第3話 街で
学校の側の駅にも、家の側の駅にもない。
ということは、都心に電車で出た可能性は低い。なら、一番近い繁華街、吉祥寺に絞って探してみることにした。
吉祥寺は、大通りの路上駐輪に五月蠅い街だ。
そのため、路上駐輪の多い場所は限られる。
多くの場合はデパートの駐輪場か、一時利用だろう。
それに、吉祥寺の北西に住んでいる人間が、吉祥寺大通や線路を越えて、駐輪する可能性は少ない。しかも、24時間の駐輪場は少ない。
一晩中停めていたら、管理人に脇に寄せられる。全部の自転車を見る必要性はない。
近藤は、路上駐輪に注意しながらも、駐輪場を回った。
そして、見つけた。彼女の自転車だ。学校の駐輪マークも付いている。間違いない。
さて、これからどうするか。彼女がこの街に留まっているのか、都心に出たのか、判断できない。手詰まりだ。
都心に出られていたら、お手上げ、僕には、どうしようもない。
僕にできることは吉祥寺の街を探すくらいだ。それも、店の中に入られていたらおしまい。
幸運なことに、彼女の写真は持っている。一軒一軒、カラオケ店や彼女の行きそうなところを探すしかない。
僕は、僕ができる範囲のことを徹底的にやるしかない。
彼女がこの街に居ることを信じて、街を探し始めた。
「ちょっと良いですか」
横断歩道で止まっていると、突然、若い女性に話しかけられた。大人びている感じだが、年齢は、僕より少し上くらいだろうか。
「今、人を探して忙しいんです。勧誘なら別の人にしてください」
なんなんだろうか、この女性は新手の宗教の勧誘だろうか。それとも、デート詐欺だろうか。
「君に大切な話があるの。小野寺さんのことで」
「なぜ知っているんですか?」
「だって私、小野寺さんの友達ですもの」
この女を信じて良いのだろうか?
ひょっとしたら、誘拐犯の一味かも。
「忠告するけど。探すのやめた方が良いわよ。世の中には知らないほうが良いこともあるのよ。知ることにより、もっと悪くなることだってあるのよ」
「小野寺さんの居場所を知っていんですか?」
「居場所は知らない。でも、何をしているかは知っているわ。」
「無事なんですか?教えてください。」
「無事よ」
「よかった。どこに居るんですか?」
「だから言っているでしょ。知らないほうが幸せだって。身の安全が判ったんだから、すなおに帰った方が良いわよ」
「教えてください。それに、僕だけじゃなくて、家族や友達だって心配しているんです。場所を明確にしないと」
「判ったわ。教えてあげる。今頃、ホテルでHしているわよ。」
「えっ?」
「昨日、彼氏とホテルに入って行くの見たのよ。学校に行ってないってことは、まだ、そこにいるってことかもしれないでしょ」
「...」
「判ったでしょ。知らないほうが良いって」
「そんなことないです。事故にあってないことが判っただけでもうれしいです。ありがとうございます。さすがに僕の口から言いづらいので、もし彼女に会ったら家に連絡するように言ってください」
◇ ◇ ◇ ◇
帰るとするか。
結局、僕は何をしていたんだろう。
僕の告白が原因で家で?
過大評価も良いところだ。小野寺さんは、僕のことなんて気にかけてもいない。今頃、彼氏と遊んでいるだ。
バカだ。
涙が出てきた。
泣くな。
泣くなんて、惨めさが増えるだけじゃないか。
しかし、あの女は怪しい。
小野寺さんの友達だとして、なぜ僕のことを知っているんだ。写真で僕のことを見たことがあるのだろうか?
確かに、こんな奴に告白されたと見せる可能は高い。だったら、知っていてもおかしくないか。
それにしても、あの女は僕が聞いてショックを受けるのを楽しんでいた。
正直言って、小野寺さんとあんな女が知り合いだなって、意外だな。やはり、僕は彼女のことをよく知らないということだ。
疲れた。家に帰って寝よう。
『?』
なぜ、彼女が僕の写真を持っているんだ。彼女に写真に撮られた覚えはない。
昨日、振られてから彼女と一度も会っていないし。
振られてすぐに、部室に逃げ込んだ。
わざわざ出待ちしていたとは考えられない。取れるタイミングなんてないはずだ。
僕が彼女の写真を持っているのは、判るとして、彼女が以前から僕の写真を持っているとは考え難い。
彼氏と遊んでいるという言葉が、ショックで理性を失っていた。
あの女は、やっぱり怪しい。もっと、問い詰めるべきだった。
あっ、雨が降ってきた。