第4話 鐘の音
東武裏の駐輪場に戻る途中、雨がどんどん強くなってきた。
ある者は、帰宅を急ぎ。そうでない者は、雨宿りをする。
恋人たちは、傘をさし、2人で一つの傘に入る。
羨ましい。どうせ、もうひとつ傘持ってるんじゃないの。貸してよ。哀れな僕に。
さすがに、吉祥寺でも、だんだん人通りが少なくなる。店のシャッターはだいぶ前に閉まっていて、雨の暗さもあり、通りは物悲しくなってくる。
カーン…ゴーン…カーン…ゴーン…………と鐘の音が街中に響く。
こんな夜中に鐘か。
寺じゃないな。教会の鐘みたいな音だ。
確か、『死の鐘』の噂なんてあったな。
夜中に変な鐘を鳴らすから、そんな噂が立つのだろう。
それにしても、こんな夜中に鐘を鳴らすなんて、非常識だな。
今何時だろう。
携帯を取りでしてみる。
12時ちょうど。どうやら、さっきの鐘は12時の鐘らしい。
ずいぶん、遅くなっちゃったな。
しまった。家にも連絡していない。全速力で帰っても、1時近くか。怒られるなこりゃ。
とりあえず、連絡だけはしよう。
....通じない。
アンテナは...一本も立っていない。
ここ、吉祥寺だよね。
防水のくせに、雨で壊れたか。
ついていない。とことんついていない。
づぶ濡れだ。びしょびしょ。
傘もない。どうやって帰ろう。
づぶ濡れだから、そのまま、帰るか?
今は、まだ6月。日中は温かいが、夜になるとそれなりに冷える。
先ほどまでは、寒さなんて感じなかったのに。
天気も雨、僕の心も雨模様...
身も心も寒い。
財布の中も...寒い。
我ながら、全然、詩的センスがない。
自分のセンスが一番寒い。
風が出てきた。濡れた服に、冷たい風、このままだと確実に風邪をひく。
雨宿りでもするか。
場所は東武の裏。店は閉まり、雨を防げるところは少ない。雨風を防げるところ...とりあえず、アーケードを目指そう。
◇ ◇ ◇ ◇
カーン…ゴーン…カーン…ゴーン…………
鐘の音は、雨宿りをしている長身の黒髪の少女のもとにも届いた。
「こんなときに、始まりの鐘か。ついてない。」
◇ ◇ ◇ ◇
鳴ったよ。鳴ったよ。
鐘が鳴ったよ。
楽しい遊びが始まるよ。
楽しいゲームが始まるよ。
今日は誰が、消えるかな?
今日は誰が、死ぬのかな?
◇ ◇ ◇ ◇
アーケードに誰もいない。
そんな、バカな。ここは吉祥寺だぞ。うちの近所なら、まだしも12時で人が居ないなんてことないだろ。
もう少し早く気が付くべきだった。
さっきから誰とも会っていない。
もしかして、さっきの鐘は合図?
何か災害があって避難中?
そういえば、子供のころ、近所の畑で爆弾が発見されて、爆弾を中心にして半径500メートル、立ち入り禁止、住民全員避難して、誰も居なくなったことがあったな。
いや、爆弾処理だけとは限らない。
バイオハザードやそれに匹敵するような大事件が起きたのかもしれない。
もしかして、知らないの僕だけ?
何で知らせてくれないの。
探すのに夢中で気が付かなかったのか。ショックのあまり聞こえなかったのか。
...もしかして、超緊急事態!!
運が悪い、とことん運が悪い。
それにしても、どっちに逃げればいいんだ。