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あの子の給食袋  作者: お寿司
第二幕 分析

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14/17

百パーセント

夜中に3回起きた。


2日が経っていた。一度は水道管の音で、一度は隣の部屋のドアが閉まる音で、三度目は何の音だったか分からない。エアコンを切って寝て、つけて、また切った。朝になっても体の芯が緩まなかった。


このサイトに初めてアクセスした日から数えると、今日で5日目になる。残りは8日で、その間に何をしたかと聞かれたら、データを集めていた、としか答えられない。眠ったのかどうかもあいまいだ。気がついたら朝で、気がついたら夜で、その間ずっとモニターの前にいた。11月16日の午前9時、マンションの部屋はカーテンが半分引かれていて、デスクの上にMacBookとスプレッドシートの印刷物とペン3本と空のマグカップがふたつとうまい棒が1本、並んでいる。


昨日の夜、すべてのデータをひとつのスプレッドシートにまとめた。みっつのシートに分散していた情報——瀬川のアパートから持ち出したアクセスログの14人分、Discordのユーザーリスト、山際からの証言、ファイル044のテーブル、SNSの調査結果——を統合して、合計23人の参加者について入手できた全データがひとつのファイルにおさまっている。


列は12になった。ハンドルネーム、本名、初アクセス日から最終活動日までの時系列データ、SNSの痕跡、ファイル044との照合結果。


23行のデータを経過日数でソートした。


10日以上活動した参加者は11人で、うち9人の最終活動が12日から14日の範囲におさまっている。13日ちょうどが5人、前後1日の誤差を含めると9人中9人になった。


100パーセント。


残りの8日をどう使うか、2日間考えていた。


無視する、という選択肢がまずある。MacBookを閉じてブラウザのブックマークを消し、Discordのアカウントを削除して瀬川のサイトを忘れる。スプレッドシートをゴミ箱に入れて空にして、来週、鹿島さんに「やっぱりこのネタは記事になりませんでした」とメールを打つ。冷蔵庫の前に立って何もない棚を見つめて、深夜のスプレッドシートに戻る——いや、それは以前の自分だ。あのスプレッドシートは家賃の計算で、ここにある数字とは関係がない。


ノートを開いて、選択肢を列挙した。


1、無視する。MacBookを閉じてサイトのことを忘れる。行方不明になった参加者のうち自発的に離脱した人間は確認できておらず、無視して無事でいられる保証はない。


2、逃げる。Discordのアカウントを削除してSNSを消し、端末を変えて引っ越す。前例の有無を確認する必要があった。


3、警察に相談する。何を伝えるのか。ネット上の人間が投稿をやめたこと、知らない写真がカメラロールに入ったこと、自分の名前が見知らぬサイトに載っていること——犯罪として成立するか怪しく、ストーカー被害としても相手が特定できない。


4、分析を続ける。現状で唯1、状況の理解に近づける行為だが、理解したところで助かる保証はない。


ペンを置いて4つの選択肢を眺めた。どの行にも「助かる」が入っていない。


2番の「逃げる」に下線を引いた。前例の確認が先だ。逃げて助かった人間がいるなら逃げればいいし、いないなら選択肢はみっつに減る。


エアコンの送風が止まった。タイマーではなく設定温度に達したらしい。風の音が消えて、冷蔵庫のコンプレッサーだけが残った。


 ◇


スプレッドシートの行をひとつずつ見直した。10日未満で離脱した参加者は12人いて、ファイル044には「了」のついた名前しか載っていないから、短期離脱者がリストにいるかどうかは確認のしようがなかった。


10日以上の参加者に絞ると、11人になる。


全員のログを時系列で並べたとき、最終活動日の2日前から3日前にかけてアクセス先に変化があった。それまで主要ファイルを繰り返し閲覧していた参加者が、10日目から11日目あたりで突然、ファイル001から043のどれとも一致しないURLに集中的にアクセスしている。ログが詳細に残っている7人のうち5人にこの傾向があった。


ノートに「13日目直前の異常アクセス・未知URL・サイト深層? 目的不明」と書いた。


donguri55——栗原大地のログに目が止まった。13日目の深夜にファイル001から043を通し番号順に開いた後、同じ未知のURLに3回アクセスしていた。他の参加者が10日目あたりから少しずつ到達していたURLに、最後の夜に一気に辿り着いている。


取材ノートに下線を引いて「要確認」と書いた。


 ◇


11時過ぎに、山際からLINEが来た。


<あの後、自分なりに調べてみました>


ファイル044のあの日から2日間、山際も動いていたらしい。「俺の名前ありますか」と聞いたときの声のトーンが頭に浮かんだ。


<リストに載っていた名前でSNS検索しました。ほとんどは久野木さんが既に調べた人たちだったんですけど、ひとりだけ、ブログをやっていた人がいて>


URLが送られてきた。はてなブログだった。ハンドルネームはファイル044のリストにある名前と一致して、本名は伏せてあるがプロフィール欄に「IT系・セキュリティ関連」と書いてある。山際が前に話していた「3人目」——「メタデータやサーバー構成を調べていた人」だ。


ブログの投稿をさかのぼった。技術系の記事が中心で、セキュリティカンファレンスの参加レポートやCTFの解法メモが並んでおり、更新は週に1、2回のペースだった。コードの引用が多く、脆弱性の説明にスクリーンショットを添えて再現手順を正確に記述している。


10月の中旬から、投稿の内容が変わっていた。


「あるウェブサイトのセキュリティを個人的に調査しています。詳細は書けませんが、参加型コンテンツの裏側に不自然な構造があります」


3日後の記事にはこう書かれていた。


「ログ解析を進めています。サーバー側のアクセス制御に穴がある。運営者が想定していない——あるいは意図的に残している——バックドアの存在を確認しました」


さらに5日後の投稿がある。


「異常を発見しました。13日目に何が起きるか、ログから推測できます。このゲームは思っていたものとまったく違う。ここから先の内容は公開しません。対策を取ります」


次の投稿が最後になっている。


「ブログを非公開にします。SNSもすべて削除します。メールアドレスも変更しました。端末を新しくしました。引っ越しも予定しています。念のためと思われるかもしれませんが、ログを見た人間なら分かるはずです。必要な措置です」


そこで途切れている。


<山際さん。この人のブログ、最終更新日からの経過日数を数えましたか>


返信は早かった。


<数えました>


<何日目ですか>


<最後の投稿が10月22日です。ファイル044の登録日が10月10日なので、12日目の投稿です。翌日の23日がたぶん——>


13日目。

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