掌編006『どん、どん、どん』
『どん、どん、どん。』綾野祐介
「どん、どん、どん。」
壁を叩く音がする。
叩く音、というよりは足音のようにも聞こ
える。子供が走っているかのようだ。
「響いてますよ、少し静かにしてもらえませ
んか?」と隣に向かって少し大きめの声をか
けた。
「すいません、大人しくさせます。」
女の人の声で返事があった。壁は薄い。結
構声が通るみたいだ。
「どん、どん、どん。」
また音がする。
「●●ちゃん、大人しくしなさい。」
さっきの女の人の声がする。
『どん、どん、どん。』
上から下へ、若しくは下から上へ、右から
左へ、若しくは左から右へ、壁を叩く音。
「どん、どん、どん。」
「どんどんと走り回らないで、お隣さんにご
迷惑でしょ。」子供を叱る声。
「どん、どん、どん。」
どう聞いても子供が壁を走り回る音だった。