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第1話 「勇者召喚」

 

 いや、天使じゃない。

 翼ないし。

 輪っかもない。


 でも光り輝いているように見える。

 違う。

 光ってない。

 きらきらとはちみつ色の金髪なのだ。

 それが長く腰まで流れている。


 こちらを見つめる透き通る青い瞳。

 驚きに見開かれている。

 その目にどきどきと緊張する。


 目を離す。


 そもそも、あたりは薄暗く、夜のようだ。

 ここは森の中か?

 木々が見える。

 目の前にはとんでもない美少女。

 その後ろにはなぜか鎧を着込んだこれまたかわいい女の子。


 すごい夢だ。

 寝る前の理想が見事に体現されている。


 目の前の美少女を見直す。

 整った顔、肌はきめ細かく、触れればとんでもない柔らかさだろう。

 顔は芸能人のように小さい。

 体格は華奢。身長は160はあるだろうか。

 請った刺繍が施され、フリルをふんだんにあしらったとんでもなく高そうなドレス。

 少し汚れている。

 華奢だが、ドレスを盛り上げる胸はしっかりとした容量がありそうだ。


 後ろの子は目の前の美少女ほどではないが、十分に可愛い。

 幼い顔立ちだが、背が高い、170はあるだろうか。

 赤い髪。長くはない、ボブカットというぐらい。

 鎧を着ていて体格ははっきりは分からないが、華奢ではない。

 こちらの鎧には傷の跡、赤い血……!?


 「あの……」


 美少女が口を開く、透き通った声だ。


 「貴方が……勇者さまなのでしょうか?」


 勇者?おいおい何を言っているんだ。

 夢にしてはご都合が過ぎるな。


 .

 その言葉を返そうとしたその時。


 「敵襲!」


 暗くて見えないが、そこまで離れていないところから男の鋭い声。

 キィンと鉄がぶつかり合う音と相手を威圧するような怒鳴り声が聞こえてきた。


 「王女殿下、こちらへ!」


 後ろの女の子が声を上げ、美少女の手を引き、音のしない方向へ引っ張っていく。

 どうやら、たいぶやばい状況らしい。

 勇者とか言ってたし、ファンタジーか?

 ゲームかよ!

 鎧とか着てるし、剣も持ってるな。


 「こっちにいたぞ!」


 音がしなかった方向から剣を持った兵士?らしき人たちが木々の間から出てくる。


 応戦する赤い髪の女の子。

 姫様っぽい子が後ろに下がる。


 これまずいのでは?


 兵士は数人、赤い髪の子はひとり。

 多勢に無勢だ。


 俺は勇者とか言われてたな、この夢がご都合主義のゲームのようであれば、勇者の俺には秘められし力とか、とんでもない魔力とかそういったものがついているはずだ。


 勇者は女の子を助けなきゃな。


 ふわふわと夢の中にいる感覚のまま。

 俺は兵士たちに向かって走り出した。


 武器はないけど、相手の武器を奪えばいい。

 ゲームのように、華麗に倒してやる。

 

 一人目。

 すばやく相手の懐に入り込み、剣を持つ手首を掴む。


 「うわっ!なんだコイツ、速い!」


 兵士が何かしゃべっているが、気にしない。

 握った手に力をこめると簡単に折ることができそうなくらい、力をこめることができた。


 兵士が痛みから剣を手放す。

 落ちた剣を拾い上げ、鎧の隙間に突き刺す。


 ぐさぁ


 柔らかいものに剣が沈み込む感触。

 うげ、こんなところリアルなのかよ。

 なんともいえない感触を気持ち悪がりつつ、次の兵士へ。


 二人目。


 三人目。


 剣で切りかかるが、うまく扱えずバットを振り回すようになってしまった。

 しかしそのまま防ぐ相手を盾ごとなぎ倒す。

 

 四人目を倒す頃には、敵は周りにいなくなったようだ。

 夢だとしても随分簡単にいくもんだ。



 「王女殿下!」


 最初に敵襲という声がした方から、先ほどの兵士とは鎧の違う男達が走ってきた。

 

 仲間か?


 「王女殿下、申し訳ありません。ご無事でしたか?」


 中でも立派な鎧を着こんだ騎士らしき男が金髪ドレスの子に話しかける。

 渋めのおっさんである。


 「無事です、将軍。勇者様が助けてくださいました」

 

 王女がこちらを見る。

 将軍と呼ばれた騎士もこちらを向いた。


 「勇者……様ですか、こちらが……?」


 目を丸くして見つめてくる。

 なんだろう、疑ってるのかな。

 見つめ返してみる。


 「いえ、失礼いたしました。私はオルランド。王女殿下を助けていただきありがとうございます。勇者殿」


 目を泳がせながらこちらに挨拶をしてくる。

 何だろう、なんかぎこちないな。


 オルランドと名乗った男は王女のほうに向き直り。


 「殿下、敵はまたすぐこの場所へ押し寄せます。おそらく、われわれの逃げるルートも予測しているでしょう。このままゴルツ公領へと向かうのは危険です」

 「では……ではどうすればよいのです」


 王女の声に焦りが浮かぶ。


 「我々が囮となり、敵をひきつけます。その間に殿下達はマーレベルグへとお逃げください」

 「でも、それでは……」

 「良いのです殿下。もとはと言えば我々が殿下のことを十分にお守りできていないことが、王都を守れていないことがこの状況を招いているのです。我々の無力を責めてください。」

 「そんなことは……」


 王女が次の言葉を話す前にオルランドが遮る。


 「殿下、こちらのエルクをお連れください。女性ばかりでは不自由もありましょう」


 オルランドの言葉に、オルランドのすぐ右後ろにいた騎士が反応する。


 「将軍!?私がですか、私は将軍に付いて……!」


 エルクと呼ばれた騎士は不満というより、指名されたことに驚いているようだ。


 「エルク、お前ならばこの大任を任せられる。殿下のこと、宜しく頼む」


 オルランドがエルクと呼ばれた騎士に諭すように話す。

 エルクは戸惑っていたが、すぐに王女に向き直り。

 

 「王女殿下。エルクと申します、将軍の副官を務めておりました。殿下の御身を守らせていただく任務、大変光栄に思います。いかようにもお使いください」

 「期待しております。エルク。将軍、死んではいけませんよ」

 「御意」


 将軍はしっかりとうなづいた。


 「では、我々は参ります。殿下、ご無事で」


 将軍は後ろの騎士たちを従えると、木々の奥、暗闇につつまれた道へと進んでいった。

 どんどん話が進んでいくな、ぼんやりしたままの俺は離しについていけてない。


 「我々も急ぎましょう」


 エルクが声をかけると、王女も、赤い髪の女の子もうなづき、将軍が向かった反対へと向かうが、王女が立ち止まった。


 「そういえば勇者様。この様な状況とはいえ、大変失礼いたしました。」


 王女はこちらを向き直り。


 「私はエルフィナ・ドナート。ドナート王国の第二王女です。帝国の侵略を受け、王国は危機に瀕しております。先程は助けていただきましたが、本来勇者様には何も関係がありません。勝手なお願いですが、私たち王国を救ってはいただけませんでしょうか?」

 

 その言葉に全員がこちらを向く。

 俺も押し寄せるイベントに混乱していたが、ようやく自分に焦点が向けられてこの環境を改めて認識する。

 そういや勇者ってなんだよ、なんだか体も変に動くし。


 「俺は……ん?」


 声が変だ、高いというか細い?


 「俺?」


 赤い髪の子がいぶかしげに聞き返す。

 しかし俺はそれには反応せず、自分の状態をようやく確認しだした。

 

 手を見る、小さい。

 というか腕が細くなってないか?

 

 視線が下へと下がる……これは……む…ね…?


 ナにコレ?どゆこと?

 そういや夢にしてはリアルな感触だったし?

 というか夢…?ホントに?


 おいおいどういうこと?

 自分の体を触りまくり確かめる。

 やわらかいしいい匂いがする。

 摘んだらちゃんと痛いし?


 「あの……勇者様。いかがなされました?」


 王女が聞いてくるが、俺はそれどころじゃなかった。


 「夢じゃなかったの?」

 「夢?」

 「鏡とか、ないかな?」


 確認しなければ……


 「こちらをどうぞ」


 赤い髪の子が荷物の中から手鏡を渡してくれた。

 受け取って、覗き込む。


 そこには、これまたとんでもない美少女が映っていた。

 髪は青い。肩まで伸びた髪が、癖ひとつなくさらさらと流れている。

 大きなく吸い込まれるような深い青の瞳。

 先に王女を見ていなければ、ナルシストになってしまいそうだ。


 これは……女確定か……

 いや、まだ最後の砦を確かめていない。

 ここを確かめたらもう戻れないが……

 

 手を下へ伸ばしていく……






 僕の坊ちゃんはいなくなってしまった……

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