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第15話 兄妹

「起きろ!ボケ!」

 近藤信也は、頭を襲う強い衝撃で目が覚めた。

 目の前には、アップの清水の顔。明らかに怒っている。

「気絶するなんて、あなた、ホントに契約したの?」

「たぶん」


 夜だったのはずなのに、今、自分は夕焼けの日差しが射し込む部屋の中に居る。

 目をこすりながら周囲を見ると、家具、間取り、天井、全てが変わっている。 ホテルにいたはずなのに。


「それより、ここはどこですか」

「知らないわよ。たぶん、間の世界」

 間の世界...怪物の居る世界か。

「でも、ちょっと今までとは感じが違うわね。外を見てみなさい。」


 立ち上がって、窓際に行き、外を見える。

 夕焼けの赤い空。

 大きな夕日に照らされたヨーロッパのスイスのような美しい森と山々と湖の風景。

 そして、窓の外の庭は、バラが咲き乱れる良くて入れされた英国式庭園。

「素敵な庭だな」

 近藤は、庭へ出た。

 風景と相まって、まるで絵画の中にいるようだ。 


 屋敷から少し離れた湖の畔のテーブルには、少女ひとり座っている。

 透き通るような白い肌の少女だ。

 どこか、綺麗だが、どこか現実離れした感じを受ける。

 清水から聞いた、原田優の妹の優奈だろう。

 近づいて、声をかけてみた。


「こんにちは」

「こんにちは」

 少女は笑顔で返事をする。

「素敵な風景ね」

「ありがとう。でも、もうじき終わってしまうわ」

「なぜ?」

「夕暮だから」

「きっと、星空の下で見ても素敵だし、明日だって素敵だよ」と近藤。

「そうかもね。男の人って...女よりもロマンチストよね。優もそう...」

「優さんは、いらっしゃいますか?」

「優に用事?ごめんなさい。今、優はここに居ないの。ここから見えるでしょ。湖の小島の教会。あそこに女の人と一緒に居るわ」


 少女の指差す方を見ると、鐘塔がある小さな教会が見える。


「その女性って、この人ですか?」

 近藤は携帯の写真を見せる。

「そう。この人。可愛い人よね」と屈託のない笑顔で答える。

「2人とも、急がなくても、良いの? もうすぐ、終わりが始まるのよ」


 近藤と清水は、少女と別れると湖畔に止めてあるボートを借り、小島の教会へと向かった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ラブホテルに行く前に一か所、行ったところがある。

 閑静な住宅街にあるなかなか大きな一軒家。そこは原田優と原田優奈の家だ。

 原田優と原田優奈は、二卵性の双子の兄妹。両親を事故で失い、兄弟二人で暮らしていた。

 遺産はそんなに多くなかったが、敬虔なクリスチャンである2人が美大に行き、質素な生活をおくるには十分だった。

 原田優は彫刻、優奈は油絵を専攻しており、なかなかの腕だったらしい。

 2人だけの穏やかで、幸せな生活。

 そんな生活が終わったのは、2か月前。優奈の自殺で突然幕を降ろした。

 一命を取り留めたが、瀕死の重傷。自殺の原因は不明。

 問題は、それからだ。自殺者を教会で埋葬することはできない。天国へも行けない。

 神父が言った言葉は、原田優を狂わせた。その後、優奈が病院から消えた。

 病院から消えたのが一カ月前だから、病院の設備なしで、生きていることは考えづらい。

 近藤と清水が、原田の家で見たもの、それは、数多くのオカルト系の書籍、魔法陣、そして、優奈に似せて作られた実物大の精巧な粘土像。


 さらに、数枚の小野寺の写真。

「これで、彼女が原田に連れられたのは確実ね。そして、彼女は『恋人』の所有者」

「なぜ、そんなことが判るんですか」

「原田がやりたい儀式を考えれば判るわ。『運命の輪』はハサミ女だから、彼は『悪魔』の所有者ね」

 

 ◇ ◇ ◇ ◇


 小島の教会の礼拝堂には、3人の人間が居た。

 小野寺、原田優、そして、女が一人。

 女は司祭の格好をし、小野寺は純白ローブ、原田は漆黒のローブをまとっている。

 目の前にあるのは、6個の棺。床には六芒星を基にした魔法陣が描かれ、頂点に棺が置かれている。そして、棺の中には、白衣を着た6人の少女が死んだように横たわっている。

「死んでいるの?」と小野寺が心配げに尋ねる。

「死んじゃいないよ。眠っているだけ。儀式はこれからなんだから、死んでたら役に立たないじゃないか」



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