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ヘイル・ライルは活躍しない  作者: かいえー
1章 駆け出し
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五話 初探索

 ブラッディマッドとの共同探索当日の朝、ヘイルは予定通りギルドを訪れた。


 昨日、魔道具屋から出たヘイルは魔法薬を服用した後、予定通りに物を買った。買った物の合計額は百五十四ガルである。さらに、残金六十八ガルから次回の食料分である二十五ガルを抜いた四十三ガル、これを使いダガーナイフと回復薬を一つずつ買った。次回の食料分を抜くと、残金は一ガルになってしまった。

 買い物を終えると身体を洗い、久しぶりにまともな食事をした後でアイススピアの試し撃ちを行った。


 現在は、リュックに回復薬、食料、水を入れ、腰に巻いたベルトを使って二本のナイフと小石を入れた小さな布袋を装備している。リュックと言っても現代日本にあるような立派なものではなく、大きめの布袋に紐を二本通して背負えるようにしただけの簡素な物である。また、左腰に装備しているナイフは昨日買った新品のダガーナイフだが、右腰に装備しているのは元から持っていた、拾い物の錆びかけた片刃ナイフである。


 ギルドに入ったヘイルは、ブラッディマッドのメンバーがまだ来ていなかったために、ギルドの資料を閲覧して時間を潰した。

 やがてブラッディマッドの四人が揃って現れたため閲覧を止めて挨拶する。


「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

「先に来て待っているとは良い心掛けじゃねえか。ま、せいぜい死んじまわねえように頑張るんだな」

「ギャハハ、よろしく頼むぜ」

「あまり足を引っ張るなよ」

「ヘヘヘ、よろしくな」


 マッド、ベニー、ロック、ニッドがそれぞれ言葉を返す。

 マッドはバトルアックス、ベニーはロングソード、ロックとニッドは槍を装備している。

 マッドとベニーは金属製の手甲と脚甲を着け、胸部には簡素なプレートメイルを着けている。ロックは皮鎧を基本にして手甲を着け、急所はチェーンメイルで覆っている。ニッドは皮鎧のみだ。


「さて、心の準備は良いな? モンスターにびびって漏らしても服は貸してやらねえからな、それじゃ行くぞ」


 そう言って馬鹿笑いをしながら歩き始めた四人に続きヘイルも歩き始めた。



 ◆



 街を出て街道に沿って西へしばらく歩くと、やがて森が見えて来る。五人は森へ入ると、それまでより歩く速度をやや落として奥へと入って行く。

 マッドが嫌がらせのためにペースを早めていたのもあるが、ヘイルは既に疲れを感じていた。もっとも、微塵もそれを態度に出してはいない。マッドとしては、この時点でヘイルがへばると思っていたため物足りなく感じている。ヘイルのガリガリの身体を考慮すれば、既にへばっていたとしても不思議ではない。


 ヘイルがへばっていないのは――精神的に打たれ強いのもあるが――身体強化の魔法を使っているからだ。魔法とは言っても実際には名ばかりで、詠唱せずに魔力を身体に込めただけのものである。そのため強化の幅は小さいものの、魔力はほぼ消費しないに等しい。

 疲れを見せないヘイルを見て、街道ではどんどんペースが上がっていたため、後半は体力的にかなり危なかったヘイルだが、森に入る直前で若干の休憩が入ったことと、森の中ではペースを上げられないことによりなんとか着いていけている。

 実際のところ、ニッドもへばりかけていた。ブラッディマッドに最後に入ったメンバーであり、四人の中では最も若くまた冒険者歴も浅いニッドは、日頃あまり鍛錬をしていないこともあり、体力的にも戦闘技術的にも心許ない。冒険者ランクも二である。

 ニッドの次に若いのはロックだが、こちらはニッドよりも長く冒険者をやっていることと、ニッドに比べて身体能力の素質が高いこともあり多少の疲労を感じている程度だ。ランクは三である。

 それなりに長く冒険者をやっているマッドとベニーの二人は、この程度では疲労を感じない。ランクは二人とも四である。


 森に入って少しすると、緑色の狼三頭に出くわした。これはフォレストウルフと呼ばれるモンスターで、三頭で行動するのが特徴だ。集団の特性を生かした狩りをすることもあるが、知能はそこまで高くない。単体、集団でのランクはそれぞれ二と三である。


「ロックとニッドはガキの御守りをしてな」


 そう言うと同時に、マッドは襲いかかってきた一匹をバトルアックスで叩き潰す。やや遅れて飛びかかって来た二匹目はベニーが切り伏せ、最後に左から回り込んで来た三匹目をロックが槍で突いて怯ませると、マッドが仕留めた。

 それを見ていたニッドがはしゃぐ。


「流石マッドの旦那と兄貴達だ! フォレストウルフなんて敵じゃねえっすね。見てたか糞ガキ! これがブラッディマッドだ!」

「はい、見てましたよ。みなさんすごいですね」


 喚いたニッドにヘイルが返す。ヘイルとしてはこれぐらいできてもらわなければ困るところだ。


「ハッこのぐらい当たり前じゃねえか! なあマッド?」

「ああ。それより糞ガキ、まさか漏らしてねえだろうな? 余裕があれば次はてめえにもやってもらうからケツの穴絞めとくんだな」


 ベニーとマッドが言葉を続けた。

 棒読みになっていなかったか心配していたヘイルだが、四人は満足そうにしている。

 ロックはあまり喋らない性格のため、周りの言葉に頷くのみだ。


(そんなことより、だ…)


 ヘイルにとって問題なのは、今のマッドらの武器の振りや、フォレストウルフの動きを『速い』と感じてしまったことである。予想はしていたものの、この十三年でかなり鈍ってしまったらしい。前世と今では身体のスペックに差があるため、『速い』と感じてしまうのは仕方のないことなのだが、それはそれとして、この状態でどこまで戦えるのか不安である。

 もっとも、解決の目処はある。この世界においてモンスターを倒すと、そのモンスターと戦った者に『魂の欠片』というものが吸収される。魂の欠片を吸収すると――身体の成長は無いが――身体能力が上昇するのだ。この上昇幅は、その時点でどれだけ身体能力が上昇しているかによって変わり、あまり上昇していなかった者ほどステータスが上がる。乱暴な言い方をするならば、魂の欠片とは経験値のようなものである。

 そのため、今の戦闘ではマッドとベニーは強くなっていないが、ロックはほんの少し身体能力が上昇している。ヘイルやニッドならばもっと上昇していただろう。

 ちなみに、ヘイルが魂の欠片のことを知ったのは、先程ギルドの資料を漁っていた時である。


 その後、フォレストウルフの討伐証明部位である尻尾を回収し、探索を再開した。フォレストウルフの素材は売ることもできるが、この段階で回収しても邪魔になるため放置する。

 探索を再開して少しすると、ゴブリン三体と遭遇する。ゴブリンはそれぞれ石のナイフを持っていた。


「ロックとニッドは右の二体、糞ガキは左の奴をやりな。ベニーは糞ガキを援護してやれ」

「了解だぜマッド」

「分かりました兄貴」

「へい旦那っ!」

「了解しました」


 ベニー、ロック、ニッド、ヘイルがそれぞれ言葉を返しゴブリンへと向かう。


 ヘイルは右手でダガーナイフを抜くと、正面に両手をゆったりと構え、身体から余計な力を抜く。

 摺り足で近づくと、ゴブリンは右手のナイフを振ってくる。あまりにゆったりと構えるヘイルに、ベニーが思わず声を上げる。


「おいっ!」


 一方、ヘイルは焦らず上体を軽く反らしてナイフを避けると、斬り返されないよう左手をゴブリンの右手に添え、左肩を出すように踏み込み、身体の勢いを乗せたナイフをゴブリンの心臓に突き刺す。

 新品のナイフは、ズブリという音とともに、抵抗なくゴブリンの左胸に吸い込まれた。

 断末魔とともに暴れようとしたゴブリンだが、ナイフを持った腕を掴まれているために、抵抗できずに息絶えた。


「悪いな」


 周囲に聞こえない大きさで呟いたヘイルは、動かなくなったゴブリンからナイフを引き抜く。

 ゴブリンの死体からほのかな光の粒が立ち上り、ヘイルへと吸い込まれる。魂の欠片である。

 ヘイルは微かに身体が軽くなったのを感じつつ周囲を確認する。見ると、ロックとニッドがそれぞれトドメを刺すところだった。


「なんだ、驚かせやがって。思ったよりやるじゃねえか」


 ベニーが後ろからヘイルへと声をかける。意外な展開だったらしく、からかうのを忘れ素直に褒めている。


「ありがとうございます。でも皆さんに比べればまだまだですよ」


 ヘイルはとりあえずそう返し、討伐証明部位である右耳を切り取った。


 ◆


 その後同様に探索を続け、討伐数が四百ガル分を越えたため帰還しようとした時、それは起こった。

 運動せずとも鍛えることができ、また孤児として生き延びるため磨きつづけてきたヘイルの感知感覚は、左右の茂みの向こうにモンスターを感知する。

 直後、瞬間的に膨れ上がった殺気。


「「「グルアアア!!」」」

「っ!!」

「ガアアアア!!」

「なっ!?」

「ひぃっ!?」


 咄嗟に伏せたヘイルの上を通り抜ける焦茶色の狼。ロックへと飛びかかり、断末魔すら上げさせることなく頭を噛み砕いた血のように赤い巨狼。そしてベニーの胴体へ噛み付いた焦茶色の狼。


「ブ、ブラッドウルフだと!? 畜生ツイてねえ!!」


 マッドはロックを殺した赤い狼へと、やけくそ気味にバトルアックスを振るうも、あっさりと避けられ距離を取られる。

 一方、焦茶色の狼に噛み付かれたベニーは、積み重ねた経験と防具により、死こそ免れたものの負傷。ロングソードで斬りつけることに成功するも、仕留めることはできずに距離を取られる。

 不意打ちをヘイルに避けられた一体は、流れる動作で、事態についていけずに立ち竦んでいたニッドを噛み殺し、距離を取った。


(こ、これは……)


 ヘイルは間近に迫った濃密な死の気配を感じていた。

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