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第3話 「恋人役!?」

 

 あのあとまた、マーレベルグへ向けて歩きはじめたのだが。

 それまで気丈にしていたエルフィナ王女が疲れからか、歩けなくなってしまいまた休憩を取っている。


 「殿下。おそばを離れ、偵察に行く許可をいただけますでしょうか?」


 エルクが近くの村へ偵察に行くことを提案した。


 「何より情報が足りません。他の王族の方の情報もそうですし、何より国都を占領した後の帝国の動きを探りたいと思います。動きによってはマーレベルグに向かわないといったことも考える必要があります。」

 「そうですね。偵察を許可いたします。気をつけて、エルク」


 王女はまた気丈に振舞ってはいるが、疲労の影が濃い。

 本当はベットなり何なりでしっかりと休む必要があるのだろう。


 「ありがとうございます殿下」

 

 エルクは王女に頭を下げると。


 「勇者様、一緒に付いて来てはいただけませんか?」

 「どうしてですか?王女の護衛は多いほうがいいんじゃないですか?」

 「それはそうですが、これからのことを考えると、王女殿下の服や靴、勇者様の服も目立ち過ぎますから目立たないものに帰る必要があります」


 確かにそれはそうだろう、考えてみれば俺の服装も大学で着ていたTシャツにジーパンというラフさである。

 現代でも女の子がする格好とは思えないし、このファンタジー世界では目立つ。

 王女のドレスもそうだ。

 王女の疲れは歩き回ることを考えられていない豪華な靴のせいもあるだろう。


 「殿下と勇者様の背格好は似ておりますし、勇者様が来て下されば助かります」


 なるほど。

 王女のことは心配だが、王女は動けない今、時間を無駄にすることはない。

 早めにこなして帰ってくればいいだろう。


 「わかりました。ご一緒します」


 

 

 ◇




 エルクの案内で近くの村までやってきた。

 王女たちと離れて数十分ほど離れたところにあった。

 まさに、農村といったようなのどかな村だ。

 エルクいわく、このあたりの地理には明るいらしい。

 

 「あの家には知り合いがおります。まずはその者から話を聞き、服なども用立ててもらいましょう」


 それに異論はない、異論があるのほかの部分だ。

 村の中のそれほど大きくはない、しかし建てられてばかりであろう新しめの家に着いた。

 エルクが以前、仕事で世話をした人の家らしい。 


 「事前の段取りどおり、お願いしますよ」


 エルクから念押しが来る。

 返事をしたくないな。

 こちらの様子を知ってかしらずか、その家のドアをエルクはたたいた。


 「アレク!いるか!、私だ。エルクだ」


 すると、中から人のよさそうな男が出てきた。


 「おお、エルク様。ご無事でしたか、王都のほうは大変だったのでしょう?」

 「ああ。何とかな」


 アレクと呼ばれた男がこちらに気がつく。


 「エルク様、こちらは?」

 「ああ、この人はソラ。私のいい人でね、一緒に王都から逃げてきたのだよ」


 これだ。

 これがいやなのだ。

 何が悲しくて男の恋人役などしなきゃならんのだ。

 事前の段取りをエルクと決めた時のことを後悔する。



 ---

 


 村へ向かう道すがらの時のことだ。

 

 「勇者様には、私の恋人になっていただきます」

 「は?」


 こいつ、頭が少々おかしいんじゃないだろうか?

 そんな俺の表情を無視して、目の前の少々おかしな頭の男は続けた。

 平然と男は続ける。


 「小さな村に向かうとはいえ、殿下の情報を漏らしてしまうことは避けねばなりません。王都から避難してきた二人組を装うには、恋人同士ぐらいが無難でしょう」


 それを先に行ってくれよ、まぎらわしい事を言うやつだ。

 急に変なことを言い出すのでびっくりした。


 「わかりました。従いましょう」

 

 俺はしぶしぶとうなずく。

 恋人役だって?

 いままで女装すらしたこともないのだが、大丈夫だろうか?

 女ってどんな風に喋るんだっけ?

 「アタクシ」とか言うのかな?

 そんなことを俺が考えていると、エルクは言いづらそうに話し出した。


 「それで、ですね。できれば、その……できるだけ、自然を装うために親しげにする必要がありますので、勇者様をお名前で、その、ソラとお呼びしてもよろしいでしょうか?」

 

 そのぐらい一向に構わないのだが、なぜコイツは顔を赤らめながらそんなに言いづらそうに喋るんだ。

 はっきり言って気持ち悪い。

 ちょっと前までの爽やかな有能副官という俺の脳内評価が、音を立てて崩れていく。 


 「いいよそのくらい。それなら俺もエルクって呼ぶけどいいかな?」

 「もちろん!」


 返事が速い。

 実に嬉しそうな顔をしている。


 「あのさ、やめてくれよそんな態度。話しただろう、俺はもともと男だよ、そんな風に意識されると困るよ」

 

 ここははっきり言っておこう。

 すると、エルクは多少へこんだようで。


 「申し訳ありません。お話はお聞きしたのですが、いざこのように美しい方を目にすると何とも緊張してしまうのです。何しろ今まで軍務一筋で特定の女性と親しい仲になったことがなくて……」


 ハハハと笑うその顔は、なかなか爽やかな笑顔で女性からすると魅力的なのだろう。

 男の俺からすると、うっとおしいことこの上ない。

 イケメンめ。


 「とにかく、その態度はやめてくれ。あと敬語とかもやめたほうがいいんじゃないか」

 「そうですね、気をつけます。ソ…、ソラ」


 前途多難だ。



 ---



 あの時のやりとりを考えると、今のエルクはとても自然だ。

 村の男ともとても自然に話をしている。


 「ありがとうアレク、この服と食料に貴重な情報。とても助かるよ」


 アレクと呼ばれた男は早速必要なものを用意してくれていた。

 

 「いえいえ、エルク様にはお世話になりましたから。それよりも今度の戦。私どもも避難したほうがいいのでしょうか?」


 男の疑問ももっともだ、帝国がこの村に押し寄せたりしないのだろうか。

 

 「いや、それはやめたほうがいい。商人ならともかく、帝国は平民に対しては無体を働かないことで有名だ。この土地を捨てて路頭に迷うよりは、慣れ親しんだ土地にいた方がいいだろう。」


 ほう、そうなのか。帝国には極悪非道の敵のイメージしかなかったな。

 何しろ’’帝国’’。

 スターなんたらとかのSFやファンタジーとかだと大体敵役の名前だもんな。


 「危険なのは私のような騎士や兵士さ、ありがとうアレク、世話になった。ではソラ。そろそろ出発しよう」

 

 エルクがこちらに話しかけてきた。ようやくこの恋人役ともオサラバだ。

 と安心していると、爆弾がほおりこまれた。

 

 「お気をつけてエルク様。それにしても、ソラ様はお美しいですなぁ、どこかの貴族様のお嬢様なのですかな?よろしければお声を聞かせてはいただけませんでしょうか」

 「ホホホ、お上手ですね…ワタクシ、ワタシは…」

 「あまり詮索しないでくれ、アレク。彼女は人見知りでね。」

 

 ボロのでそうな俺をエルクがフォローしてくれる。

 ナイスだ、エルク。好きになっちゃうかも。


 「私がついていないと臆病になってしまってね。ほら、行くよ」


 そういいながら俺の腰に手をやり、支えるようにして進みだす。

 最悪だ、エルク。嫌いになった。

 

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