとザックが不機嫌になりそうだったので、彼自身についてもいくつか質問した。革製品を作る職人の長男で弟と妹が1人ずつおり、自警団には1年ほど前に入団したそうだ。
「すっかり遅くなっちゃったな。疲れたろ」
「ううん大丈夫。せっかくの休みなのに、付き合ってもらっちゃってごめんね」
「俺の方こそいろいろ連れ回しちゃったな。宿屋まで送るよ」
「ありがとう。『見返り美人亭』に泊まってるんだ」
「あー。あそこ料理はうまいんだけどなー」
「うん、朝食も新鮮でおいしかったよ」
「な。どうしてあんなに寂れて・・・ん?」
町を包む夕闇を裂いて、けたたましく半鐘が打ち鳴らされた。非常時には町の四方にある望楼の鐘が鳴らされると、先ほどザックから聞いたばかりだ。
「北の町外れにゴブリンが出たぞー!」
「自警団は北門に集合!繰り返す、自警団は北門に集合!」
「ごめんノエル、俺行かなきゃ!」
「ん、じゃあ私も行く!」
「女は駄目だ!ゴブリンは女の子を攫って、その、あの・・・大変な・・・」
「説明できないなら一緒に行くね。邪魔はしないから」
「駄目だって!待て、わかったから待ってくれって!」




