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一章 二月十日 水曜日

「おはよう」

「……」



 目の前のコイツは視線だけをこちらに向けた。いつもと同じ。これがコイツのスタイルなんだと僕だけは知っている。



「おはよう! 諸星!」

「おはよ、委員長」



 そして、その口が開き、小さいながらもしっかりとした響きを持つ言葉が零れた。



「うん、おはよう! わかってくれたみたいでとても嬉しいよ、諸星」

「いつもいつもうるさいからな、お前は」



 あ、視線を逸らされた。



「うん、僕も嬉しいから」

「私は嬉しくない」



 もしかしたら、照れているのだろうか? まさかな。ありえないって。



「うん、今はまだそういうことにして置いても良いかもな。焦らないでも良いと思うんだ」

「意味がわかんないし、お前、いい加減ウザイ」



 でもコイツ、どう見ても笑みがこぼれているじゃないか。



「知らなかったのか? 僕はウザイんだ」

「知ってた」



 だから、僕は一歩踏み込んでみる。



「だろ?」

「好きにしろよ。勝手にしろ。お前に何を言われようと、私も私の好きにするからさ」



 コイツは怒らない。怒り出す気配もなかった。いける、今日ならもっと踏み込めるはず。



「お前じゃない。渡月充彦わたつき・みつひこだ」

「……」



 コイツは急に黙り込む。……まずった、か?



「諸星?」

「お前の名前なんか聞いてない」



 少し険を含んだ低い声色。ちょっとしくじった? でも、僕はコイツともっと仲良くなりたいわけで。



「僕の方ばかり諸星を名前を呼ぶのも失礼かな、って思ったんだ。どうかな、諸星?」

「お前、本当にウザイよ」



 声色は明るい。大丈夫だ。コイツ、怒ってない。……本当か? もう一回探りを……。



「渡月、だ」

「あー、うるさいうるさい。いいから黙れよ」

「はいはい」

「ハイは一回で良いんだよ!」



 話は終わりだ、とばかりにコイツは邪魔者を追い払うかのように手を振った。

 うん、怒ってない。言ってる言葉は酷いけど、これは大丈夫。むしろ良い感じだ。でも、コイツとのことはもう大丈夫。僕には確信がある。今日はこのくらいで勘弁しておいてやろう。



 ◇ ◇ ◇



二月十二日 金曜日



「おはよう」

「おはよう、委員長」



 そして、その口が開き、小さいながらもしっかりとしたいつもの言葉が零れた。今日は少し優しさが含まれていたかも知れない。



「うん、諸星おはよう! 自然と挨拶できるようになったようで嬉しいよ」

「毎朝毎朝、ウザイ委員長が見張ってるからな」

「はいはい。その委員長の名前は渡月充彦、だ」

「はぁ。わかったよ、渡月。そして、ハイは一回で良い」



 なぜだろう。不思議な気分だった。僕に文句を言うコイツの機嫌が良いことは皆の精神衛生上、喜ばしいことだと言える。でも僕自身も、そんなコイツの顔を見るのがなんだか楽しくなってきたような気がするのだ。

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