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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

巨人殺しの英雄がドラゴン殺しの帝国に挑むそうです

 堂々と立つ石像があった。古い石像だ。それは大地を半分に分ける巨大な地割れの奥深く、誰からも忘れられた神殿に飾られていた。


「ぬぁぁぁ!!」


 石像から叫び声が聞こえる。すると石像の表面に亀裂が入った。それは次第にひび割れを大きくさせる。そしてバラバラと石のかけらを落とし中から青ざめた肌を露出させた。


「ぬぅぁぁぁぁぁぁ!!」


 また一段と大きな叫び声が神殿内を響かせた。


 バァン!

 石像が破裂したように石片を飛び散らした。そしてついにその男は姿を現した。男の体は筋骨隆々として背が高い。髪は金色で短く雑に切りそろえられている。そして意外にも顔は美男子のそれだった。しかし顔色は青白く生気の薄れた印象を受ける。長く封印されていたために肌が白くなってしまっているのだ。


「フゥゥゥ!」


 男が荒い息を吐いた。男はおよそ300年の深い眠りから覚めた。呼吸にまだ慣れていない。

 男がスゥゥと大きく息を吸い込んだ。

 そして。


「プルゥトォォォォォォォォ!!」


 大地を震わせるほどの叫声を辺りにまき散らした。その叫び声は地上まで巻き上がり周辺の動物たちを怯えさせた。


「ぬぅ」


 叫んだことで気が晴れたのか男の様子が落ち着いた。そして天井を見上げる。否、男は地上をそして天上の何かに向かって睨んでいた。


「今行くぞ! 首を洗って待っているがいい!」


 そして男は地上への道を歩み始めた。


 *


 そして時は進み。


「ここら辺だ……」


 荒れた大地を一人の甲冑騎士が歩いていた。その騎士は白銀に輝くフルプレートの大鎧を身に纏いながらも重さを感じさせない軽やかな足取りで進む。


 騎士の目の前には対岸との幅が10mほどもある大きな地割れが口を開けていた。


「≪ドラゴンのアギト≫……。この下だろうか」


 騎士が地割れの崖下を覗き込む。底の見えない暗闇が大口を開けて誘っていた。


「ここを降りるわけに行くまいな。しかしどうしたことだろう。辺りに生物の気配がしない。まるでアギトが全てを飲み込んでしまったようだ」


 そう言って騎士はぶるりと震えた。


 そんな騎士の後ろヒタヒタと小さく足音がした。

 フルフルと震える騎士の後ろに忍び寄る影がある。騎士はそれに気づかない。そして影が騎士の後ろに立つ。大上段に棘がついた棍棒を構えた。そしてそれを振り下ろす。


 風切り音


「えっ!」


 騎士が振り向いた。しかし棍棒は既に勢いをつけて騎士へと振られている。もう避けることは間に合わない。騎士は思わず目を瞑った。


 バァン!

 その棍棒を一筋の光が撃ち抜き粉々に破砕した。


「グォ!?」


 襲撃者、三メートル級のジャイアントアサシンが突如砕けた己の棍棒の軽さに驚愕の声を上げる。

 騎士は瞑っていた目を開けた。全身に砕けた棍棒の木片が降り注ぐ。それらは鎧に弾かれ騎士は無傷だった。


「ジャイアント!」


 騎士が尻餅つきそうな体勢を立て直し腰元から剣を引き抜いて構えた。


「う、うぅ……。なんでこんなところにジャイアントが?」


 しかしその剣を持つ手は震えていた。へっぴり腰になってジリジリとジャイアントから下がる。


「グォォォ!」


 そんな獲物の醜態を見てジャイアントアサシンはニヤリと顔を歪めた。ジャイアントアサシンのニヤニヤとした口元が耳まで裂ける。


「ひゃ、ひゃぁぁぁ」


 そんなジャイアントアサシンの凶悪な笑顔を見て騎士はへなへなと腰を落としてしまった。今度こそジャイアントアサシンが騎士に襲いかかる。


 その手が騎士に摑みかかる間際。


「何やってんだテメェはぁぁぁ!!」


 半裸の美男子がジャイアントアサシンを蹴り飛ばした。

 ドゴォン!

 ジャイアントアサシンは吹き飛ばされ木にぶつかった。ぶつかった木は衝撃で中程からへし折れた。


「ぐ、グォ……ォォ……」


 呻き声があがる。

 ジャイアントアサシンの腹が吹き飛んでいた。まるで大砲でも受けたかのように体に巨大な穴を開け血をドバドバと噴き出す。

 そしてジャイアントアサシンが前のめりに倒れると二度と動くことはなかった。


「ジャイアントを足で蹴り殺した? き、貴公何者だ?」


 それを見て騎士は荒い息を吐いて佇む美男子に誰何した。助けられた興奮よりも得体の知れない不気味さが優っていた。


「うるせぇ! ぶっ殺すぞ!」


「きゃあ!」


 すると美男子が騎士の首もとのスカーフを掴んで引き寄せ顔を間近にして怒鳴った。

 唾を吐きかけられるほどの勢いで怒鳴れ騎士が可愛らしい悲鳴をあげる。


「って、なんだお前」


「うぅぅぅ」


 我に返ったのか美男子が掴んでいたスカーフを離した。騎士は尻餅をついて小さく呻くと大声をあげ泣き出したのだった。


 *


 それから美男子は騎士が泣き止むまで待った。いまはもう騎士も落ち着いており、二人で向かい合うように座っている。


「わ、私はロアルワース王国のシュメルです。ここには『古い巨人退治の英雄』を探して来ました」


 騎士が言う。

 鎧の中から現れた騎士は小さな金髪の乙女だった。今は鎧を全て外しチェインアーマーと肌着だけを着た姿で男の前にいた。


「そうか。巨人(ジャイアント)ならたった今俺が殺したが。俺がその巨人退治の英雄ということになるのか?」


 美男子がさっきとは打って変わってフザケたように言った。


「なりませんよ!」


 それにシュメルが生真面目にも声を上げて否定する。


「確かに素手でジャイアントを殺したのは驚くべきことですが現代基礎魔術を使えるマジシャンならジャイアント程度簡単に殺せます。ところで貴方は一体誰なんですか?」


「俺か? 俺の名前はソーだ。最近はここら辺で狩猟生活をしている」


 美男子はそう言って腰元の獣皮の袋を開けて見せた。中には赤い木の実とゴロゴロとした石ころが入っている。


「はぁ、投石ですか。言っちゃ悪いですが前時代的ですね。それに貴方の名前もだいぶ古い名前です」


 まるで古代人がそのままやって来たようだとシュメルは思った。今時投石で狩猟を行うなんて子供でもしない。それこそ魔術さえあれば幼子ですら鳥獣を狩れる。

 一昔前は違った。弓矢や投石具を使って狩りをしたり、地道にクワで畑を耕していたという。でもある時、偉大なる魔術の高祖がおまじない程度だった魔女の魔法を体系的に整理した。魔法は魔術に名前を変え立派な学問の一つになった。それからは早かった。魔術は人々の暮らしを劇的に変えた。今では何をするにも魔術が使われている。魔術のない生活など考えられないほどだ。


 だというのに。

 ソーの身につけた衣服は魔術繊維のカケラもない獣皮をなめしたボロ、使う道具は石ころだけ。いまだにこんな人がいることがシュメルにはまるで信じられなかった。


「っていけない! こんなところで話をしている場合じゃなかった! 私は早く英雄を見つけなきゃいけないのだ!」


 シュメルが立ち上がって鎧を身につけ始めた。


「なんだ慌ただしいな」


 ソーが獣皮の袋から木の実を取り出して口に入れた。そして咀嚼する。


「急いでいるんです! 私の故郷が危機に瀕していて、だから私は今英雄を求めているんです! 助けて貰ってお礼も出来ず申し訳ないのですが私は行きますね!」


 シュメルは鎧を着終えるとどこかへ走って行こうとした。それをソーがシュメルの肩を持って止める。


「待てよ。俺を連れて行け」


「なんですか! 急いでいるんです。離してください!」


 シュメルが無理矢理引き離そうとするもソーの腕は離れなかった。

 そんな馬鹿なとシュメルは思った。シュメルが身につけている鎧はただの鎧ではない。王国の秘宝、ミスリル製高機動アーマーだ。魔術によって体の動きを補助してくれる魔法具であり、その出力はジャイアント級。着るだけでか弱い乙女が一騎当千の魔騎士に早変わりする戦術兵器なのだ。それがソーの片手の腕力で動きを止めた。たった一人の魔術も使わない人間に動きを止められることなどシュメルの常識ではあり得なかった。


「俺が英雄になってやるよ。そろそろ人のいる場所に行きたかったんだ。丁度良いな」


 グシャリとソーの掴む箇所から歪な音が聞こえる。

 アーマーが壊れる!?

 シュメルは抵抗することをやめた。


「英雄って。私が求めているのはお伽話の≪巨人退治の英雄ソー≫なんですよ……」


 そこでシュメルは奇妙な符合にハッとした。素手でジャイアントを殺した謎の男ソー、そしてお伽話の巨人退治の英雄ソー。名前もやっていることもまるで同じだった。


「まさか……、貴方が≪巨人退治の英雄ソー≫?」


 いやそんな筈はない。お伽話は200年以上も前から語り継がれて来た古い物語だ。そんな英雄がここにいるわけない。そもそもシュメルは大地の下に眠る古い王国の遺跡にソーは封印されているという文献を見つけて、≪ドラゴンのアギト≫と呼ばれる地割れのある地帯に来たのだ。しかし、お伽話は所詮お伽話だ。シュメルは本当は分かっていた。魔術の発展していなかった古代の人物が200年も生きているなどありえない。だからこのソーがあの英雄である筈がないのだ。

 でも。

 このままお伽話を追っていても実物のソーに出会えることはないだろう。遺跡の位置も分からないのだ。ならばこの異様な怪力を持つ大男に賭けてみるのもアリかもしれない。それにその怪力なら魔術的素質は十分ある筈だ。魔術を教えれば化けるかもしれない。そう考えシュメルはソーに向き合った。


「良いでしょう。貴方をロアルワースの王都に連れて行きます。でもよろしいですか? 貴方に求めるのはただの偶像ではありません。戦争に向かってもらいます」


「あん? そりゃどういうことだ?」


「私の国は今、他国の脅威に瀕しているのです」


 そしてシュメルは語り始めた。今の世界の状況について。大プラト帝国が世界を席巻し次々と国を滅ぼしていることを。そして滅ぼした国の民を無差別に殺して神に捧げるという常軌を逸した行為をしていることをソーに話した。


「ゆ、許せん……」


 ソーはワナワナと震えた。義憤に燃えているのだろう。そうシュメルは思った。


「プラトだと!? なんて酷い名前をしているんだ! 許せん!」


 ズコーッとシュメルは体を前のめりにして倒れた。


「え、無差別に人を殺していることに憤っていたんじゃないんですか!?」


「それも悪いことだと俺は思います」


 ソーはまるで感情の篭っていない声で言った。こりゃダメだとシュメルは早々に不安に駆られたのだった。


「プラトだと……、プルートに類する何かなのか……?」


 突然真面目な顔をしてソーが呟く。その呟きはシュメルにはよく分からないものだった。


「ソー殿?」


 シュメルがきょとんとして顔を傾ける。


「いや、何でもない」


 ソーは手をひらひらと振った。


「さぁ連れてってくれよお嬢ちゃん」


「お嬢ちゃんはやめてください。私はシュメルです」


 そして軽口を叩きながら二人は王国への道を歩き始めた。これも男の性格からかこの頃には二人はすっかり打ち解けていたのだった。


 *


 シュメルとソーが王都に入って三日が経った。

 王都では国民が不穏な噂話を口にしていた。曰く帝国が大陸中央、聳え立つ霊峰シュラメイル火山に住まうドラゴンを殺したという話だ。ドラゴンは王国では神獣とされ神同然に崇められてきた存在だった。もともとドラゴンは大陸中で不可侵とされていた。強靭な体躯と自在に炎を操る神秘性から触るべからず近づくべからずの禁忌とされていたのだ。それを帝国は破った。神々の怒りが大陸に及ぶ、そう言って大陸中の人々が震えていた。


「くだらねぇ!」


 王都のとある酒場の一角でソーは管を巻いていた。


「おいおい、英雄さんよ。そんな調子で王国を守れるのかい」


 酒場のマスターが木のジョッキを拭きながらソーに言う。


「ひゃっひゃっひゃっ! 巨人殺しの英雄か! 巨人なら俺だって殺せるぜ! 巨人(ジャイアント)殺し(スレイヤー)程度がドラゴンを殺した帝国とどう戦うんだよ! 馬の糞でも食らいやがれってんだ! うひゃひゃひゃひゃ!」


 ソーの隣に座った酔っ払いが馬鹿笑いをする。


 ソーの存在は王国で大々的に発表された。お伽話のことは国民全てが知っていたから期待は大きかった。しかしソーは酒に溺れるわ魔術は使えないわで期待は地に落ちた。今ではシュメルですら呆れて近づかない。そんなソーは酒場で酒を飲んで管を巻くのが日課になってきていた。


「帝国軍はすぐそこまで来ている。王国はどうなっちまうんだろうなぁ」


 酒場のマスターが嘆息する。ソーは酒を飲み続けていた。


 *


 そして更に一週間後。帝国軍の進撃は続き、ついに帝国軍は王都のすぐそこまで進軍した。


 ソーは王国の騎士として戦場に立っていた。騎士とはいうが一兵卒のようなものだ。そしてソーの隣にはシュメルがいた。なんとシュメルは王国の姫だった。第三王女だ。そしてソーはシュメルの近衛騎士だった。だからソーはシュメルと一緒に比較的安全な場所に配置された。


「あー。俺たちはなんともつまらん位置にいるな」


 まるで気が抜けたようにソーが言った。

 そんなソーの態度にシュメルがブルブルと震える。


「ふざけないでください!! 貴方はよそ者だからどうでもいいかもしれないですけど王国存亡の危機なんです!! 王国の皆んなの居場所が奪われてしまうかもしれないんですよ!! 英雄として来たのならせめてそれに相応しい態度を心掛けてください!!」


 シュメルが叫ぶように怒鳴った。思わずソーも目をパチクリとしてシュメルを見る。


「いや別にふざけているつもりはないさ」


「じゃあなんなんですか!」


 シュメルの目尻から涙が溢れた。シュメルは情けなかった。他所から他人を連れてきて頼る自分が情けなかった。お伽話の威光に頼るしかない自分がどうしようもなく許せなかった。だから苛立ちをソーにぶつけた。

 シュメルが顔を両手で隠して嗚咽する。


「……」


 ソーは憮然とした態度でそれを見た。


「はぁ、悪かったよ嬢ちゃん。俺もはしゃぎすぎた」


「そう……ですか……」


 シュメルは両手でぐしぐしと涙を拭う。それでもとめどなく涙は溢れてきてどうしようもなかった。

 ソーがポンっとシュメルの頭に手を置く。


「情けない姿だけ見せすぎたな。じゃあよ、王国を救ったら泣き止んでくれるかい?」


 ソーはわしゃわしゃとシュメルの金髪をその大きな手で撫でた。


「王国を……救う……?」


 シュメルは小さく呟く。


「ああ、救う」


 ソーは力強く宣言した。

 そしてソーは足元から手頃な大きさの石を拾った。そして手もとで弄ぶ。


「うん。これでいいな」


 ソーが石を二つほど取った。

 その時。


「うわぁぁぁぁ!! ドラゴンが出たぁぁぁぁ!!」


 兵士達の悲鳴が戦場を覆う。

 太陽が陰った。見ると何か途轍もなくデカイ翼の生えたトカゲのようなものが空高くを飛んでいる。


「なんじゃありゃ」


 ソーの人間にしては長すぎる生涯においても見たことのない生物だった。


「ドラゴン……」


 シュメルが顔を青くして空を見上げる。


 そして戦場にドラゴンが舞い降りた。

 

 *


 大プラト帝国初代アンセス帝は空を舞うドラゴンを見て満足そうな表情を浮かべていた。


「素晴らしい。余は満足である」


 一月ほど前、赤きドラゴンは帝国皇帝のたった一人の皇子によって倒された。皇子は幼い頃から聡明だった。武勇にも優れ、文武両道、それに魔術の才能ありと完璧な後継者だった。その皇子がドラゴンを下し、あまつさえ従えて帰ってきた時、帝国中が歓喜と興奮に沸いた。偉大なる皇帝、そして皇子がいれば世界を統べることすら不可能ではない。そう帝国の誰もが思っていた。


「しかし皇子は大丈夫だろうか。ドラゴンの背に今も乗っているのだろう?」


「なんの問題がありましょうか。皇子とドラゴン、二つの強大な存在が互いに協力しているのです。今の皇子はまさしく並ぶもののない完璧な英雄でございまする」


 その言葉に皇帝は誇らしげな顔をした。


「おお、皇子よ。そなたのおかげで我が妻のための八百万首宮も完成するであろう」


 王国を陥せば最早帝国に刃向かう存在などない。偉大なる世界帝国の夢、そして皇帝の八百万人を犠牲にした首塚の城を築く夢はすぐそこまで来ていた。


 *


「ドラゴンが帝国の手に落ちていた……」


 シュメルが呟く。

 王国の誰もがその事実に絶望した。ドラゴンは神同然に扱われるが、その力も神に等しいと言われる。そんな存在が王国の敵となった事実は崩れかけていた王国軍の士気をさらに落とした。もはや騎士団すらまともに機能していない。王国の滅亡は時間の問題と思われた。


 だがたった一人、絶望も楽観もなく戦場に立つ男がいた。


「あれを落とせばいいのか」

 

 ソーが石を手にドラゴンを見る。そして腕を引いた。筋肉が膨張しその体表は真っ赤に染まる。ソーの額に青筋が浮いた。体はまるで限界まで弓を引くかのような体勢で振りかぶっている。

 そして。


「オラァァァ!!」


 引いていた腕を弾くように前へ振った。


 ソーの手から石が放たれた。それはまるで彗星のような光となり、一直線にドラゴンへ向かって筋を引いた。


「!!」


 彗星はドラゴンに衝突するかと思われたが突如としてドラゴンの前に青く光輝く半透明のプレートが現れた。それは幾重にも重なり重厚な魔法の盾を作り出していた。

 彗星と魔法の盾が衝突する。


 しかしまるで抵抗もなく盾が砕け散った。


「グギャォォォォォォ!!」


 そしてドラゴンが彗星に飲み込まれた。

 ドラゴンの悲鳴が戦場を包み込む。しかしそれもいずれ彗星に掻き消されるように消えた。


 いつしか彗星の筋が消え青い空だけが天空に残された。


 *


「は?」


 帝国陣地の奥深く。帝国皇帝が間抜け声を出した。


 *


 王都の民の国民は空に舞い降りる赤いドラゴンとそれに立ち向かうように突き進む青い彗星の衝突の一部始終を見ていた。初めは理解不能な事態の連続に心が追いつかなかった人々も次第に状況を理解し始める。そして王都の様々な場所で歓声があがった。


 *


 あまりの事態に戦場も混乱していたが、やがて帝国軍が撤退を始めた。


「帝国が撤退を始めた! 者共追撃しろ!」


 それに反応して王国軍が追撃をする。戦いはソーの一撃によって王国の勝利へと傾いたのだった。


 *


「ソーさん!」


 シュメルがソーに抱きついた。


「なんだなんだ。惚れちまったか?」


 とぼけたようにソーが言う。


「はい! 惚れてしまいました」


 シュメルの顔は赤く染まっていた。


「フ、フン! まあ、小娘には興味ねえ。あと10年経ったらまた来な」


 ソーがハードボイルドを気取って言う。だがシュメルから顔を背けるソーは実は奥手であった。


 こうしてロアルワース王国滅亡の危機は一先ず回避された。この後、大プラト帝国はそれまでの戦いぶりが嘘だったかのように敗戦を重ね、領土を失っていく。

 ソーは王国と帝国の戦いにはそれ以来参戦することがなかった。そして王国もそれを是とした。なぜならソーは今も王城で第三王女に結婚を迫られているからだ。


 かつて神々の時代。神々を鏖殺し最終戦争を終わらせると予言された終末の巨人がいた。神々も殺せぬその巨人の額を石で撃ち抜いた青年の名前はソー。神々が感謝しそして恐れた男は今、ロアルワースにて勝ちの見えない男と女の戦いに挑んでいる。




投げっぱなしの伏線がちらほら。


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