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第5話 「マーレベルグ到着」

 マーレベルグはドナート王国の北部にある中堅都市である。

 ドナート王国でも国都に次ぐ歴史を持つ都市であり、マーレ伯の居城を始めとして、街を取り囲む外壁も魔族との戦いを想定された時代の実用重視の堅牢な…悪く言えば古臭く野暮ったい造りとなっている。

 

 俺たち4人は目的地であるここに何とか無事に到着することができた。

 途中、何度か帝国兵士の偵察部隊に出くわしたが、どうにか身を隠し、見つからずにここまで来ることが出来たのだ。

 少人数であったのが幸いした。


 ようやくベットで寝ることが出来る……

 現代っ子もやし大学生だった俺には、いくら勇者として体力お化けになって身体的な負担がほとんどないとはいえ、連日の野宿は精神的に堪えるものがあった。

 ほかの二人はともかく王女もそうだったのだろう。逃げ延びる精神的な負担もあり、疲労の色が濃い。

 

 「王女殿下。よくご無事で!このマーレ、国都の皆様の苦難を考えますと、胸が張り裂けそうな思いでございました。すぐにお助けする兵を用意できなかった罪。如何様にもお咎めください」


 居城に到着するなり俺たちは貴賓室に通されたのだが、通されてすぐ現れたマーレ伯は土下座せんばかりに頭を下げる。

 マーレ伯は人のよさそうな顔をした50代くらいの中年だった。

 この人が王国を裏切ることはないのか?とマーレベルグに到着する前にエルクに聞いていたのだが、

 「伯爵はそこまでの賭けをするような人物ではありません」ということであった。

 確かにこの真面目そうな人物がそんなことをたくらんでいるとは考え辛い。


 「そもそも帝国の行いは許せません。栄光ある我が国に矢を向けるだけでなく、国王陛下方を害するとは……。大義は我らにあります。すぐにでも周辺国にも激を飛ばし、世の勢力を結集し帝国という巨悪を粉砕いたしましょう」

 

 随分と過激な発言だな。

 そんなヒーロー物の御伽噺のようなことが出来るのだろうか?

 ここまで来るまでにエルクや王女から聞いた話では王国に力はもうほとんどなく、国都を奪い返すことはかなり困難だと言う話だったが……

 

 「マーレ伯。頼りにしております。ですがまずは現状をしっかりと把握しましょう。王国の戦力を結集させるにせよ、他国に助けを求めるにせよ、情報が足りません」

 

 王女はその発言に釘を刺す。

 だが……


 「おまかせあれ、殿下。歴史の浅い帝国など所詮奇襲などという卑怯な手に頼るしかないのです。栄光ある我が国が本気を出せば鎧袖一触です」


 あくまで慎重な王女に対し、マーレ伯は安請け合いをしている。まるで勝てて当たり前とでも思っているのだろうか。

 やたら楽観的だな、どこからそんな自信が出てくるのだろうか。


 そんなマーレ伯の後ろには、14・15歳くらいの少年がいる。

 彼がマーレ伯の一人息子だろうか。

 エルクがそんな事を言っていたな。

 結構美少年だ。

 父親に似て真面目そうな顔をしているが、目に力があり、しっかりとした芯を感じさせる。

 この息子の方が優秀そうだな。


 そんな事を考えていると、美少年の視線がこちらをじっと見てきた。

 ますいな、何かおかしなところがあるのだろうか。

 まあ中身が男だというこれ以上ないほどおかしなところがあるのだが、今の俺はエルクが村人からゆずってもらった一般的な女性の格好をして、ティーリエと共に王女のお付として控えていておかしなところはないはず……


 じっと見つめ返すわけにもいかず、エルクに視線で助けを求める。


 エルク、何か美少年がこっち見てくるんだけど……

 エルクがこちらの視線に気がつき、小さくうなずいた。

 伝わったか?


 「マーレ伯爵。お話の途中大変申し訳ありません。ここまで来るのに我々は結構無理をしていまして、こちらの女官などは大変疲れきっております。王女殿下や我々はまだ話し合わなければならないことがありますが、この者などは休ませてやりたいのです。どこか、休める部屋などをはありませんでしょうか?」


 ナイスアシスト!

 やっぱりエルクは有能だ。

 さっすがエルク、愛してる。


 「そうか、そこまで気が回っていなかったな。これ、こちらの美しいお嬢さんを客室に案内しなさい」


 するとマーレ伯はすぐに使用人に指示を出してくれた。

 いい調子で事が進んでいるぞ。


 「父上、僕が案内しましょう。苦しい状況の中、ここまで来たことをねぎらってあげたいです」


 美少年が、そんな事を言い出す。

 げぇっ、マズイ。


 「そうだな、ではクラウス。頼むぞ」


 ああああ

 美少年から逃げようとしたのに、逆によりまずいことになってしまった。


 「いえ、私は大丈夫です。王女殿下がまだお休みになられないのに、私だけ休めません」


 こうなったら、けなげなお付を演じるしかない。

 慣れない女言葉を駆使して抵抗する。

 しかしクラウス美少年の詰めの一手。


 「無理をしてはいけないよ、王女殿下もキミが無理をして倒れることを望んではおられない」


 これは、チェックメイトだ。

 まぁ、別にとって食われるわけでもなし、ここはおとなしく従ったほうが波風が立たないな。


 「そうですわね。ソラ、伯爵に甘えるとしましょう」

 

 王女が助けになれなくて申し訳ないという目でこちらを見てきた。

 王女、気にしないでください。

 うまくこの場をかいくぐれないエルクが悪いのです。 


 「それではこっちだよ、ついてきなさい」


 観念した俺は、部屋を出て、先を歩くクラウスに続いて歩いていった。

 



ーーー



 

 「国都からここまで本当に大変だったろう。よく王女殿下を支えてくれた」


 歩きながらクラウスが話しかけてくる。


 「いいえ、私などは武官のティーリエ殿やエルク様に頼りっぱなしで何のお役にも立てませんでした。お褒め頂くことなど何も……」

 「それでも王女殿下とここまでご一緒してきたことが何よりの功績さ、王女殿下もキミがいることで支えになっただろう。そこまで卑下することはないさ」

 

 優しい声で美少年が優しい言葉をかけてくれる。

 ショタコンだったら一発で篭絡されそうである。

 だが俺は男だ。


 客室には割りとすぐについた。

 さすがに貴族の居城。一流ホテルのスイートのような調度品に囲まれている。


 「後から体を拭くものを女中に持ってこさせよう。もし湯などが必要なら、その者に希望を伝えなさい」

 「クラウス様、わざわざありがとうございました」

 「気にしなくていいよ、君はそれだけの働きをしたんだ。それにしても…」


 クラウスはこちらに近付き、俺を見つめる。

 さっきもこの目でずっとみられたのだ、やっぱり何かボロが出てるのだろうか。


 「君は美しいな。王族の方のお付の女官はみなキミのように美しいのかい?」

 「いえ、私はそんな……」


 や め ろ!

 男にそんなに美しいと言われても全然嬉しくない。

 逆にさぶいぼがでてきそうある。

 

 「謙遜はしないでいい、僕の人生の中でキミのように美しい女性は始めて見る。国都へ夜会に行ったこともあるが、キミより美しい人はいなかった。失礼にあたるだろうが、王女殿下も美しいがキミはそれ以上だ」


 こ、これは


 口説かれているのだろうか、確かに美少年から美しいと連呼されるのは女性ならば悪い気はしないのだろうが、残念ながら俺には当てはまらない。

 ひたすら薄気味悪く、むしろ怖い。


 「すまない、いきなりこんなことを言って戸惑わせてしまったね。どうも僕もおかしなことを言っているな。君を一目見てから目を奪われてしまってね」


 ハハハと嫌味さを感じさせずに笑う。

 イケメンだし、本物の貴公子だしな、ここは少女マンガの世界か?

 うおおお、逃げ出したい。

 そうだ、脳内でクラウスを美少女に変換すれば受け流せるか?

 優しげな目をして、ふんわりとした髪の美少女で……


 「君はエルク殿とは親しいのかい?先程も親しげにしていたが……」


 おおお、さっきのエルクとの視線での会話も読まれてる。

 受け流すも何も、キラーパスが飛んできた。

 

 「そういえば先程と言えば、キミは父の発言にも呆れていたね」

 「そんなことはございません……」


 まずい、あの時顔に出ていたのか。


 「いや、正直に言っていいんだよ。父は愚かだ。ここまで落ちぶれた王国を何百年も前の栄光の時代のままだと考えている。人間皆が王国を、王国を支える貴族を尊敬し、尊重すると思っている。そんな時代はもうとっくに過ぎ去ってしまっているのに……」


 クラウスは苦しげな顔をする。

 無力な自分を責めるように。

 

 「父だけではない、この国の貴族皆がそうなんだ。偉大な過去という大木を皆で褒め称えるが、大木の中身は腐りきっていてスカスカになってしまっている。帝国という斧が実際に振るわれるとこんな事態になってしまうのさ」


 この少年は、その年特有の鋭い目線でこの国を見てきたのだろう。

 大人の虚飾を切り裂くその目はどこまでが見えているのだろう。

 



 悔しげに語るその口調とは裏腹に、少年の目は何かを決意しているのかのように爛々と輝いていた。

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