第11話 屋上
小野寺 瞳。
彼女のことを好きになったのは、いつごろからだろう。
正直言って、入学式で彼女を見ていてから、好きになっていたのかもしれない。
でも、ただ思っているだけで、何も出来なかった。ただ、1年2年とクラスだけは同じで、時より一緒に活動したけど、何もかもが違い、深く知り合う機会がなかった。ただ、遠くで見ているだけで時間が過ぎて行った。
「...そんなこと、突然、言われても困ります。」
彼女が、そう言ったことだけは判った。
その言葉を聴いた瞬間、文字通り目の前が真っ暗になり、世界は、ガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
近藤信也、16歳、高校二年生の恋の告白は終わった。
その時、その言葉を彼女が、どんな顔で言ったのか、判らなかった。
怖くて、彼女の方を見れなかったためだ。
つくづく、だらしなくて、惨めな男だと思った。
彼女に振られて、当然だ。
「ご、ごめんなさい」と言うと、僕は振り返ることなく、急いで、その場を立ち去った。
惨めだ。
こうなることは、判っていたはずだ。
それは、今からほんの二日前の昼休みの時間の出来事。
夢だったら良いなと思っていても、それは厳然たる事実で、逃れることはできない。
初めての告白は、惨めに終わった。
中学時代にも可愛いなと思う女の子はいた。しかし、それは遠くで見ているだけで終わってしまった。勇気を出して、人生初めての告白。そして、瞬殺。
初恋は、上手く行かないと友達は、言っていたが、まさにその通りだ。
ひと眠りした後、学校の屋上で、寝そべって、空を見上げていた。
どうでも、良いや。
もっと、遠く行っても良かったのだが、なぜか遠くに行く気にはなれなかった。
白い雲が浮かぶ青い空。
6月の生命力に溢れた緑。穏やかで暖かい太陽の日差し。
空を自由に飛ぶ鳥。公園で、声をあげて遊ぶ子供たち。
いっぽう、自分は、どんよりと沈み、全てが、今の自分には眩しすぎた。
今すぐ、世の中から消えてしまいたい。
失踪、自殺も考えたが、それは家族に迷惑すぎるだろう。何よりも、彼女に対して、あてつけみたいで悪い。いっそう、誰かに殺された方が良いと思ったが、そう都合良く殺人者が現れるわけもない。
身を起こし学校の隣の公園を見下ろした。犬を連れて散歩している老人。一休みしているサラリーマン。公園での幼児を連れた母親たちの井戸端会議。
皆、幸せそうに見える。そして、自分が酷く汚く感じられた。
再び、寝そべり、空を見上げる。
カーン…ゴーン…カーン…ゴーン…………どこか、遠くで教会の鐘がなっていた。
身を起して携帯の時計を見る。1時、23分。
時報ではない。携帯のアンテナもゼロ本。昨日と同じ状態だ。
自分の目を疑った。
空中で鳥が止まっている。
動いていない。全てが止まっていた。
始めは目の錯覚かと思った。
身を起こし、立ち上がり、急いで周囲を見渡す。
犬を散歩させている老人も親子も全てが止まっていた。人間ばかりではなく、空を飛ぶ鳥も、自動車も止まったいた。
いや、止まっているだけじゃない。
あたりが暗くなり始めているのに、気が付いた。雲が太陽を遮ったのではなかった。
日蝕。
空を見上げると、日蝕が起きていた。
子供の頃、一度見たことがあったが、それとは明らかに異なったものだった。
月ではない何かに、ただ一方的に、太陽が侵食されているのだ。
そして、太陽が侵食されるにつれ、周辺にも変化が現れ始めた。
そればかりではない。屋上の鉄製の柵は、錆びて、朽ち始めた。木々も枯れ始め、校舎は廃墟のように薄汚れ朽ち始めていた。
それは、まるで世界が死に始めているようだった。
またまた、苦手なアクション編。