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一章 二月八日 月曜日

 また新たな週が始まる。結局、僕は諸星への虚しい呼びかけを一週間続けた。実に痛々しい努力だったと思う。いくら未春先生の頼みとはいえ、良くめげなかったたと思うんだ。全く、自分を褒めてやりたい。

 アイツが何か問題を起こすたびに注意し、叱り、教え、嫌がるアイツを捕まえて一緒に謝り。ええと、アイツが転入してからまだ一週間程度だというのに、それはもう数え切れないほどアイツの後始末をやったし、させられた。

 毎回毎回アイツは僕に対して感謝するどころか文句ばかり。もっとも僕も負けてはいなかったけれど。


 毎日のようにウザイウザイと言われているし、ことある事に睨まれている。もう、完全にコイツから嫌われているよなぁ……。




「おはよう」


「……」




 目の前のコイツは視線だけをこちらに向けた。そんなものは、いつものことだ。




「おはよう! 諸星!」


「……おはよう」




 そしてコイツの赤い唇が震え、今日も遠慮がちに開いたかと思うと小さな言葉が零れた。




「うん、おはよう! 僕は諸星のこと信じてたよ。でも、僕は贅沢なんだ。もう一つだけお願いだ。僕はもっと自然に諸星と挨拶を交わしたいかも」


「……っ!」




 諸星が息を詰まらせる。




「もっと気楽に挨拶が交わせるようになったら、今まで以上に朝を気持ちよく過ごせそうな気がするんだ。僕の思い違いじゃないなら、諸星も僕のこの計画に協力してくれると信じてるからさ」


「……かよ」


「え?」




 諸、星? コイツが何か言った!




「そうかよ。でも、お前ってさ。前々から思っていたけれど、本当にバカなんだな」




 コイツが僕を見ている。以前の剣幕は消えていた。僕は、自然と言葉を紡ぐ。




「お前ほどじゃないさ」


「そうだな、そうだろうとも。良くわかっているじゃないか。委員長」


「バカと認めたな?」




 コイツの切れ長の目が光る。




「そうとも。だから、お前は優等生なんだから、毎朝毎朝こんな不良に構うなよ」


「それは出来ない相談だ、諸星。お前が真人間になってくれないと、夜も安心して眠れないからな」


「言ってろよ。お前が毎晩、私のことを思って枕を涙で濡らしているだなんて。冗談キツイって」




 コイツはやけに饒舌だった。それに、なんだか声が上擦っているように聞こえてくるのは気のせいか?




「……諸星」


「なんだよ委員長」


「お前って、普通に話せたんだな」


「……っ!」




 先ほどまでの和やかな雰囲気は吹き飛び、凄い目で睨まれた。こうして毎日話しかけていなければ、僕はきっと泣いて逃げ出していたに違いない。




「睨むなよ」


「……うるさい黙れ。ウザ過ぎるだろ、お前」




 そう言うコイツの言葉は、どこか楽しそうな響きを持っていたと思う。コイツはこんなにも長く話すことができるじゃないか。それに今、なんだか変な感じだ。何故かその日、僕は後ろの席がとても気になった。

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