第13話 「農村」
マーレベルグを出発してから数日。
エルクの話では明後日には東の大貴族、ゴルツ公爵の下にたどり着くらしい。
ここまで、帝国に見つからないように大きな街道を避けたりしてきたので、予定より時間が掛かっている。
「もう少し行けば、少し大きな村に着きます。そこで食料などの物資を調達するため少し滞在しようと思うのですが、殿下。よろしいでしょうか」
エルクがそんな事を提案してきた。
「そうですか、かまいません。私も民の様子が見たいと思っていましたし、いい機会です」
王女がそういって承諾した。
そういえば、ここまでエルクと俺で村に入った事はあっても、王女が村の様子を見たりなどはしたことがなかった。
王女がいては目立ち過ぎてしまうからだ。
輝く金髪に目鼻立ちの整った超美少女なんてそうそういない。
もしかしたら正体がバレてしまう危険があったのだ。
まあ、マーレベルグを出るときに目立たない服装をしてきているし、目立つ髪を隠せば大丈夫…か?
「姿を見せないようにすることはできぬが、目立たぬようにわしが魔法を掛けておこう。それなら心配あるまい」
王女の言葉にエルクやティーリエがどう王女を止めるか考えている様子だったが、シモーネのその言葉に安心したのか、王女を止めるようなことはなかった。
村に着き、エルクが物資の調達のために村人に交渉に出かけ、のこりのメンバーで王女と共に村の様子を観察する。
時間は昼前、空は少し曇っていたが十分に明るい時間帯だった。
村の畑では村民たちが汗をながし、懸命に働いている。
畑の隅では子供達が畑作業を手伝ったり、より小さな子供の面倒をみている。
遊んでいる子はいなかった。
「私はこのような風景を見たことがありませんでした」
王女が言う。
「国都ではティーリエに頼み込んで、二人でこっそりと市街を見たことはありましたが、農村ではこのようなのですね……国都では子供は遊ぶものであったのに……」
王女の言葉は弱い。
村民達の様子が国都と違い過ぎているのだろう。
なんといっても一国の都と一農村。
生活のレベルも違うだろうが、それにしてもこの農村は村民に元気がない。
皆一様に痩せ細り、顔に余裕が少ない。
男手も少ないようだが……?
そう思って村中を見渡してみると、ある畑の一角に大人の男達が集まっているのが見えた。
ーーー
「…というわけで、食料などを譲ってくれないだろうか?もちろん礼はちゃんと出す」
エルクが貨幣の詰まった袋を出し、交渉をする。
ここはこの村唯一の宿。
あまり村落には宿などないのだが、この街は国都との街道に近く、宿があった。
村の様子からあまりどの家も蓄えが少ないだろうと踏んで、余裕が多少はあるだろうとエルクは宿に来ていたのだが。
「悪いが、うちにも食料の余裕はないよ、すまないね」
見事にあてが外れた形である。
「そうか、無理をいって済まなかったな」
どこの家なら食料を譲ってくれるだろうか、村長の家なら何とかなるかと考えながら外に出ようとするエルクに宿の女将が声を掛ける。
「あんた。旅の人だろう、ならこの村をすぐに出て行ったほうがいい。もう間に合わないかもしれないけどね」
ーーー
男達が何をしているのか知りたくて、俺は話し声が聞こえる位置まで近付いていた。
畑の一角に集まった男達はなにやら議論の真っ最中である。
女子供に仕事させといて、何してんだ。
「これでいいんだ!聞けば帝国っちゅーのは占領したところからは税をとらねぇって話じゃねえか!俺達が苦しい生活をしているこんな時にさらに税をとろうなんて領主。こっちから願いさげだぁ!」
ずいぶん物騒なことを話してるな。
「この村で、さらに税を?」
王女のつぶやきが聞こえる。
気がつけば王女達も俺の隣にきて話を聞いていた。
「いや帝国を頼るのはあくまで最後の手段じゃ、領主様に税をとるのをやめるよう交渉に行った者達が勝ってくるまで待つんじゃ」
男達の中でも、一段年上であろう老人がたしなめる。
多分あの人が村長とかなのだろう。
「税を払えるだけの余裕なんて俺達に残ってはいない!領主は俺達に死ねって言っているのさ!」
「そうだ!しかも戦争になるから男を兵として出せなんて、そんな事をしたらこの村は滅びるぞ!」
男達は爆発寸前である。
村長がいなければ、武器を取って領主の館に襲撃に行くだろう。
「交渉なんて奴が応じるわけない!まだるっこしいことはせず、他の村にも男達を募って領主を追い出せばいいんだ!今なら帝国につけば何とかなる!」
帝国を随分あてにしているようだが…?
「彼らが言っている帝国の評判は正しいのか?税を免除とか言ってるけど、クラウスもそんな事確か言ってたな」
王女達に尋ねる
「事実じゃ、しかし一方の面ではというやつじゃな」
シモーネが含ませた言い方をする。
のじゃロリ、きちんと説明してくれよ。
「帝国が占領地の税を免除するのは帝国の常套手段なんだよ、最初は優しくしといて、完全になびいたらとたんに重税をかけるのが帝国のやり方。でも普通の人はそんな事知らないからね」
ティーリエが補足してくれる。
ありがとうティーリエ。
「そしてここの領主が日ごろから重い税を課していたのも事実なのでしょう。王国は国としては領主達に重税は掛けていませんが、それぞれの領地の税は領主に一任していましたから」
「王女には悪いが、王国のどの領主も昔からこんなもんじゃぞ。わしも王宮におったときは宰相どもに領主の横暴について意見したこともあったな、聞き届けてくれるとも思っておらんかったが」
「そうでしたか……」
王女の声に張りがなくなる。
まったくこの国の貴族達はこんなのばっかりなのか。
そんな話を聞いていると、街道の向こうから村に向かって数人の男達が走ってきた。
必死の様子である。
「どうした?交渉は?どうなったんじゃ?」
村長がその男達に尋ねる。
すると男達は周りのものから貰った水を飲みつつ、声も絶え絶えに話し出した。
「…交渉は…失敗だ!まるで聞く耳をもっちゃいねぇ!……それより逃げる準備をするんだ!」
「逃げる?」
「そうだ!あの腐れ領主!俺達に兵をけしかけるつもりだ!すぐに領主の兵隊がやってくるぞ!」




