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第10話 心の亀裂

 思い出は、近藤が小学校3年生程度の時の思い出だった。

 近藤の家族は、姉二人に、妹一人。名前は、真桜まお美桜みお里桜りお

 近所には、もう一人の姉とも言える人物、野々村桜が居た。

 まるで、冗談みたいな良くできた話。

 野々村桜は、2人の姉より年上で、近藤姉妹にとって、まるで長女のように優しく頼りがいがある人物だった。

 野々村桜はひとりっ子であり、近藤家の姉妹は、まるで妹たちのように可愛い存在だった。

 近藤信也は、そんな野村桜が大好きだった。

 姉たちに苛められると、野々村桜のところへ行って甘えた。

 楽しいことがあると、野々村桜のところへ行って話し。

 悲しいことがあると、野々村桜のところへ行って泣いた。


 ある日の日曜日。

 近藤が昼寝から目を覚ますと、家族が誰も居なかった。

 どうやら、近藤を残して、近所の西友に買い物に行ったようだ。

 近藤は、一人ではさびしいので、近所の野々村のところに遊びに行った。

 ドアが開いていた。

 読んでも、ブザーを押しても返事がない。


 足を音をたてないように、内緒で家の中へ行く。

 居間から変な声が聞こえてくる。

 扉がわずかに開いており、その隙間から、今の中をのぞくと、野々村桜が居た。

 アイスホッケーのマスクを付けた男と一緒に。

 マスク男は、服を破られた野々村桜に覆いかぶさっていた。

 子供の近藤には、マスクの男が何をしているか、判らなかった。

 しかし、野々村桜の服装や部屋を見て、マスクの男が悪人だということだけは判った。

 近藤は、マスクの男に立ち向かう。

 殴られ、蹴られる。しかし、近藤も必死に相手に噛みつく。

 が、小学校低学年の近藤が勝てるはずがない。そのうち、一方的に、殴られるようになる。


「止めてお願い止めて。何でも言うこと聞くから」

 その言葉を聞くと、マスクの男は手を止めた。


 近藤は手足を縛られ、首を固定され、目を閉じないようにテープを張られた。

 そして、そのマスクの男は、近藤に見せつけるように、野々村桜を蹂躙した。


 次の日、野々村桜は自殺した。

 原因は不明。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 清水とキ助は、なぜ、地下一階で近藤が暴走したかを理解した。


 清水は、地下一階の怪物から近藤を助けたのではない。

 近藤の体を乗っ取った悪魔から近藤を助けたのだ。


 ナースが近藤に注射を打ち、近藤は意識を失いかけた。

 しかし、意識を失う直前に、悪魔を召喚した。

 悪魔は、ナースたち怪物を葬ったが、同時に近藤の体を乗っ取った。

 清水が地下一階の霊安室に行った時、近藤は悪魔に乗っ取られていた。

 通常、契約者であれば、悪魔に体を乗っ取られることはない。


 カードによる悪魔との契約は、通常の魔術師が行う紙と血判による契約とは大きく異なる。

 心の亀裂に、魔が流れ込む、魂の契約。

 通常の契約よりも、遥かに強力だが、心の亀裂がないと、悪魔と契約できない。

 この経験が、近藤に心の亀裂を作ったのだろう。


 しかし、記憶を封じたことにより、契約が中途半端な状態になったのだろう。


 近藤は、記憶を取り戻せば、恐らくより、より上手にカードの力を使うことができる。

 マスクの男は、原田を襲ったのと同じ人物に思える。そして、恐らく相手も、契約者。

 近藤自身戦うために、より強い力を望むだろう。

 しかし、そのことが、近藤にとって幸せなのだろうか?

 自分と同じ道を歩かせることになるのではないだろうか?


「どうする、葵」

「結局、魔法では人は幸せになれないのよ」



 目が覚めると、近藤は野々村桜に関する全ての記憶を取り戻した。

 怒りや悲しみなど感情を露わにするかと思ったが、はたから見ると思いのほか冷静だった。


 今は、何が起きたのかを理解できる。


「あの男だ...原田さんを襲ったのと同じ男だ」


 全ては「あいの世界」で起こったこと。そして、マスクの男は能力者で、今も女性を襲っている。

 子供の時は、無力だった。何もできなかった。でも、今は違う。


 近藤の心にあるのは、悲しみや怒りよりも、冷酷な殺意と冷たい復讐心。


 そんな近藤に対して、清水とキ助は静かに見守るしかなかった。



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