第16話.罵倒パブ、開店! 〜管理OSのポリスと、時間無視のハイエナ親父〜
「……なかなか親父の奴、現れないわね」
四次元大王の本星『ビッグテラ』。
煌びやかなネオンの海を見下ろしながら、サーヤが苛立ちを露わにした。
「この星には数百万件のコンセプト店が存在します。ですがアオイの分析によれば、先代様は極度の『新しもの好き』。変わった店がオープンすれば、必ず現れるはずです」
アカネの報告に、サーヤは眉をひそめた。
「そのアオイはどこよ?」
「……あちらです」
視線の先では、アオイが虚空を見つめて鼻血を拭っていた。
「……渋い執事と……若き主人の……秘められた葛藤。……尊いです。全銀河の計算資源を投入しても、この『萌え』の特異点は演算不可能です。はぁはぁ……」
「……ねえ、アカネ。アオイを元の帝国OSに戻すスイッチとかないわけ?」
「残念ながら、一度開いた『禁断の扉』はマザーシステムでもクローズ不可能です」
「それならよ、二代目が店を作ればいいんじゃねーか。目立つ店を開けば、あのバカ先代もホイホイ釣れるぜ」
エリカの提案に、サーヤの目が光った。
「エリカ、たまには良いこと言うじゃない。……じゃあ、どんな店にする?」
「私は古代の神秘を楽しめる『冒険者パブ』がいいと思います!」
「キャリーらしいけど、萌えが足りないわ。ユーリは?」
「最新兵器を展示した『サバゲーパブ』とか……」
「却下。……エリカ、あんたは?」
「アタイはやっぱり『執事パブ』だろ! なあ、アオイ!」
「エリカさん、ナイスです。渋めの男性とイケメンが交わる姿……想像しただけでメインメモリがオーバーフローします……」
「ちょっと! 相手は親父なのよ! それにアオイ、あんた少しエリカから離れなさい。キャラが崩れすぎてて怖いから!」
結局、男の意見を聞くことになったが、トウマは「アカネさんみたいなデキる女性の店が……」とモゴモゴ言うだけで役に立たず、ロク爺は「バニーガール一択じゃ!」と鼻息を荒くする始末。
「サーヤ様、よろしいでしょうか」
スッと手を挙げたのはアカネだった。
「トウマ様を観察して気づいたのですが……。トウマ様、貴女やマリ様に罵倒されている時、心拍数が最大化し、瞳孔が開いて恍惚の表情を浮かべています。科学的に見て、彼は『重度のM』です」
「やめてーー! 僕はそんな変態じゃないです!」
「これよ! 『罵倒パブ』! 親父も絶対にこの手のいかがわしいのが好きに決まってるわ!」
配役は即座に決まった。
アカネは冷徹な『教授』。
アオイは鞭を持つ『婦人警官』。
キャリーは緑のジャージ姿で厳しい『部活マネージャー』。
サーヤとユーリは黒レザーの衣装に尻尾をつけた『小悪魔』。
「……まじかよ、アタイはそのまま(海賊)でいいだろ」
エリカの不満は無視された。
それから一週間、開店に向けての予行練習(拷問)が続いた。
練習台にされたトウマの精神が崩壊しかけた頃、店はついにオープンした。
夜の街のネットニュースに情報を流すと、初日から店は大繁盛。
店内には、サーヤが勝手に複製したマリ、マリア、セシリアのブロマイドが並び、マニアたちが血眼で買い漁っている。
「本当に先代、現れるかしら?」
「キャリー、心配ねぇよ。あのバカ親父は絶対に釣れるぜ」
その時、入口のブロマイド売り場に、異様な雰囲気の男が現れた。
帽子を深く被り、サングラスにマスク。
明らかに指名手配犯か変態の類だが、マリのブロマイドを片っ端から買い占めている。
「奴が来たわ……! フォーメーションAよ!」
サーヤの指令が飛ぶ。顔を知られていないアカネとアオイが接客を開始した。
「ふーん、アオイちゃんにアカネちゃん。二人とも綺麗だねぇ。僕、今日は盛り上がっちゃいそうだなー!」
軽薄な声を出すその男こそ、四次元大王その人だった。
「あのバカ親父……飲ませて潰して、捕まえてやるわ。ユーリ、小悪魔攻撃開始!」
親父が絶好調に飲みまくり、隙を見せた瞬間。サーヤがエリカと共に躍り出た。
「あら、お客さん。うちの店は初めてかしら?」
「お、ちいママさんかな? って、お、お、お前はサーヤッ!?」
「ほらバカ親父! 年貢の納め時よ! 全員シェンカー海賊団だ、逃がさないわよ!」
瞬時にアオイが店全体に多重結界を張り、アカネとエリカが拘束魔法と重力魔法を叩き込む。
だが。
「ふーん、みんななかなかやるね。褒めてあげるよ」
親父が軽く指を鳴らした瞬間、全ての魔法が砂のように霧散した。
「なっ……打ち消された!?」
「サーヤ、また会おう。……と言いたいところだけど、少し静かにしてもらおうかな」
サーヤは即座に『時間結晶』を展開し、止まった世界の中で剣を振るった。
しかし――親父はその静止した時間の中で、平然と首を傾げて剣を避けた。
「……ありえません。彼は『時間』という物理法則の外側に立っています!」
アオイが驚愕に叫ぶ。
「しかたない。痛くしないから、我慢しろよな」
親父が手をかざした瞬間、トウマやエリカたちが次々と糸が切れた人形のように眠りに落ちていく。
残されたサーヤ、アカネ、アオイの三人も、宇宙の重さを凝縮したような『超核重力魔法』に押し潰され、意識を失った。
数時間後。
静まり返った店内で目を覚ましたサーヤたちの前に残されていたのは、一通の領収書だった。
『宛名:シェンカー殿。……代金はきっちり精算済みよ。完敗だわ……』
サーヤにとって、初めて「全く敵わない」と本能で理解させられた相手。
アオイとアカネも、サーヤ以外の理解不能な「怪物」の存在に、震えが止まらなかった。
そこへ、一通の緊急連絡が入る。
差出人は、かつて6500年前にサーヤたち地球の学生達と戦ったルーンの法王だった。
最後まで、読んでいただきありがとうございます。
遂に現れた先代シェンカー船長。
アカネ、アオイ、サーヤの最強海賊団がまさかの完敗。
タイミングよく届いた法王の手紙とは?
次回もお楽しみに!
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