第7話 「魔力調査」
結構派手に倒れたけど、大丈夫だろうか?
目の前で起こった突然の出来事に、その場にいた全員の動きが止まっていた。
いったい何が起こったのだろう。
王女の依頼で魔女っ子が俺の魔力を測るだけじゃなかったのだろうか。
一番速く動き出したのはエルクだった。
やるな、エルク。
「べステル殿!大丈夫ですか!」
意識があるか確かめる。
魔法の暴走で人が死んでしまうなんて事があったりするのだろうか。
ゲームとかではそんなイベントがあったりするのだけれど。
「……よかった、息もありますし、呼吸もしっかりされてます。どうやら、意識を失っているだけかと」
エルクが報告する。
全員がほっと一息つく。
「王女殿下、こちらの方は例の高名な魔法使いの方ですか?」
「そうです。この方はシモーネ・べステル殿。かつては王宮に仕えていたこともある王国一の魔法の使い手です。王宮を去ってから行方が分かっていなかったのですが、どうやらこのマーレで暮らしておられたようです。マーレ伯から、このマーレにいらっしゃるという話を聞いてぜひともという事で護衛のお願いをいたしまして」
そこで王女はいったん言葉を切って、エルクのほうを見る。
「せっかく魔法を使える方がいらっしゃるのです。私がソラ殿の魔力を測っていただければ。と殿下に提案させていただいたのです」
エルクが言葉を続けた。
そういうことか、けれどその話どおりなら、なぜシモーネというゴスロリ魔女っ子は気絶してしまったのだろう。
「う…ううん……」
どうやらシモーネの意識が戻ったらしい。
「大丈夫ですか、べステル殿」
先程とは違い、落ち着いた優しい声でエルクが尋ねる。
こういったところはイケメン騎士って感じだよな。
ハッと目を見開き、シモーネが体を起こして、何かを探すように視線をさまよわせ、俺を見つける。
「ヒッ!」
その顔が絶望に染まった。
まるで今にでも自分は殺される、と確信をしているような絶望である。
「ゆ…ゆるして……!。私はまだ……」
とんでもない怯え様だ。
ビクビクと震える姿は。その幼い姿も相まってか弱い。
いったい彼女に俺は何をしたと言うのだろう。
まるでとんでもないいじめをしてしまったかのようだ。
でもさっきまでの『のじゃロリ』な態度よりはこっちのほうがカワイイナ。
そんな背徳的なことを考えていると、王女が切り出した。
「落ち着いて下さい。べステル殿。いったいどうなさったというのです」
「どうしたもこうしたもない!コヤツの魔力量は常軌を逸しておる。古の魔族にも匹敵するぞ!人間ではない!」
怯えるシモーネはエルクの袖を掴み、隠れるように体を密着させてその身を隠そうとする。
おいエルク、そこ代われ!
にしても、女男どころか人間ではない。か。
ゲーマー大学生とは随分遠いところに来たな。
エルクはシモーネをしっかりと支え、話をしていいか迷っている様子である。
ティーリエは王女とシモーネ。俺に向かって視線をキョロキョロと迷わせている、どうしたらいいのか迷っているのだろう。
「べステル殿。こちらの方は実は古に伝わる勇者様なのです」
王女が伏せていた真実を語った。
「ゆ、うしゃ…?」
「そうです。過去の勇者様は魔王に匹敵する莫大な魔力を秘めていたと言います。そのため、普通の人間とはかけ離れておられるのでしょう」
大きな目をパチパチとまばたかせ、シモーネは立ちすくむ。
やがて震えが止まると、顔を真っ赤にさせ、サッと壁の方を向き、その表情を隠した。
先程の自分の行いが恥ずかしかったのだろう。
分かりやすいリアクションをするなあ。
パンッ!
シモーネが自分の頬を両手で叩く、小さく、だがしっかりと音が部屋に響いた。
一拍置いて、シモーネが壁からこちらへ向き直った。
まだ耳が真っ赤である。
「そ、そういうことか……。勇者とはな、ということは召喚の儀式は現存しておったのだな」
「ええ。なんとか成功して、召喚させていただいたのがこちらの勇者様。ソラ・アンドー様です。勇者様の存在は帝国に対する切り札になると考えて伏せておりました」
シモーネのリアクションをスルーして説明を続ける王女。
何か罰ゲームのようにも見える。
シモーネの声はまだちょっと震えてるし。
「そういうことだ。俺がソラ・アンドー。宜しくシモーネ。べつに取って食ったりはしないから安心してくれていいよ。できたら魔法の使い方とか教えてくれれば嬉しいな」
俺は優しい声でシモーネに自己紹介をする。
年下のかわいい女の子に優しいのだ、俺は。
エルクのようなむっつり紳士とは違う。
「勇者様。この方は……」
エルクが咎める様に口を挟んだが、説明をする前にシモーネの言葉が飛んできた。
「子供扱いをするでない!小娘。わしはそなたよりずっと年上だぞ。今年で九十になる」
は?
こののじゃロリ、何を言い出すのだろう。
「この王女の父親が子供の頃も知っておる。調度王宮に仕えておった頃じゃな。まったく……。年上は敬うものじゃぞ」
え、マジ?という表情の俺にエルクがうなずく。
本当なのか……
それにしてはこののじゃ、リアクションが幼いじゃないか。
「まあよい。勇者……というのは伏せるのだから、ソラか。ソラ、そなたの魔力は人間の域をとっくに超えておる。わしが鍛えればとんでもない使い手になれろうて。ゴルツ公領までの護衛中手取り足取り教えて進ぜようぞ。楽しみにしておるがよい」
あっはっはと高笑いをしながら俺の肩をぽんと叩いて部屋を出て行く。
逃げたな。
シモーネが出て行った部屋の扉を見つめながら俺は言う。
「すごい人でしたね」
「ええ、すごい方なのです」
王女が返してくれるが、俺と王女ではすごいの意味が違っているような気がした。
ーーー
衝撃の出会いの後、王女からこれからの事を聞く。
ティーリエから聞いたとおり、明日にはここを発って東のゴルツ公領へと向かうらしい。
連れ立っていくのはマーレ伯領まで一緒だった四人と先程のシモーネと三人の精鋭騎士たちである。
少人数で一気に東へ向かうのだ。
打ち合わせを終えた俺たちはそれぞれの部屋へ戻り、明日の出発のため各々しっかりと体を休めることにしたのだが……
事が起きたのは、夜も更け、そろそろ空が白み始める頃だ。
「ソラ、起きて!帝国軍がこちらに向かってるみたい」
ティーリエが俺を起こす。
ううん寝巻き姿も似合っていてかわいいな。
まあ俺も可愛い寝巻きを着ているのだが。
この女の体はゲームみたいに着せ替えも楽しめるのだ。
「ホラ起きて!準備をして」
ぼんやりと寝起きの変な思考をしていたのがクリアになってきた。
帝国が攻めて来た?
やばいじゃん。
俺はすぐに支度を整え(とはいっても着替えるぐらいなのだが)、王女の部屋へ向かう。
王女の部屋には、王女。ティーリエにエルク。マーレ伯とロリのじゃシモーネ。そして護衛をすることになっていた三人の壁のような騎士がいた。
そこではマーレ伯が王女に報告をしていた。
「兵の話では帝国軍はマーレベルグの外壁から少し離れた所に結集しているようです。ですが、その数は千そこそこだとか。それではこのマーレベルグは落ちません。ご安心頂いて大丈夫です」
相変わらず自信満々だが、確かにあの外壁はちょっとやそっとじゃビクともしないだろう。
「安心しておる場合ではないぞ、たったそれだけということは何かこちらを落とす手立てが他にあると言うことじゃ、それが分からなければ撃退は難しいぞ」
シモーネが言う。
確かにそうだ。
一体どんな手を使ってくるのだろう。
そんな風に考えていると、壁のように控えていた護衛たちが動き出した。
ん?
そしてすばやくそのうち二人はマーレ伯、エルフィナ王女を取り押さえ、残りの一人は何か粉のようなものをシモーネへと振りかけた!
「な、しまっ……」
振りかけられたシモーネはその場に昏倒してしまい。
「おい!一体これはどういうことだ!」
マーレ伯は自分を取り押さえる護衛を叱責する。
王女とマーレ伯を抑えられると、俺やエルク、ティーリエも手が出せない。
すると、部屋の扉が開いて一人の人物が入って来た。
「こういうことですよ、父上。お家の乗っ取りに参りました」
そこにいたのは年若いマーレの後継者。クラウスだった。




