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第10話 「決着、しかし」

 部屋に踏み込むと共に中の様子を確かめる。

 

 部屋の中には俺達を捕らえた壁のような護衛三人達とクラウス、さらに兵士が二人。

 それと王女とマーレ伯の世話をしていたのであろうメイドが一人。

 先程の俺達のように手足を拘束された王女とマーレ伯がいる。


 王女と伯爵は客室中央の豪華のソファーに座らされ、テーブルを挟んだ向かいのソファーにクラウスが座っている。

 クラウスの後ろには壁のような護衛が三人並んで立ち。

 部屋の隅にはメイドが控えている。

 兵士二人は扉の傍に立っていた。


 エルクが声を張り上げる。


 「王女殿下!マーレ伯!お助けに参りました! クラウス殿、ご自分が何をしでかしたか分かっておいでか!これは国に対する反逆ですぞ!」


 ”反逆”という強い言葉にメイドと扉の前の兵士達の顔に動揺の色が浮かぶ。

 彼らはクラウスの理想に賛同はしているが、反逆と言われる事に平気なほどの覚悟はないのだろう。

 メイドに至ってはただ命令され仕方なく働いていたのか顔が真っ青になっている。

 相手の動揺を誘う作戦だが、クラウスと壁のような三人は動揺はない。

 まあ、他の人間に通じたのだ、儲けものだろう。


 「父君であるマーレ伯に対する裏切りでもある!人の道に反する行為だとは思わないのですか!」


 エルクがさらに続けて全員の注意を引く。

 その間に俺は少しずつではあるが王女達の方へ近付く。

 見た目は無力な少女なのだ。

 警戒するものはいない。


 「そんな事は覚悟の上だ。承知の上でこの状況を利用させてもらうのさ、父上にはもちろん恩がある。しかしこのままではマーレ伯領全体が不幸になるのだ。このまま王国が帝国に支配されればマーレの民は苦しむ、帝国は占領初期はその国のものに対し甘いが、抵抗するものがいなくなったとたん重税を掛けてくる。これまで帝国はそうして領土を広げてきている。王国もそうならない保証はない」


 クラウスの話は理があるが、王女を守る立場の俺達からするとはいそうですかと剣を置けるものではない。

 俺個人としてもイケメンと超美少女では美少女を守ることを優先したい。


 「話はそれくらいか?随分腕に自信があるようだが、たった二人では何も出来ないよ」


 壁のような護衛三人を見てクラウスが言う。

 俺が数に入っていない。

 よし、いい調子だ。


 「この三人の実力は本物だよ、試してみようか。こいつらを取り押さえるんだ!」


 時間切れだ、クラウスがエルク達へ向かって護衛をけしかける。

 護衛二人がエルクとティーリエに向かい、一人は俺を取り押さえに来る。


 くそ、運が悪い。

 もしかしたら自分は後回しになるかもと思っていたが、そう都合よくはいかないらしい。

 

 どうする!?

 ここは一気に行った方がいいだろう。


 こちらへ向かう護衛に飛びかかる。

 まさか向かってくるとは思っていなかったのだろう。

 護衛の男の顔に驚きが浮かぶ。

 剣を抜いていない今がチャンスか。

 

 そのまま脇を通り抜けようとするのだが、あと少しのところで捕まってしまう。

 男の腹を殴りつける。

 ぐお、と声を残し男が崩れ落ちた。


 すぐに王女と伯爵の方へ向かおうとするが、すでにクラウスが剣を抜いて立ちはだかっていた。


 しまった…!


 エルクたちを見ると、エルクはやや優勢のようだが、ティーリエは互角のようで二人とも動けそうにない。

 

 「キミは……一体何者なんだ!?ただのお付の女官じゃないな。いやそれにしても……」


 クラウスが一発で倒れた護衛を見て混乱している。


 俺はその護衛の剣を拾いクラウスを何とかできないか考える。

 ティーリエにもこの力は通用したのだ。

 貴族のお坊ちゃん一人、何とかなるだろう。

 そう思い、ティーリエと打ち合った時を思い出し、剣を叩き落そうと、すばやく近付きクラウスの持つ剣を叩き落そうとする。


 クラウスはタイミング良く身を引き、俺と間をとり、逆に剣で切りかかってくる。

 何とか反応し、剣を振り回すようにして無理やり切りかかる剣を防ぐ。


 えっ?

 こいつエルク並に強い?

 

 少なくともティーリエよりは手だれの様である。

 マジか、護衛より強い貴族の坊ちゃんって出来過ぎじゃねーか!


 非常にまずい、何度か同じように切りかかるが、その度反撃を受けてしまう。

 俺の動きが速くても、素人の無理やりな動きなのだろう。

 なかなかクラウスを抜けられない。


 「何をしている!早くその二人を片付けてこちらに手を貸せ!他の兵達も呼んで来い!」


 クラウスがそれまで動けずにいた扉の近くに控えていた兵士に指示を出す。

 兵士達が動き出した。


 まずいまずいまずいぞ、いまエルクとティーリエの戦いに加勢されてはエルクはともかくティーリエがまずい。

 この部屋の騒ぎを聞きつけ、他の場所からも兵士は集まってきているだろう。

 

 ジリ貧である。


 もともと賭けではあったが、そんなに分の悪い賭けではなかったはずなんだ。

 護衛達にこんなにてこずるとは思っていなかった。

 クラウスの剣の腕にもだ。


 「キミの動きには驚かされたが、どうやら決死の救出劇は失敗のようだね」


 何とか、何とかできないか。

 焦る。

 

 ティーリエが護衛の剣を受け、ぐらつく。

 このままでは押し込まれてしまうだろう。

 

 王女の焦る顔が見えた。


 こうなったら、もう思い切るしかない!

 何とかクラウスを抜けられればいいのだ。

 打ち勝つ必要はない。


 おもいっきり全力で走り、クラウス目掛けて突っ込む。

 同時に避けられにくい胴を狙って剣を振り回す。

 クラウスの腕なら防がれるだろうが、王女とマーレ伯の無事が確保できればいいのだ。

 そのまま押し込んでしまおう。


 そう思って突進した。

 俺の剣がクラウスに受け止められる。


 俺はクラウスがそれでバランスを崩して倒れるくらいにしか考えていなった。

 だが、人間を超える勢いの突進をしながら人間を超える腕力で剣を叩きつけたのである。


 ドガァ!


 交通事故が起きたようにクラウスが吹き飛んだ。


 そのまま壁に激突する。

 壁にはピシリとひびが入った。


 ガボッ


 クラウスの口から大量の血が吐き出され。

 そのままクラウスはぐったりと動かなくなった。


 その場の全員の動きが止まり、その状況に目を向ける。

 何より俺が一番驚いていた。


 こんなはずじゃ……


 「王女殿下!マーレ伯!お手を!」


 気がつくとエルクが二人の縄を切り開放する。


 「マーレ伯は開放された!このお家の乗っ取りは失敗である。もう抵抗するな!」


 エルクとティーリエがクラウス派の兵士たちの武装解除をしていく。

  

 「ドナール王国の王女として命じます、ただちに捕らえられているものを開放しなさい!」


 それらの兵士達に王女が命を与えていく。

 一方マーレ伯はこの世の終わりの光景を見つめているかのように目を見開き、呆然としている。

 俺もそうだ。


 「……クラ…ウス…?クラウス……」


 弱弱しい声でマーレ伯が動かないクラウスに近付き、話しかける。

 しかし、クラウスの返事はない。

 口から流れる血でクラウスの周りに血の池が出来ていく。

 死んでしまったのだ。

 見れば分かる。


 「クラウス、目を開けておくれ、クラウス!」


 マーレ伯はクラウスの両頬を両手で包み、揺らす。

 そんな事をしても意味はないのだ。


 「……」


 呆然としている俺とマーレ伯以外はどんどん状況が進んでいくが、俺は動けず、マーレ伯とクラウスから目が離せない。


 マーレ伯はクラウスの体を抱き寄せ、強く抱きしめる。

 反応はないのだ。


 「……ッ」


 声にならない慟哭があった。

 マーレ伯の妻はクラウスを生んだときに産褥熱で亡くなっていたらしい。

 マーレ伯にとってクラウスは頼もしく、出来のいい、可愛い一人息子だったのだ。

 それが、今日、こんな形で失われたのだ。


 確かに息子は大罪を犯した。

 自分を愚かだと見下しもした。


 ただ、たった一人の愛する家族だったのだ。



 それを




 俺が




 奪った。



 こんなはずではなかった。


 考えもしなかった。


 そんな言葉が頭に浮かんでは消えていく。



 カラン。



 持っていた剣を取り落とし、手には何も持っていないはずなのに…





 クラウスを吹き飛ばした時の手ごたえはまだ残っている。



 俺は


 人を




 殺した。


 

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