第8話 魔は、悪魔の魔
「愛の世界?愛じゃなくて、地獄の間違いじゃないか」
「ラブの方じゃなくて、ハザマの方の間よ。現実と夢の間。物質世界と精神世界の間。真実と偽りの間」
「良く分からないけど。どうしたら戻れるんだ。元の世界に」
「さぁ。始まりの鐘も突然だけど、終わりの鐘も突然だから。でも、たいていは1、2時間で、戻れるわよ。生きてればだけど」
『生きてればだけど』か。僕は生き残れるのだろうか。
「もしかして、多くの人がこの世界に引き込まれたりするのか?」
「カードさえなければ、たいていは悪夢で終わるわ。運が悪ければショック死だけど。」
「じゃあ、帰れなくなって、失踪者になることはないんだ」
近藤は、小野寺さんが巻き込まれた可能性について考えた。
「ないわけではないわ。カードの所有者に捕まって監禁されたりした場合は帰れなくなるわね。その場合、家出や失踪として認識されるけど。知り合いに失踪者でもいるの」
「昨日から家に帰っていないらしい」
「そうなの...問題はあなたよ。どう?」
ポケット探ってみた。
『!!』
何やら...カードのようなものがある。こんなの入れた記憶はないのに。
取り出して、絵柄を見るとトランプとは違う。何やら、剣が書いてある。
「見せて」
図柄を見せた。
「剣のエースか。カードを持ってるってことは、死ねないわね。」
「どういうことなんですか?詳しく話してもらえませんか」
彼女は大きくため息をついた。
「...良いわ。まぁ、時間もあることだし、あなたはもう逃れられないし、私の知っている範囲で話してあげるわ。何ついて知りたいの」
「その...カードについて知りたいんですけど」と手元にある剣のエースについて見せる。
「カードは悪魔を封印した魔法のタロットカード。そのカードの所有者は、魔法を使えるようになるのよ。その代わり、普通の人よりも、より強い影響下に入るわ。普通の人なら、悪夢で済む話でも、カードの所有者には現実になるの」
「つまり、悪夢の中で死ぬと死んでしまう」
「そう。」
「その...そういえば、お名前を聞いていませんでしたね」
「そうね。でも、最初にあなたが名乗るべきじゃないの。お礼もまだ出し」
彼女は、悪戯っぽい笑顔で言った。
「助けて下さって、ありがとうございます。僕の名前は、近藤信也です。よろしくお願いします」
「私の名前は、清水葵。よろしく」と素っ気なく答える。
「清水さん。清水さんは、何回くらい、この世界来たことあるんですか?」
「プライベートについてはあまり話したくないわね。でも、このくらいなら良いか。5回まで数えて辞めちゃったけど、だいたい20回くらいかな」
「こんな地獄に、20回も...」
「こんなのまだ優しい方よ。氷や炎の世界だってあるんだし、あんな怪物は雑魚よ。それにあなたには、契約者になるためのテストが待っているんだから」
「契約者になるためのテスト?」
「あなたは、カードの所有者だけど、まだカードの契約者ではないのよ。今後、カードの契約者となるべく、試練があるわ」
「契約者になれないと、どうなるんですか」
「カードの契約者になれない者は、カードの悪魔に魂を食われる。なるか、死か、選択肢は二つしかないのよ」
頭が痛くなってきた。
この日は、怪物の襲撃もなく、いろいろなことを聞きながら、無事生き残ることができた。