第8話 劫火
地図で見る限り、東京ドーム一個分はある。なかなか大きい倉庫街だ。
「広いわね。二手に分かれて探しましょう。近藤は、南側ね」と地図を指さす。
明らかに、この場所から遠いエリアだ。
「えっ、1人なの?」
「何?不満。」
「清水さんは前回、赤マントと青マントの2人組と対戦しているんですよね。今回も、複数の敵を一度に相手にしないといけないかもしれないじゃないですか」
「そうよ。でも、集まっところで敵の総数は変わらないでしょ」
「清水さん、ランカスター戦略とか、知らないんですか?銀○英雄伝説とか、読んだことないんですか?」
「何よそれ」
「要するに、戦力を分散させると、各個撃破されるって話ですよ」
「そんなの判っているわよ。でも、今は早く探すことも重要なのよ。要するに負けなきゃ良いのよ。私は2対1でも勝ったわ。それとも、原田さん一人にするつもり。それでも男」
「いゃぁ、清水さん一人という選択肢も...」
「何!か弱い女子を1人にするつもり」と腕を組んで仁王立ちしている。
本気で言っているのか清水さんは?
隣で原田さんが、苦笑いしている。
どこが、「か弱い女子なんだ」と言う言葉が喉まで出かけたが、我慢した。
「...判りました」
結局、清水・原田組と近藤一人で探すことにした。
◇ ◇ ◇ ◇
近藤は、冷房用のエアコンの機械音だけが響き渡る無人の倉庫街を駆け抜ける。
突然上空が明るくなる。
空中で何かが燃えている。
中心には、何やらマントを付けた少女が存在し、その全身から炎が噴き出していた。
たとえは良くないが、中学校時代のキャンプファイヤーを数倍にした劫火だ。
彼女も、被害者の1人なのだろうか?
それにしても、洋服は燃え落ちたようで、着ておらず、男としては目視しずらい。
にもかかわらず、マントを付けているところを見ると、一応、赤マントなのだろうか?
ここら辺の魔術的コダワリが良く判らない。
空中を浮いて、動き回っているのがたちが悪い。
もっとも、空中を浮遊する相手の話は、事前に話を聞いていたので、対策はしている。
(備えあれば、憂いなしだ)
清水から借りた銃を撃つ。
が、相手に命中しているのだが、まるで普通のBB弾が当たっているように効果がない。
(だめじゃん...)
相手が強いというよりも、こちらの攻撃力が弱い。
清水が撃った場合に比べると、全然威力が小さい。
首なしの『ヘッドレス』を倒すことはできるが、このクラスでは相手にならない。
(まずい...早々策が尽きた)
少女は手を動かすと...上空から火の玉を投げつけてきた。
正直コントロールは良くない。
火球が地面に落ちると、その場で燃え続ける。
少女は、次々と火球を投げつけてくる。
避け続けるが、徐々に動く場所がなくなっていく。
(このままでは、逃げ場がなくなる)
ゲームで良くあるように、剣で火の玉を相手に打ち返した。
1球、2球。球が遅いため、意外と撃ち返せるもんだ。
撃ち返した球の一つが、相手を直撃するが...が無傷。炎ではダメージを与えられないようだ。
ダメージを与えられないが、相手の機嫌は、十分損ねたようだ。
少女は上空に上り始める。
少女は両手を掲げると、巨大な火球を作り始めた。
あんな巨大なものを落とされたら、あたり一面火の海だ。
どう逃げる。
◇ ◇ ◇ ◇
北側の倉庫の中を探していると、扉が開いている冷凍庫があった。
露骨に誘っているのが判る。
罠が仕掛けれられていないか、注意しながら先に進む。
マグロなどの冷凍魚類を置いてある倉庫だろうか、異常に寒い。
室温計を見ると、マイナス20度とある。何十分も入れる場所ではない。
奥に進んでいくと、少し開けた場所に出た。
そこで、清水たちが見つけたのは、壁に縛れ、冷気のため全身に白い霜が付いた少女。
駆け寄って調べると、原田が調べると、虫の息だが、まだ息がある。
「まだ、間に合います」
「無駄!無駄!無駄! あなたちが来るのが遅い。遅い!遅い!遅い~い!彼女はもう助からない。全ては終わってしまったんだよ」
死神みたいな大きな鎌を持ち、全身を赤マントで覆った不気味な仮面を付けている怪物と青いマントを身に付けた少女が現われた。
仮面を付けた赤マント。こいつが元凶、ボスキャラなのだろう。
周辺を見回しても、契約者の姿はない。遠隔タイプか、ハグレカードだ。
「こいつらは、私が相手をする。女子はお願い」
「判りました」
原田は、槍を召喚すると、女子に突き刺し、抜く。
すると、少女の傷が、どんどん塞がっていく。
「くっ」
直後、原田が、苦痛に顔を歪めしゃがみこむ。
「大丈夫?」
「大丈夫です。」
「自己犠牲を伴う回復能力?珍しいわね。それでも、結果は変わらない。あなたたちを殺した後、彼女を殺すだけ」
「何でこんなことを」
「それは、僕が現実世界で活躍するためさ。既にパートナーは見つけたしぃ~」
「中島ね」
「中島?はぁ?全然判ってないね。駄目駄目」
「どういうことよ」
「彼はしょせん、哀れな偶像。利用されてポイ。まぁ、死ぬんだから、話しても無駄でしょ。逃がさないよ」
仮面の赤マントは、マントをなびかせると、大きな鎌を構えた。
◇ ◇ ◇ ◇
「死ね!」
少女は、両手で掲げている巨大な火球を、近藤目指して落とす。
(まずい。)
近藤は、足元に大剣を地面に突き刺さすと、大剣を抜き、その背後に身を隠す。
火球が地面に激突。
炸裂し、巨大な炎の津波と爆風が、地面を這うように拡散し、近藤を襲う。
炎の津波が近藤を襲う直前、地面から水が噴き出し、水の壁が出来る。
だが、炎の津波は、容赦なく水の壁を押し流す。
あたり一面、倉庫街は、文字通り火の海と化した。