エピローグ
学校の帰り、あと十数メートルで家に着くところで、渡辺清子は、突然、背後から声をかけられた。
「動かないで。振り向くと撃つわよ」
この声の主には聞き覚えがある。
「声を出しても無駄よ。ここは、既に『あいの世界だから』」
「要件は何なの」と長い髪をかき上げ、ダルそうに答えた。
「恋人たちを別れさせていたのは、あなたでしょ。仲を元通りにできないの」
「残念だけど、無理。一度切った赤い糸は、私には元に戻せないわ」
近藤とかいう男の絶望した表情は、最高だった。
この女は、どんなリ表情をするのかしら、顔を直接見れないのが、残念だわ。
「そう。残念だわ...」
その声は、冷静で醒めたものだった。
そして、そう言い放った女から黒く冷たい殺気が感じられた。
この女、私を殺す気だ。
「待って。確かに、悪いことはやったけど。人を殺してはいないわ。だから、命だけは助けて」
「ごめんね。私は正義の味方じゃないの」と言うと、誰も居ない街に、銃声が鳴り響いた。
◇ ◇ ◇ ◇
部室に行くと、何か、僕に対する皆の様子が変だ。
「おまえ、もう、乗り換えたのか」
鈴木が話を切り出す。
「えぇ?」
「誤魔化すなよ。夜、別の女性と一緒に居ただろ」
何なんだ。この妙な情報の速さは?
「確かに、別の女に変えろといったけどさ。おまえは、振られても、小野寺さん、一筋だと思っていたんだけどな~」
なんですか、この勘違いは。近藤は否定するが、周りの人は信じない。
「抵抗しても無駄です。物的証拠があるんですよ」
そう言って、山村は携帯の写真を見せた。
写真を見ると、清水さんとマックで話しているときを取ったものだ。科学技術の発展を恐ろしく感じる一方で、ラブホテルへ入るところじゃなくて安堵した。あれが取られていたら、弁解の余地がなく、致命的だった。
「誰が取ったんだ」
「ニュースソースは言えません」
「小野寺さんが以外の人を好きになるのは、別に、悪いことではない。否定する必要なんてないじゃないか。正直になれ」と鈴木。
「そうですよ。好きな人が変わることは、悪いことではありません。運命なのです」
一か月ごとに、好きな人が変わる山村に言われても、説得力無いぞ。
「皆さんの勘違いです。僕は、まだ小野寺さんが好きなんです」
ここまで、はっきり言えば、皆、信じてくれるのではないだろうか。
近藤は淡い期待を持った。
「二股?」
田中がボソリと言う。
「...違います。彼女とはそういう関係ではありません」
「じゃあ、どういう関係なんだよ」
今まで考えたこともなかった。助けてくれた人。恩人。どれも、少し違う気がした。
「それは......戦友です」
この言葉に、当然、皆が納得することはなかった。
かくして、僕は、彼女一人居ないのに、二股の近藤と言われるようになってしまった。
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『赤い糸編』は、だいたい終わりです。かなり中途半端ですが、残った点に関しましては続編や加筆でカバーしたいと思っています。
基本的にいろんな作品の影響を受けています。全然表現できていませんが。ベースは『カードキャプチャーさくら』、アクションは『ジョジョの奇妙な冒険』『ワンダと巨像』、あいの世界は『サイレントヒル』などなどです。