プロローグ 不滅の魔術師の最期
濃青色の髪と目で頭にバンダナを巻いた青年、それがヘイル・ライルだ。
ヘイルは少々特殊な人間である。「勇者召喚」に巻き込まれ、本物の勇者のついでに異世界召喚された。さらに、とある魔法を開発・使用した事により不老の身となり六百年程生きている。チートと呼べるほど最強でも無敵でもないが、その実力はかなり高い。
また、厨二病をいかんなく発揮し様々な技術を習得している。日本人であるヘイルがこの名前を使っているのも、彼が厨二病だからだ。
そんなヘイルだが、この世界に来てからは、冒険者をやったり、魔法を開発したり、武器を作ったり、不老になったり、仲間と一緒に国を崩したり、あるいは一時期は国王になったりと実に好き勝手に色々やっている。
そして――
◆ ◆
「ぐ……くそ……」
そう漏らしたのは、巫女によって心臓に魔力減衰の祝福付きのナイフを突き立てられた俺。
敵は四人。その上、こいつらはどこで知ったのか俺の身体について熟知していて、ただでさえ手練れ四人が相手で不利な状況がもっとひどい事になっていた。
それでもなんとか猫の獣人の女に手傷を負わせ、エルフの女の武器を壊し、金髪イケメンの魔法剣士を気絶させた所でこれだ。
巫女の持ってるナイフは最初から警戒していたが、戦闘による消耗のおかげで最後は避けられなかった。
これがただのナイフだったなら、たとえ頭や心臓を刺されても、魔力さえあれば俺は死なない。
しかし、魔力減衰の祝福付きという俺殺しに等しい物を、効果を増幅できる巫女によって心臓に刺されたために身体から力が抜けていく。
「……っは……」
その感覚がどうにも切なくて。死ぬ覚悟などとうの昔にしていたが、思わず何かに縋りたくなって。震えながらも右手を再び持ち上げ目の前の少女(巫女)に手を伸ばそうとして、そして肘から先の感覚が無くなった。
「……やらせ…ないぞ…」
焦点の合わなくなってきた目で声のする方を見れば、気絶させたはずの金髪が満身創意の体で剣を振り上げていた。
俺の右腕はどうやらこいつに切り落とされたらしい。
別に何もする気は無かったのだが、抵抗しようとしたように見えたのだろう。
(そんな身体でご苦労なこった)
再び目の前の少女に視線を戻す。
流れる黒髪。おちついた眼差し。華奢な身体。
手に持つナイフこそ似合わないが、それを除けばまさしく巫女と呼ぶにふさわしい美少女だ。
ついさっき会ったばかりで惚れたわけでもなく、それどころか致命傷を与えられた相手ではあるが、今はとにかく縋りたかった。しかしそれはもう叶わない。
左腕を上げる力は、もうない。
(仕方ない、か……)
まともな死に方をできるとは思っていなかったため、今の状況に不満は無い。というかむしろ、この死に方はマシな方だ。俺にとっては。
強いて言えば、今の切ない感じが満たされないのは何だが、これは仕方ないだろう。
もうすぐ金髪が俺にトドメを刺すはずだ。
目を閉じる。
そして意識が途切れた。
◆ ◆
――この日、ヘイル・ライルは死んだ。