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間話 征覇帝

 カッカッカッカッ…

 

 室内に規則的な足音が響く。

 足音の主は立ち止まり、跪き頭を下げる。


 そこから少し離れて両隣には立派な鎧を着込んだ兵士が二人。

 自らの主を害するものがいればすぐでも動ける様控えている。


 跪いた男の頭を下げた先にはひときわ豪華に飾られた玉座に座る男が一人。

 白銀の髪に彫りの深い顔、会う者は二度と忘れないであろう力強く輝く瞳。

 年は見た目では計りづらい、顔の皺を見れば青年から壮年のようであるが、表情は自信に満ちあふれ恐れを知らない若者の様でもある。

 体は肉食動物の様に引き締まり、確かな力を感じさせる。


 彼が”征覇帝”帝国皇帝パウロ・フォン・クラウゼヴィッツ。

 成人前から帝位に就き、多くの近隣国を征し、小国であった帝国をドナート王国を追い詰めるまでに成長させた人物である。


 皇帝の玉座の両隣にも二人の人物。

 皇帝の右隣には背がすらっと高い赤い髪の男。すらっとはしているが、体にはしっかりと筋肉がつき引き締まっている。

 この男は”赤髪鬼”ブルーノ・エッグ。

 皇帝の右腕として、帝国軍全軍を纏め上げてきた。

 温厚そうな顔をしているが、時には冷酷な命令をすることもあり、「敵も味方も最も殺した」鬼と他国のものに呼ばれている。


 もう一人は眉間に深い皺をつくっている顔色の悪い男。

 ケニス・バルツァー

 体格は軍人としてのぎりぎりであろう。

 皇帝、ブルーノと比べると貧相とまでいえるかもしれない薄さである。

 しかし彼は謀臣として皇帝を支えてきた。ブルーノが実行した冷酷な命令のほとんどは彼の頭から出ており、「利用されたら骨も残らない」と自軍からも敬遠されている。


 かつて、この場は人間の栄光の象徴であった。

 魔族を退けた人間たちの唯一の国の謁見の間。

 まさに世界の中心であり、その広間にはかつて多士済々の面々が集っていた。

 独立する国が増え、王国の規模が小さくなるにつれ、集う人ではなく飾られる絵画などの装飾品がその栄光を支えていたのだが。それすらも年々財政不足からこの広間を離れていった。

 

 そしてついに主の交代である。


 

 「ご報告申し上げます。王国国都に残って抵抗してた貴族・騎士などはほぼ討伐が完了いたしました。また、平民に対しての暴行・略奪を禁じておりましたため混乱も少なく、国都の混乱もほぼ収まっております。王女の行方に関しましては、おそらく王国第2騎士団のオルランドと行動を共にしていると思われます。現在、我が手勢でその残党を追い詰めておりますので、すぐに王女の捕縛をご報告できるかと……」


 「ご苦労であった。ミロス将軍。引き続きよろしく頼む」

 「はっ」


 報告をしていた男は帝国将軍の一人。ミロス・ディンドルフ。

 皇帝が帝位に就く前からの唯一の将軍であり。

 帝国の宿老として、名声豊かな人物である。

 豊かな白髪を後ろで無造作にまとめており、かなりの高齢になるはずだが、年齢を感じさせない若々しさを感じさせる。


 「それでは陛下。失礼させていただきます」


 来たときと同じく、規則的な足音をさせ、堂々とミロス将軍が退室する。

 ミロス将軍が去った後、皇帝は傍らに控える二人に話しかけた。


 「結局、勇者とやらは出てこなかったな。大昔の御伽噺などもう存在しないとは思っていたが、やや拍子抜けでもあるな」

 「あの”老人”の警戒のし過ぎだったのでしょう。そもそも、王国の歴史上その存在が必要であった時も召喚が行われていません。勇者召喚ができるのであれば、もっと早い段階で召喚が行われているはずです」


 ケニスがくだらないと言った表情で答える。


 「まあ、もし存在するのであれば最優先で対処しなければ”勇者の敵”である我々は”人間の敵”とみなされてしまうのでしょうから警戒は続けるべきではあります」


 ブルーノは真剣な表情を崩さない。

 

 「そうだな、いずれにせよ召喚の儀式について知っている王族は逃がすわけにはいかない。ミロスの吉報を待つとしよう。そういえば、ケニス。あの豚はどうなった?」

 「豚。と申しますと王国のプルエール公爵のことですかな?」

 「そうだ」

 「あの男には今のところ財貨を与えて黙らせております。今頃与えられた財貨の枚数でも数えて、祝杯など挙げてるのではないでしょうか。王国周辺の貴族を討伐し終わった時にでも与えた財貨を返してもらえばよいのです、ああいう男はしっかり貯めてくれるでしょうから」


 プルエール公爵は自分の爵位を継続させるためだけに王国を帝国へ売った。

 帝国軍の国都侵攻を手助けしたのである。

 帝国との国境にある自領を通過させ、国都へと導いた。

 王国でも、一部の者しか知られていなかった王城と国都外を結ぶ通路は、帝国軍によって利用され、王国軍はほとんど組織だった抵抗ができず、蹂躙された。

 

 歴史ある王国は一夜にして陥落した。


 「後は王国の残りの貴族が集結したところを徹底的に叩く。それでおしまいだ。それが終わればいよいよ奴との決戦だな」

 「東の”傭兵王”ヴァルケ王との決戦ですな。腕が鳴ります

 「そうだ、ブルーノ。いままで奴とは王国が間にあったおかげで事を構えずにいたが、いよいよ出てくるぞ。王国の貴族を叩き過ぎて、奴に助けを求めさせないよう、王国に介入させないことが肝要だ」


 「とりあえず、ひと段落着いたのだ。略奪を禁じていた我が兵たちをねぎらわなければな。ケ二ス、本国から酒と食料と女を大量に運ばせろ」

 「御意。ですが陛下、すでに運ばせてきております」

 「さすがだな、手際が良い。よし!ではそれらを大いに兵たちに与えよ!英気を養え!」


 過去の栄光に頼り、大き過ぎる玉座を持て余していた主はもういない。



 主の変わった謁見の間は、新たな主によってまた熱気を取り戻していた。 

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