第5話 廃墟
多くの人で賑う渋谷に廃墟とは意外に感じられるかもしれないが、渋谷には意外と廃墟が多い。
再開発の用地買収が失敗したり、途中だったりで、そのまま放置されているビル・建物が多いのだ。
そのような物件は、一応所有者はいるが、まともに管理されているとは言い難い。
不審者が簡単に入らないよう、鍵をかけ、シャッターを下ろし、窓にトタンを貼るぐらいで、見回りなんて面倒なことはしない。
一歩間違えると、麻薬取引など犯罪の温床になる場合があるため、警察は一応把握している。
リストの先頭から調べてみることにした。
運良く、4件目で、それらしい物件にぶつかった。
長い間放置されているツタに覆われた薄汚れた低層の雑居ビル。
地下室もあり条件を満たしている。
一応、シャッターは閉じられているが、鍵は壊されていた。
本来警察は、令状なく無断に私有地に入ることは出来ない。
そのため、これは完全に違法捜査だ。
シャッターを上げ、中に入ると、窓などが侵入者が入らない用にトタンで塞がれているため、暗く空気は澱んでいてカビ臭い。
入口付近にあるスイッチを入れても、電気は付かない。
しょうがないので、カバンから懐中電灯を取りだし、中を照らす。
壁は汚れカビが生え、床には埃や泥で汚れていたが、床に真新しい足跡や物を引きずったような跡があった。
何者かが、出入りしているということだ。
当たったのだろうか。
仲間を呼ぶだろうか。
いや、勇み足の可能性もある。単に、不良が使っているだけかもしれない。
確かめる必要がある。
高島は、地下室へと進んで行った。
◇ ◇ ◇ ◇
地下の空気は、いっそうカビ臭く、さらに何かが腐ったような腐敗臭すらしていた。
『キャバレー オセロ』
扉の側には、そう書かれた古びた電飾看板が置かれていた。
高島は、慎重に扉を開けた。
開けた瞬間、強烈な血と肉の腐った悪臭がした。
思わず口と鼻を押さえる。
ハンカチで口と鼻を押さえながら中に入り、床を照らす。
床は血で汚れ、魔法陣が描かれていた。
壁を照らすと、壁際には怪しい祭壇があった。
撮影場所は、ここで間違いなそうだ。
映像からは判らなかったが、部屋を大きく見せるため、部屋の中は鏡張りだった。
それにしても、この酷い臭い。たぶん、本物の動物の血を使ったのだろう。
よくこんなところで、撮れたものだと思う。
明かりで奥を照らすと、まだ部屋があった。
近づき、確認してみると、扉には『VIP ROOM』と書かれていた。
扉を開くと、ここだけ消臭剤と防腐剤の臭いがする。
懐中電灯で、中を照らす。
高島は思わず体が震えた。
暗闇の中、女性が席に座っていたのだ。
いや、違う。相手は高島に一切反応しない。
人形だ。
1体だけではなく、綺麗なドレスを着た5体の人形が席に座っていた。
その顔を見ると、映像の中の少女たちに似ている。
これは一体何の意味があるのだろうか。
ガシャン。
背後で扉が閉まる音がする。
急いで振り返ると、そこには、 鉄仮面を付け全身を黒いローブで包んだ女が、ナイフを持ち立っていた。