閑話 その1 名声
もう夜の10時。
廃墟からの帰り道、渋谷のマークシティを歩いていると、どこかで会ったことがあるような女の子が居た。
ギャルオ系ファッションの男3人にナンパされている女の子3人組の1人だ。
スポーツ系ボーイッシュな感じで、渋谷で夜遅くまで遊んでいるような感じではない。
夏休みの魔力だろうか。
気のせいか、ナンパを嫌がっているように見えるのだが...どうにも、若い子のリアクションは判らない。
「どうしたの」
近藤の態度が気になったのか、原田さんが声をかけてきた。
「あそこで、ナンパされている女の子。学校で見たことがあるなと思って」
「なんか嫌がってない」
「やっぱり、そう見えますか」
「お前には、そう見えないのか」
「嫌よ、嫌よも、好きの内って言うじゃないですか。あれって、交渉術じゃないんですか」
「女の私から見て、あれは100%嫌がっているぞ」
「男の俺から見てもそうだ」
そうですか...男女二人が言うのだから間違いないだろう。
「......」
三人とも僕を無言で見る。
「助けないといけないですかね」
「助けないの」
原田さんが軽蔑した眼差しで見る。
「勘違いだと恥ずかしいし...それもありかなと思ったのですが...」
「その選択は、人間として、どうかと思うよ」
「そうですよね...」
作戦としては取りあえず、知り合いを装った挨拶。
その後は、流れでアドリブだ。
そんな器用なことが僕に出来るのだろうか。
「助けてほしければ、女の子の方が話を合わすから大丈夫よ」
◇ ◇ ◇ ◇
女の子たちに近づくと、大きな溜息の後、覚悟を決めて声をかけた。
「おひさしぶり」
近藤の挨拶に対して、男たちは近藤を睨みつけ、女の子2人は、けげんな顔をした。
しかし、1人だけは明るい顔になった。
「近藤先輩。こんばんわ。遅いじゃないですか、待ちましたよ」
なるほど、これが女の子方から、話を合わすというやつか。
それにしても、彼女は僕の苗字を知っていた。
僕って、そんなに有名人だったかな。
「ごめん。ごめん。ところでこちらの人たちは」
「先輩が、あまりにも遅いんで、私たちナンパされていたんですよ」
「どうも、すいません」
「連れが居るんじゃ。しょうがないな。じゃあ、また、別の機会にね」
男たちは、爽やかに去っていたった。
う~ん、引き際を判っているということか。やるな。
「先輩。ありがとう。ございます。ナンパがしつこくて困っていたんです」
夜遅くまで居るからだと小言を言いそうになったが、そこは我慢した。
「今から帰るんだけど、一緒に帰る?」
彼女たちはお互いを見ると「はい」と返事をした。
どうやら、多少は懲りたようだ。
帰る途中で話を聞くと、僕を知っていた生徒は、部室が演劇部のとなりのテニス部に所属していた。
なるほど、だから顔だけ覚えていたのか。
しかし、なんで彼女は、僕の名前を知っていたんだろうか。
彼女は言うのを躊躇していたが、ようやく話してくれた
「演劇部の三上先輩や山村さんって、有名ですよね」
確かに、三上先輩や山村は、見た目、人脈、行動、態度などなどで学校では有名人だ。
「先輩は、振り回されている人ってことで有名ですよ」
「......」