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第8話 「虜囚」

 

 突然の帝国の奇襲の正体は、クラウスによる伯爵家の乗っ取りだった。

 伯爵家の家臣を掌握したクラウスが父親であるマーレ伯を取り除こうとしたのである。


 あっさりと拘束された俺達はなすすべもなくクラウスの捕虜となった。

 俺は他の仲間と離され、客室の一つに閉じ込められている。


 両手両足を縄で結ばれて身動きできないようにされていた。

 縄で縛られるなんてシチュエーションはゲームで何度も見てきたが、想像以上に縄が肌に食い込んで擦れて痛い。


 ただ、今の俺のばか力なら無理やり縄を引きちぎるのは簡単そうである。

 しかし、いきなりそんな事をすれば警戒されてより強力な拘束をされるだけである。

 今はこの状況をどうやって挽回するか、仲間の状況など情報が欲しい。

 

 すると。


 「やあ、ソラと言ったか。こんな扱いをして済まないね」


 爽やかな笑顔でクラウスが見張りをしていた兵と共に客室に入ってきた。

 くっそ、こんな状況で美少年顔を見せられるのは非常に不愉快である。


 「そんな顔をしないでおくれ。私にとっても苦渋の決断だったんだ。本当はこんなに無理やり父からマーレ伯爵家を受け継ぐことは考えていなかった。待っていれば間違いなく私のものになっただろうからね。しかし……このくにをかこむじょうきょうがそれをゆるさない、ていこくのちからはきょうだいだいまのおうこくではとてもではないがはねのけるけることなどできないだろう…」なんとかかんとか


 間をおき、やや芝居がかったようなしゃべり方をする。

 なんだ、悲劇の主人公にでもなったつもりか?

 確かに美少年だし、そのしゃべり方も様になっていて、そこらへんのお嬢さんなら同情したりするのかもしれないが、


 お れ は お と こ だ


 そんな事をされても、腹立たしさが増すだけである。

 言い訳がましいことばっかり喋っているし、途中から話なんか入ってこない。


 「……と言う訳で王女殿下には申し訳ないが、このマーレ伯領を守るため、帝国へと売り渡させていただく。しかしキミには何の罪もない。王女殿下に殉じる必要もないだろう、どうだ、この私に仕えてくれないか?君が望むのなら別に私に仕えることもない、帝国の騒動が治まるまでは自由にさせることはできないが、その後はキミの自由にしてくれて構わない。どうかな?考えてみてくれないか」


 随分と譲歩をしてくれているが、どうも信用できない。

 自分の気に入った女を失うのが惜しいのであろう。


 うーん。こちらの世界に来た時は王女やティーリエを見て異世界デビューができたか?

 なんて思っていたのだが、もてるのはエルクやコイツなど男にばっかりもてていて、鳥肌が立つ重いばかりしている。

 まあ、そんな事を考えていてもしょうがない。

 どうやらクラウスはこの俺に興味を持っているみたいだし、何とか王女たちの情報を得られないだろうか?


 ここは駆け引きである。


 「何を世迷いごとを!王女殿下をそのように帝国に売り渡すような方は信用できません!殿下を乱暴に扱っているのでしょう?」

 「乱暴になど扱ってはいないさ。父上と共に丁重に先程の部屋で大人しくして頂いているだけだよ」

 「それならエルク様方はどうされたのです!まさか暴力などを…!」

 「待ちなさい。そんな事はしていないよ。べステル殿には薬で寝てもらっているが、他の二人は無事だ。私も乱暴を働くような趣味はない。反抗してくるのなら別だが、今は二人とも別の部屋で拘束しているだけだよ」


 ちょろいな、そんなに俺に嫌われたくないのだろうか。

 まだいけるか?


 「そもそも帝国をここまで呼び込んだのでしょう?この裏切り者!一体どれほどの兵をこの地に呼び込んだのです!」

 「いくら帝国に殿下を売るとは言っても、このマーレ領を譲り渡す気はない。この地へは帝国の兵を入らせないさ。帝国軍の来襲は父上たちを動揺させるデマだよ、実際には帝国軍はここへ来てはいない。帝国軍には王女殿下を引き渡せる状態になってから接触するさ」


 これは不幸中の幸いだな。

 ということは帝国に王女の状況が知られてはいないというわけか、まだ希望はあるな。


 「まだキミもこの状況に混乱しているだろう。しばらく落ち着きなさい。冷静になって僕の言ったことを考えておいてくれよ」

 

 そう言って、クラウスは話す事はもうないとばかりにこの部屋を出て行く。

 一緒に来た見張りも一緒に外に出て、また見張りについたようだ。


 だいぶ多くのことを喋ってくれたな。

 クラウスは女で身を崩すタイプだな、いま絶賛崩し中である。


 王女はマーレ伯と一緒。

 エルクとティーリエは無事、のじゃロリシモーネも。

 帝国軍は実際には来ていない。


 あとは捕まっている部屋が分かれば、動き出せそうである。

 勇者の力を使えば何とかみんなを助けることができそうだ。

 勇者ということを伏せていたのがここで役に立ってきた。


 まずはこの部屋から脱出する手立てだが、壁をこわして無理やり脱出もできそうだが、そんな事をしたら騒動が大きくなってしまうだけである。

 どうにかスマートに脱出できないだろうか。

 いわゆるスニーキングミッションというやつである。


 そんな事を考えながら、使えるものはないかと部屋の中を見回す。

 その時、鏡に映った自分の姿が見えた。

 縄で手足を縛られ、華奢な少女が痛々しい姿である。


 これだ!

 とてもではないがこの少女が自力でこの部屋を出ようと考えているとは思わないだろう。

 その油断を利用するのだ。

 思ったよりこの女の体は利用価値があるな。

 自分としては大変不本意ではあるが……、なんか男にばっかり縁があるし。


 では早速実践である、そんなにのんびりしてはいられない。


 「見張りの兵士の方」

 

 できるだけ絶望した元気のない声を出し、ドアの外の見張りに声をかける。

 俺はクラウスから王女の話などを聞き、絶望しているはずなのだ。


 「なんだ」


 見張りの兵士がドア越しに返事を返す。


 「手足を縛っている縄を少し緩めては頂けないでしょうか?あまりにも痛くて……」


 憐れみを誘う声を出す。

 

 「……うーむ、本当はそんな事はできないのだが、クラウス様にもよろしくと言われているし……。わかった、少し緩めてやろう」


 本当にちょろいもんである。

 男って美少女を前にするとこんなに甘くなるのか?

 自分もそうであると考えると恐ろしいものがあるな。


 ドアを開けて見張りが入ってこようとする。


 今だ!

 俺はすばやく手足の縄を無理やり引きちぎり、ドアの影に隠れる。


 「ん?どこに……がぁっ!」


 俺は入ってきた見張りがこちらを見つける前に後ろから殴りつけて気絶させた。


 上手くいった。

 見張りには悪いが、このままエルク達が捕らわれている部屋を探そう。


 部屋から、そろりと廊下の様子を確認する。

 すると長い廊下の先に見張りが数人立っている部屋が見える。

 同じ階に捕らわれていたのか。

 

 すぐに見つかって運がいいと思いつつ、無理やりこの部屋を出ようとしなくて良かったと思う。

 音を出したり騒いだりしたのなら、すぐにでも向こうの見張りに気づかれていただろう。


 さあ、どうやってあの部屋に侵入したものか。

 正面から向かえば騒ぎが起こる、できればそれは避けたい。


 窓から行くか。

 この部屋には大きな窓があり、ここから外に出られそうである。

 ベランダなどはないが、この体のばか力を使えば壁の取っ掛かりを使ってあちらの部屋まで行けるだろう。

 窓から外を見る、遠くにはあるが向こうの部屋にも同じように窓はあるようだ。

 もし窓から入れなくても、中の様子を確認するぐらいはできそうである。

 壁に取っ掛かりもあるし、これなら外壁を伝ってあそこまでは行けそうだ。


 しかし……。

 窓の下を見る。

 ここは3階くらいだろうか、結構高い。

 体の能力的には壁を伝うのは簡単だろうが、実際にそんな事をした経験はないのだ、はっきり言って怖い。

 だが、他に方法も思いつかない。


 窓を開け、思い切って壁の取っ掛かりを頼りに壁を伝っていく。

 何とか行けそ……


 ガラッ!






 掴んでいた外壁の一部が崩れ、壁から俺の手は離れてしまった……!

 

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