第6話 異形
首なし人間が、徐々に近づいてくる。
恐怖。しかし、それ以上に、心の底から湧きあがるのは、闘争の意思。
覚悟を決めた瞬間、勇気は出てこないが、不思議と力が湧いてくる。
「うぉ、りゃ~」
側にある自転車を掴むと、遠心力をつけ怪物へとブン投げる。
「ガシャン」
自転車は、思いのほか飛ばず、怪物の目の前の地面に落ちる。
しかし、勢いはすぐに落ちず先頭の2匹の怪物の足元を直撃。
足元をすくわれた怪物どもはボーリングのピンのように次々と転倒した。
意外と行けると思ったが、怪物どもは、ふたたび立ち上がる。
大したダメージになっていないようだ。
近藤信也は、女性を抱え逃げた。
決して細身の女性ではない。良く言えばグラマーな女性だ。
普段の僕からは考えられない力だ。
火事場の馬鹿力だろうか。
しかし、女性を抱えて動くのは容易ではない。
幸運なことに、怪物の足は遅い。より深刻な問題は、彼女の怪我をどうするかだ。
まだ血が止まっておらず、手が徐々に血まみれになっていく。
これだけの大怪我だ。傷薬や包帯だけではだめだろう。
『!!』
前方にも、首なしの怪物が居る。
挟まれた。
近くの扉も、カギが閉まっていて、開かない。
もう、強行突破しかない。
左右を見た。右は9人。左は、もっと。
迷わず、右の怪物の群れに、突進する。
ほとんど体当たりと言っていい、飛び蹴り。先頭の怪物を跳ね飛ばす。
続いて、横蹴りで、二匹目。
背後から鋭い爪で切りつけられる。痛みが走るが...背後の怪物に対して、連続回し蹴りで、三匹目。
さすがに、これは人を抱えていている状態では無理だった。
バランスを大きく崩してしまう。
四匹目が迫ってくるが、立っているのがやっとで蹴りが間に合わない。
銃声の直後、目の前の怪物から血飛沫が飛び、崩れ落ちる。
連続して、銃声が聞こえ、怪物が次々に倒される。
上を見ると、黒髪の女子高生が、大型の銃を撃っている。
「私がくい止めておくから、さっさと行きなさい。待ち合わせはパルコの裏よ」
「はっ、はい」
この場は、彼女に任せて、僕は女性を抱えて、全速力で走った。
◇ ◇ ◇ ◇
ハサミ女め。余計なことを。これでは、縁を切った意味がないじゃないか。それにスポーツバッグの女。あいつは何者なんだ。同じ契約者か。儀式を邪魔されないように、早めに排除すべきだが。どうしたものか。