第3話 敗北
近藤たちは、人をかき分け逃げ続ける。
「お前その生首持って逃げるつもりか。捨てろよ」
「じゃまですけど、少なくとも化物の足が遅くなります。どうしますか?」
「火か、なんかで、焼くしかないだろうな」
「判りました。やってみます。結城さんたちは離れていてください」
そう言うと、近藤は怪物の前に立ちはだかった。
剣を大きくすると、振り回し、道路を切りつけた。
水道管を切ったらしく、水が噴き出してくる。
何をやっているんだ。当初、結城には近藤の行動を理解できなかった。
じょじょに、玉ねぎの腐敗したような「ガス臭い」ニオイがしてきた。
都市ガスのニオイだ。
結城は近藤の意図を理解すると、原田を伏せさせ、原田覆うように道路に伏せる。
近藤は石を拾い道路に投げつけ、道路に伏せる。
石と道路の摩擦で火花が飛び散り、ガスに引火。
大爆発。
周囲の人々を巻き込み、炎に包まれる。
「あのバカ野郎」
結城が顔を上げると、火は周辺に引火し、あちらこちらから火の手が上がっていた。
そして、近藤は、伏せたまま動かない。気を失っているのだろうか。
肝心の怪物は...炎で焼かれたのだろうか。
甘かった。
炎で焼かれても、焼かれる速度以上に再生する肉片。
飛び散った目、耳、肉が芋虫のように道路を這い、血がアメーバのように蠢いて、一点に集まっている。
そして、切り刻まれた肉体が集まって来て、再び人型になろうとしていた。
結城は、近藤の側によると駆け寄ると、近藤を方で担いで、その場を離れようとするが...重い。
その時、原田が駆け寄り、近藤を手伝う。
炎でも倒せない。
正直、ここまで、不死身の怪物には会ったことがない...
「すいません。原田さん、役に立たなくて」
「そんなことありません。私、助けに来てくれただけでもうれしいです」
素敵な女性だ。この女性を悪夢から救えないなんて、俺は何て無力なんだ...
...俺は、勘違いしていた。
この怪物の強さは、この怪物の本来の強さではない。
ここは彼女の悪夢。彼女が、この男を抵抗できない勝てない男と考えてしまっているためだ。
でも、どうすれば...
怪物は、自分の頭と近藤の大剣を拾うと、三人に迫ってきた。
どうする?
その時、原田が、近藤を背負うのを辞めた。
そして、怪物の前に両手を広げ、立ちはだかった。
「私が狙いなんでしょ」
彼女は、身を投げ出して、自分たちを逃がすつもりだ。
怪物は、近藤の大剣を振り上げ、原田に振り下ろす。
恐怖のあまり、思わず目を閉じる原田。その時、自分を突き飛ばす人がいた。
目を開けた原田が見たものは、自分の代わりになり、腹を貫かれている結城の姿だった。