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閑話 その1 鉢合わせ

「しまった。今日傘持ってこなかった」

 近藤が部活を終えて、外に出ると雨が降っていた。

「折りたたみは?」と鈴木。

「自転車通学だから折りたたみなんて使わない」

「梅雨の時期なんだから、傘は標準だろ」と田中。

「大丈夫、置き傘がある」


「う。置き傘がない。この間使っちゃったんだ」

「ドジだね」

「あたしの置き傘貸そうか」

 田中が珍しく、優しい言葉をかけてくれる。

「この程度の雨だ。速攻で帰れば、なんとかなる」


 近藤と鈴木は、駐輪場に行き自転車を取ってくると、門から出た。


 その時見た光景は、近藤にとり衝撃的なものだった。


 小野寺さんが、村上翼と相合傘で歩いていたのだ。

 村上翼は、小野寺さんと同じ部活の男で、ルックスも良く、身長も高い。成績は僕より悪いが、人望もお金もあるし、運動神経も良い。


「あ~ぁ」

 隣の鈴木も気が付き、声を出す。

 近藤は声を出す気にもなれなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 近頃、吉祥寺の側という立地の良さと、喫茶店に入る金のなさから、週に一回の皆の集合場所になりつつある原田の家。

 とりあえず、広い居間で、情報交換会、勉強会、反省会らしきものをするが、直ぐに原田さんが入れてくれる紅茶を飲みながらの雑談会になる。


「世の中にはさ。幸せになる運命の人っているんだよな」と近藤がボソッと呟く。

「どうしたんだよ。唐突に」と清水。

「世の中には、多少の不幸があっても、王子様が現われて、ハッピーエンドのエンディングになるように準備されている人が居るんだな~と思って」

「小野寺さんのことか」


 近藤が小野寺さんに惚れて、振られたのは、このメンバーの中では良く知られたことだった。

 そして、近藤が憂鬱になることといったら、8割がた小野寺さん関係のことだった。


「彼女に王子様でも現れたか」と結城。

 図星だ。

「...そういうこと」

「近藤さんが、王子様になればいいのに」と原田。

「なれたら苦労しないよ。」

「そうですか?」

「僕はせいぜい、農民だよ」

「努力が足りないんじゃないですか」と原田の率直な突っ込み。

「確かに、努力が足りないな、近藤は。王子様は王子様でいるために、努力してるんだよ。俺みたいにな」


 結城は王子様というか、ナイトというか、そんな感じが良く似合う。

 ファッションのとか振る舞いとかも、力を入れている。毎朝、30分は鏡を見るタイプだろう。

 それくらべ、自分の力の入れようは標準以下。身支度も5分で終わるし、最低レベルかもしれない。


「そうだろうけど。簡単に言わないでよ。相手はルックスも良いし、身長も高いし、金持ってるし。人望あるし。運動神経も良い。勝てる要素がない」


 近藤はネガティブモードまっしぐらだ。


「愛情はどうですか」

「僕の愛情なんて、何の価値もない」


「判った。明日土曜日だから俺がお前のファッションを何とかしてやる。髪も洋服もチェンジだ」

「私も手伝います」

「お金ないんですけど...」


 近頃は、アルバイトも減らしてしまった。その一方で出費は増えている。小遣いだけでのやりくりが辛い。


「おまえ、小野寺さんに好かれたいんだろ。ケチるな。それにファッションは金額じゃない。センスだ」


 ◇ ◇ ◇ ◇


 今日は、昨日の雨とは、うって変って、ひと足早い夏のような雲ひとつない晴天と日差し。


 結城、清水とともに吉祥寺の駅前で原田さんを待っていたら、偶然、小野寺さんに会った。

 服装はかなりのミニスカート。眩しすぎるます。


 そして、隣には村上翼。

 男と2人に、女2人。もしかして、ダブルデート(死語)ってやつでしょうか。

 よりによって、こんなときに会うとは運が悪い。


「どの子が小野寺さん」

 察しの良い結城は、僕の態度から状況を理解したようだ。

「真中の子」

「うわぁ~。めちゃくちゃ可愛いじゃん」

「そうだろ」

「あれは、競争率高いよ。諦めな」

「...そうだよな。判っているんだけど...出来ないんだよね」

「報われないな」と清水。


「お待たせ」

 遅刻ではないが、皆より遅れてきた原田さんが、元気よく皆に声をかける。

 だが、皆が別方向を見ていて、リアクションがいつもと違う。

「どうしたの皆?」


「たった今、近藤の戦いが終戦しました」と清水。

「えっ!!」

 戦わずして、そうそう敗北宣言ですか。

「今日、どうする?」と結城。

 どうやら、結城もあきらめたらしい。

「何が起きたか判りませんが、近藤さんの買い物はお流れですか?じゃあ、デートしましょう。まずはカラオケですね」

「え?」

 なぜ、唐突に。

「だって、私たち、よく会いますけど、基本『あいの世界』絡みなんですよね。でも、チームワークを高めるためには、それ以外の親睦も必要だと思うんです」


 ◇ ◇ ◇ ◇


「いま、近藤、居たよな」と村上翼が小野寺に尋ねる。

「居た」と素っ気ない返事をする小野寺。

「一緒に居たのかなり美人だったよな」ともう一人の男

「近藤と一緒に居たの三鷹の清水に似てなかったか」

 村上翼が尋ねる。

「そうみたいね」


 小野寺が以前見たことがある清水さんの服装は、制服か羽織袴だった。

 羽織袴姿の清水さんも凛々しかったが、ジーンズ姿の私服の清水さんもやっぱり格好いい。


「どういう関係なんだろうな」


 近藤と清水さんが知り合いなのは知っている。

 しかし、演劇部の近藤。弓道の清水さん。車椅子の男性。最後の女性。

 ファッションの系統もバラバラで見た目だけでは、つながりが判らない。

 デートだとしてら、人数がおかしい。


 振り向くと、別の女性が合流したみたいだ。


 しかも、かなり可愛い美人な人。

 ツーサイドアップのロングに白いワンピースの清楚な美人だ。

 可愛らしさを演出するわけではなく、自然に可愛らしさが出ている。


 これで、男性2人に女性2人。デートの可能性も出てきた。


「さぁ?近藤のことなんか知らないわ」

 なんでだろう。無性に腹が立つ。


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