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第17話 残ったこと

 原田は、自らの胸を刺し、床に倒れる。

 原田の体から大量の血が流れ、魔法陣が血を吸収し、光り始める。さらに、頭上に、光の魔法陣が浮かび上がる。

 まずい、術が発動している。このままだと女子の命が危ない。

 どうすれば、良いんだ?

 とりあえず、魔法陣を壊そう。剣で、魔法陣を切るが止まらない。

 何が起きているんだ。どうすれば、良いんだ?

 その直後、頭上の光の魔法陣が消え、床の魔法陣の光も消えた。どうやら、術は完了したようだ。


 女の子たちは、どうなっているんだ。棺のひとつに近づき、恐る恐る女子の生死を確かめる。

 生きている。

 では、いったい、何の呪文が発動したのだろうか?


 気のせいか、ローブで全身を包んだ原田の体が、小さくなっているような気がする。

 近づいて、ローブを取ると...そこには女性が居た。

 見覚えがある。

 原田優奈だ。

 どういうことなんだ。


「この世界は、もうじき崩壊するわ。女の子たちを連れて逃げるわよ」

 清水の声で我に返る。

  この『あいの世界』は、原田が作成した可能性が高い。ならば、原田の死とともに崩壊してもおかしくない。


「小野寺さん...逃げ...ます...よ」

 小野寺さんの方を見ると、一糸まとわぬ姿。スレンダーだと思っていたけど、意外と胸がある。緊急事態に、意識してはいけないのだろうが、自分でも顔が赤くなっていくのが判る。

 小野寺さんも、僕の表情で察してか、慌てて両手で隠す。が、既に遅い、完全に目に焼き付けてしまった。

「エッチ!!」と平手で近藤をたたく。


 とは言っても、騒いでいる時間はない。急いで少女たちを起こすし、原田優奈を抱えると、この場から逃げ出した。


 清水の言うとおり、夜の訪れ共に、この世界は崩壊した。


◇◇


 授業中、窓の外の青空を見ながら考える。


 結局、どういうことだったのだろうか?

 判らない。

 少女たちは、家に帰って行った。しかし、原田に囚われていたいう記憶はなく、その事実すらない。

 ある人は、友達の家に泊まり続け。ある人は男の家に入り浸り。ある人は、年を偽り、部屋を借り1人暮らしをしていた。

 契約者であるはずの小野寺さんも、記憶はなく。親との喧嘩で家出ということになった。

 喧嘩の原因は、兄の部屋の扱い。いつまでも、同じように保存することを求める小野寺さんに対して、父はケジメをつけるための整理を主張した。それが原因で大ゲンカに発展し、家出したらしい。

 家出の間、どこに居たかというと、カラオケ店で寝泊まりしていることになっていた。僕がカラオケ店を回って、写真を見せたことから、家出が発覚し、警察に通報されたらしい。

 そして、何よりも不思議なのは、死んだのは原田優であり、原田優奈が別の病院で生きていることだ。

 つまり、原田兄は、病院から妹を無断で連れ出し、別の病院で、より高額な自由診療を受けさせていたらしい。早い話が、ブラックジャックのような腕は良いが高額な無資格な医者に、無認可の手術をさせ、一命を取り留めたそうだ。

 そして、その高額な治療費は、死んだ原田優の保険から降りた。

 原田優は病院に見舞いに行っている道の途中で、ひき逃げ事故にあい死亡したことになっていた。犯人はいまだに捕まっていないし、捕まらないような気がする。


 結局、全ては夢だったのだろうか?

 清水さんとのやり取りを思い出した。


「言ったでしょ。間の世界の出来事は、真実であり偽り。全ては私たちの妄想だって。少女が原田に囚われていたのは私たちの妄想なのよ。現実世界では」

「じゃあ、僕たちが何もしなくても、彼女たちは戻ってきたのかな」

「どうかしら、別の現実になっていたのかもね。結局、私たちには判らないことだから」


 結局、残った現実は、僕が小野寺さんに振られたこと。再び、教室で、小野寺さんの背中を見れるようになったこと。そして、清水葵という年上の女性と出会えたことだろうか。

 それだけではない、小野寺さんの全裸の姿...思い出して、思わずニタニタしてしまう。駄目な奴だ。


 コツン。

 額に何かが当たる。机を見ると、紙を丸めたものが転がっている。

 誰が投げたのだろうか?

 顔を上げると、小野寺さんが、僕の方を見ている...そして、「あっかんべー」をすると、再び何事もなかったように前を向いた。

 なんなんだろう。

 紙を開くと、何か書いてる。

「バカ! でも、ありがとう」

 この『バカ』は、どういう意味なんだろう。

 そして、『ありがとう』は何を指しているのだろうか。彼女は本当に記憶がないのだろうか。それとも、彼女を探しまわり、探し出したことを言っているのだろうか。

 僕には判らない。


 でも、今日、一日は、のんびりと青い空と、彼女を見ていたいと思った。

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