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あの子の給食袋  作者: お寿司
第一幕 接触

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11/14

十三日目

スプレッドシートに「参加者動態」のシートを追加した。


アクセスログの14人分とDiscordのユーザーリスト、山際からの情報をつき合わせた。重複を除いて19人。全員の経過日数——初回アクセスから最終活動日までの日数——を並べてソートをかけた。


並べ替えた結果が画面に表示される——3、4、5、7、8、9、11、11、12、12、13、13、13、13、14、14、21、28。残りひとりは初回アクセス日が不明だった。


3日や5日で去った人は、単純に興味を失ったのだろう。21日以上の二人は山際と同様にファイルを眺めるだけの参加者か、あるいは経過日数の情報自体に不確実な部分がある。


問題は中間層だった。10日以上参加した10人の最終活動日が11日から14日の範囲に集中していて、うち4人が13日ちょうどだった。


donguri55は初アクセスから13日目に全ファイルを1夜で駆け抜けて、翌日から消失している。natsuki_03はDiscordへの初投稿日から数えて13日目に最終投稿を残している。aki_0217も同じく参加日から13日目が最後だった。


19人のサンプルで統計的な結論は出せない。ただ、ゲームに飽きたにせよギミックに驚いたにせよ、SNSの活動まで同時に止まる説明にはならない。


椅子の背もたれに体重をかけた。エアコンの風が止まっていて、タイマーが切れたのだろう、部屋の空気が動かなくなった中で自分のキーボードを打つ音だけが聞こえている。リモコンを探してつけ直すと、送風口からぬるい風が出て、しばらくしてから冷たくなる。


SNSのタブに戻って、natsuki_03、haru_puzzle、aki_0217の3人のXアカウントを並べて開いた。最終投稿の日付をスプレッドシートの日付と照合すると、3人ともDiscordでの最終活動と同日か1日違いで、ゲームに言及したポストを最後に沈黙している。


aki_0217のタイムラインをもう一度スクロールしたとき、見落としていたものがあった。


最終投稿の2日後——Discordの参加日から数えて13日目に当たる日付——に、1件だけ投稿がある。


「ありがとうございました」


リプライではなく単独のポストで、いいねもリプライもついていない。aki_0217の普段の投稿——謎解きイベントの感想や推理小説のレビュー、散歩中に見つけた猫の写真——とは明らかに文体が違っていた。普段は絵文字を使い、語尾は「〜だった!」「〜かも」と砕けているのに、これだけが丁寧語で句点で閉じられている。


natsuki_03のアカウントに戻って、最終投稿の2日後を探した。


投稿がある。「お世話になりました」——やはり単独のポストだった。いいねはついていない。natsuki_03の普段の文体は語尾に「〜」をつけて顔文字を多用するタイプで、「お世話になりました」はその人の言葉ではない。


日付を確認して参加日からの経過日数を計算する。13日目だった。


haru_puzzleも確認した。最終投稿から数日後に1件だけ残っている。


「引き継ぎます」


参加日からの経過日数はやはり13日目だった。


投稿時刻を確認する。aki_0217が午前2時14分、natsuki_03が午前1時51分、haru_puzzleが午前3時7分で、3件とも深夜帯だった。普段の投稿時間をさかのぼって確認すると、aki_0217は主に夕方から夜にかけて投稿するタイプで、natsuki_03は昼休みと夜が多く、haru_puzzleは夕食後の時間帯が中心だ。深夜2時や3時にポストしている履歴は、いずれも1件もない。


アカウントの乗っ取りを考えた。パスワードを破られてスパムを投稿されるケースは珍しくないが、これはスパムには見えない。広告リンクも不審なURLもなく、短い挨拶が1件ずつ残されているだけだ。


「引き継ぎます」という言葉が引っかかった。「ありがとうございました」は別れの挨拶として成立するし、「お世話になりました」も退会の文脈で使う言葉だ。「引き継ぎます」は違う。何を引き継ぐのか。誰から引き継ぐのか。SNSのアカウントを「引き継ぐ」とは言わない。


息を吐いた。しばらく止めていたらしい。


ノートに書く。「13日目に不審な投稿。3件。本人の文体と異なる。乗っ取り? スパムではない。引き継ぎ——何を?」


t_logicとkame_sanも調べたが、t_logicはDiscordのプロフにSNSリンクがなくハンドルネームで検索しても特定できなかった。kame_sanも同様だ。ただ、Discordの投稿タイムスタンプから参加日と最終投稿日の間隔を計算すると、t_logicが11日でkame_sanが12日になる。13日には届いていないが、Discordへの初投稿がサイトへの初アクセスより遅れていた可能性を考えると、やはり13日目の前後におさまった。


画面に並んだタブを見た。確認できた人のプロフィール画像がブラウザの上端に小さく表示されていて、猫の写真と風景写真と本の表紙が並んでいる。13日目を境に全員が消えている。


山際にもう1通送る。


「このゲームに参加して、13日を過ぎても連絡がつく人はいますか」


既読はすぐについたが、返信が来るまでに4分かかった。


「考えてみたんですが、思い当たらないです」


「山際さんは大丈夫ですか」


返信は早い。「自分は見てるだけなんで。分析も考察もしてないし」


ノートに追記する。「見る=安全、分析する=消える? 要検証」


瀬川和彦のことが頭をよぎった。ゲームの制作者であり、遺留品をスキャンしてサイトを作りファイルとして公開した人間だ。誰よりも深く、誰よりも長く、この子の記録と向き合っていたはずで、瀬川も消えた。管理人さんの話では「ある日から急にいなくなった」。


部屋が暗くなっていた。窓の外を見ると11月の午後4時半で日が沈みかけている。いつの間にか朝からずっとデスクの前にいて、湯飲みのコーヒーは2杯目も冷めている。肩が固まっていて、首を回すと関節が鳴った。


エアコンの音が止まっていた。今日二度目だ。今度はリモコンに手を伸ばさず、Macのファンが回る音だけが残った部屋で画面の中のスプレッドシートを見ていた。黄色くハイライトした13日目の行が4つ並んでいる。


デスクの隅に目が行った。うまい棒がまだそこにある。コンビニの袋に入ったまま取材ノートの横に置いてあって、この子が好きだったお菓子だ。この子の記録を丁寧に読み解いていた人たちが、13日目を境に消えていく。


朝送ったダイレクトメッセージの受信箱を確認した。natsuki_03、aki_0217、t_logicの3人から返信はなく、XのDMにも返信はない。既読すらついていなかった。


Discordのタイムラインに戻ると、今日も書き込みをしている参加者たちがこの子の痕跡を丁寧に分析している。この人たちもnatsuki_03やaki_0217と同じようにファイルを深く読み込んでいる。


今日投稿しているユーザーの初投稿日をひとりずつ確認した。


最も古い人で、11日目だった。


スマホが震える。裏返したままの画面が一瞬光って消えて、真奈からの通知だろう。テーブルの上でスマホの画面が暗くなっていく。窓ガラスにMacの画面が反射していて、スプレッドシートの数字が薄く窓の外の暗い空に重なっていた。


自分がこのゲームのファイルを最初に開いたのは、何日前だったか。指が日付を数えようとして、キーボードの上で止まった。

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