【赤い糸編】 プロローグ その1
「ここは一体何なんですか。悪い夢でも見ているんですか」
近藤信也は、異形の怪物が街を徘徊し、人間を襲うこの奇怪な世界について、黒髪の女に尋ねた。
「良く判ったわね。ここは夢の世界」
「夢の世界。夢か。そうだよな。こんなの現実なわけないもんな」
ほっとして、緊張が切れたら、背中の傷が痛み始めた。
「それにしても、傷が痛いとは、ずいぶんリアルな夢を見るもんだよな。自分だけなのかな、それとも夢の中では痛みがないっていうのが、嘘なのかな」
「知らないわ。傷が痛いのは、半分現実だから。ちゃんと傷治療しないと、現実世界でひどい目にあうわよ」
この女が言っていることの意味が判らない。夢だから滅茶苦茶とも考えられるが。
「何を言っているんだ。さっき、夢の世界って言ったじゃないか」
「ここは、現実の世界であり、夢の世界でもある、人々の思いが具現化する『あいの世界』」
◇ ◇ ◇ ◇
「ねぇねぇ、小野寺。『死の鐘』って噂、知ってる?」
朝の教室で久保恵は、ミディアムヘアの可愛い友人である小野寺瞳に話しかけた。
「知らない。知りたくもない」と小野寺は目を閉じ、耳をふさぐ。
小野寺が怖い話が苦手なことを知っていて、話しかける久保だ。
こんなことで、話が止まるわけがない。
久保から見ると、ここまで反応が良いと話がいがある。
そして、小野寺は、弓道をやっている時は凛々しいのに、こういうところで、子供っぽい仕草をする。
このギャップが、久保にはたまらない
「自分にしか聞こえない鐘の音が聞こえたら、もうすぐ死んじゃうんだって」
「どうして死んじゃうの?呪い」
小野寺も怖いなりに聞いている。
「鐘の音が聞こえると、生きたまま死者の世界に連れて行かれて、殺されるんだって」
「......どうしたら、避けられるの」
たいてい、こういう都市伝説には回避方法があるものだ。
口裂け女ならポマード。ドラキュラなら十字架に、ニンニクだ。
「魔法を使うのよ。ポケットの中にタロットカードがあって、『カードの名前』を叫ぶと、魔法が使えるようになるんだって。それで怪物を倒すの」
「なんか、急にゲームみたい」
小野寺は、急に怖くなくなった。
「でも、噂なんてそんなものでしょ。途中から、とんでもない回避法が追加されるのは。でも、話には続きがあるんだ」
先程まで、耳を塞いでいた小野寺が聞き耳を立てている。
久保は、小野寺を焦らす。
「生き残っても、死神が現れて、結局殺されちゃうんだって」
◇ ◇ ◇ ◇
「はぁ~」
近藤信也は、演劇部の部室で深いため息をついた。
「先輩。好きな人ができたんですね」と後輩の山村美紀がツーサイドアップの髪を揺らしながら声をかける。
「えっ?」
「誰だってわかりますよ。私は、今恋患い中ですって顔してますもん」
噂好きの人懐こい後輩。
こいつに話したら...部活中、いや学校中に知られることになりかねない。
「そんなことないよ」
「先輩。嘘つくの下手なんですから。嘘ついても駄目ですよ」
「...」
「先輩。恋の悩みなら、私に任せてください。悪いようにはしませんから」
その割にしては、いつも失敗してるじゃん。という言葉が頭をよぎる。
しかし、彼女居ない暦=年齢の自分よりは、ましであることは間違いない。
「私の占いによると先輩のモテ期は幼稚園で終わっています。」
山村は、近藤の手相を見て断言した。
「誰が、お前の手相占いなんか信じるか!!!」
「冗談ですってば、先輩。私、凄~く良くあたる占い師知っているんです。告白する前に行ってみては、どうですか?」
山村に連れられ、試しに行ってみた。
そこで得た答えは、
『僕と彼女は赤い糸で繋がっているということ。
世界は、自分次第で変わるということ。
そして、僕は新たなスタートラインに居るということ。』
告白することにより始まると言う。
「運命の赤い糸ですよ。めちゃくちゃ良いじゃないですか?先輩の人生の中で、これ逃したら、次はないですよ」と山村が興奮気味に言う。
それにしても、解釈が、どうとでも取れる答えだ。
人生、初めての告白。
乙女じゃなくても、人生の転換期なのは間違いないだろうけど。
読んでいただき、ありがとうございます。
設定・プロットをあまり書かずに長編を書いたのは初めてなので、修正が入りまくりです。
知り合いに指摘された箇所を直したので、以前よりましになっていると思うのですが...
良い点は残し、悪い点は直すように頑張っています。