元おじさんの少女、元少女のおじさんを気遣う
完全武装のノエルは後ろを振り返った。反り身の小剣と革鎧は自前だが、自警団から短槍と革製の兜を支給されている。
カイン、リックと『こちらの世界』で再会を果たした5日後、3人は揃ってエルナーク自警団のゴブリン討伐隊に参加していた。
先日街外れの牧場を襲ったゴブリンの巣の場所が判明したことで自警団から50名規模の討伐隊を派遣することになり、カインとリックはその物資を運搬する人員に応募したのだ。
見るからに屈強なリックは予備戦力としても貴重だろうし、魔術師であるカインは言わずもがなである。討伐隊には僅かながら報酬が出る上に、ここで人脈を作っておけば仕事にありつける可能性もある。
(と、思って応募させたんだけど・・・どこまで伝わってるかな、この二人)
リックが予備の武器、食料、医薬品などを満載した荷車を引き、カインはその上に腰掛けている。
それらの物資はカインのLV1魔法【重量軽減】で重量が半減しており、リックが軽々とそれを引いているのだ。森に入るまではその横をカインが歩いていたのだが、それさえも辛くなった彼は自身に【重量軽減】をかけて、荷とともに運んでもらうことにしたようだ。ノエルがリックを気遣って声を掛ける。
「リック、大丈夫?重くない?」
「平気だよー。鍛えてるからね!」
「その身体になってからも鍛えてるの?」
「当然!筋肉は嘘つかない!」
「女子野球部でピッチャーだったって言ってたものね」
「うん。全国大会にも出たよ」
「そうなの!?」
「決勝で負けちゃったけどね。んで、抜け殻になってネトゲにはまった」
40代男性から10代女性になったノエルとは逆に、リックは10代女子高生から40代男性に転化したのだ。一見明るく振る舞ってはいるが、人生で最も輝かしいはずの20年が消えて無くなった心中は察するに余りある。ノエルは敢えて現状とは関係のない話題を続けることにした。
「そうなんだ。やっぱり練習は厳しかった?」
「そりゃもう。ベースランニングの途中でゲロ吐いたことあるよ」
「うさぎ跳びでグラウンド1周とか、水飲んじゃ駄目とか?」
「それノエルちゃんの時代。水分と塩分の補給は基本だよ」
前方から小声で指示が伝わってきた。「目的地に接近、総員臨戦態勢に入れ」との事である。
「それじゃ頑張ろうね。帰ったら『見返り美人亭』で打ち上げするよ」
「よーし。リックさん頑張っちゃうぞー」
元女子高生の大男は両腕を上げると、見事な大胸筋をぴくぴくと動かした。
リックがおどける度にノエルは心配になる。この子は若いながら、辛いことも悲しいことも一人で抱え込んできたのではないか。こんな状況でも、明るく前向きな自分を演じているのではないか。
無理しなくていいんだよ、たまには年長者に任せなさい。と呟いて、元おじさんの少女は隊列に戻った。




