自警団長、沈黙する
エルナーク自警団の詰所は、練兵場の隣にある煉瓦造りの建物である。団長室には粗末ながら来客用のソファーが備わっている。ノエルは勧められるままに腰を下ろした。
「改めて、ゴブリン討伐では君達に助けられた。感謝する」
「いえ。お役に立てて何よりです」
答えながら、やはり、と覚悟を決める。「君達」という言葉が出てきた以上、カインとリックとの関係について聞かれるのは明白だ。
「ノエル、カインとリックの二人とは知り合いだったのかい?」
「・・・・・・」
間を空けたのは迷ったからでも考え込んだからでもない。これから重要なことを言いますよ、という合図だ。
「その質問にお答えするには、まず団長に謝らなければなりません」
「む?何故だ」
「以前は記憶喪失と申し上げましたが、それは方便でした。私には団長と出会う前の記憶があります」
「何か理由があるのだろう。話してくれるか?」
「はい。確かに記憶はありますが、それはこことは異なる国、異なる世界で、全く異なる常識のもと、年齢も性別も異なる人物として生活していた記憶です」
「なに・・・?」
「そこで私は45歳の男性として生きていました。カインとリックは、そちらの世界での友人です」
さすがに理解が追いつかないのだろう、ギースは眉間に皺を寄せて沈黙した。ようやく口を開いたのは100を数えるほど間を空けてからだ。
「・・・それを私に信じろと言うのか?」
「無理かと存じます。私自身も荒唐無稽な話だと思いますので」
「自分でもおかしいと思う話で、他人を納得させるのは無理だぞ?」
「はい。しかし私の知る限りの真実をお話しする他に、団長の信を得る方法はないと判断しました。私が16歳の女性だということに違和感はありませんでしたか?」
「・・・あった」
十代半ばの少女にしては落ち着きすぎている、聡明すぎると違和感を持っていたのだ。むしろ様々な経験を積んだ40代と言われた方が納得できる。
さらには最初に出会った時、短いスカートを穿いていたにも関わらず無防備にしゃがみ込んで下着が覗いていた。スカートを穿き慣れている女性ならばまず取らない姿勢だ。
「簡単に信じて頂けるとは思いませんが、私の話の真偽を確かめる方法はあります」
「・・・それは?」
「私とカインとリックの3人に、それぞれ別の部屋で同じ質問をしてください。前の世界に関する答えが一致すれば信憑性が高いと言えるでしょう」
「わかった、そうさせてもらおう」
ノエルは敢えて容疑者の取り調べのような方法を提案した。ギースは自分達に疑問を感じているだけで、むしろ信用したがっているようにも思えたからだ。