第15話(前編).神をワンパンした海賊、仲間を「盾(肉塊)」に指名する
「師匠、この12巻の展開……胸の鼓動が計算外の数値を叩き出しています」
「……ふふ、アオイもやっと『真理』がわかるようになってきたわね」
「はい、師匠のご指導のおかげです」
アジトの片隅で、ボサボサ頭のサーヤと、どこか目がトロンとしたアオイが、一冊の薄い本を囲んで怪しい合議を開いていた。
「おい、アカネ。アオイの奴、日に日に二代目に似てきてないか? ちょっと前まで、銀河を滅ぼそうとしてた帝国の親玉だろ?」
コーヒー牛乳を片手に、トウマが引き気味に呟いた。
「……はい。我々マザーシステムは常に論理的回路で動いています。それゆえ、サーヤ様のような『超・非論理的』な存在に出会うと、回路がバグを引き起こし、そのままあらぬ方向へ加速してしまうのです」
「そういえば、アカネも二代目のファンだもんね。ボクらからすると、ただのワガママな強欲女子なんだけどさ」
ユーリの軽口に、アカネが眼鏡を光らせる。
「確かにサーヤ様は強欲です。ですが、その欲の深さこそが銀河を動かすエネルギーなのです」
「ぶっっ!!」
向こうでコーヒーを飲んでいたトウマが、あまりに盲目的な称賛に吹き出した。
「アンタたち、勝手なこと言ってんじゃないわよ! 親父を捕まえて、四次元大王からお礼をもらっても、一ギラも分けてあげないからね!」
サーヤが吠えるが、エリカたちはどこ吹く風だ。
「アタイたちは、ルーンのワインを一生分もらったから何もいらないぜ」
「ボクも博士から新しい武器をもらったしね」
「私も歴史辞典をいただいたので十分です」
海賊たちの意外な無欲さに、サーヤは肩透かしを食らった。
「えーー、アンタたち海賊のくせに無欲ね! ……トウマ、あんたは?」
「ぼ、僕は……休みが欲しいです。精神的な休みが」
「トウマ、あんた何もやってないんだから、いつも休みみたいなもんじゃない!」
「いいえ、二代目。トウマは毎日、エリカやユーリの部屋の掃除を強要されている」
キャリーの密告に、エリカとユーリが「やべ」という顔で逃げ出した。
「アカネ。捕まえなさい」
「はい」
瞬時にアカネが二人の首根っこを掴んで引きずり戻す。
「そうだ。こいつらにぴったりの仕事があったわ。アオイ、あんた料理の勉強中だったわね。練習台にこいつらを使ってあげなさい」
「……サーヤ、アオイの料理の恐ろしさを知って言ってるのか?」
トウマが戦慄する。
アオイの料理は、分子構造から組み替えた『完全栄養体』だが、味が概念として存在しない「食べる虚無」なのだ。
「大丈夫よ、同じマザーシステムなんだからアカネみたいに上手くなるわよ。きっと」
その日以来、一週間。
エリカとユーリの姿をコクピットで見る者はいなかった。
ただ、調理室から「完食するまで出られません」というアオイの冷徹かつ慈愛に満ちた声だけが響き続けていた。
「さて、うるさいのが消えたから作戦を発表するわよ。アカネ、お願い」
「はい。今回の軍事目的は、サーヤ様とお父様の『感動的な再会』です。ただし相手は狂犬と言われた強者ですので、私とアオイがサーヤ様をサポート。そしてトウマ様が『盾』となります」
「ちょっと、今『盾』って聞こえたんですが、聞き間違いでしょうか?」
「いえ、聞き間違いではありません。貴方の再生能力は、大王の初撃を三秒間耐える計算です。立派な『肉の盾(肉塊)』となるでしょう」
「死刑宣告じゃねーか!」
作戦はこうだ。
まず大王が住む星系の隣、惑星『ジオスター』へ向かう。
そこから目立たないよう惑星間列車に乗り、三組に分かれて本星ビッグテラへ潜入する。
・エリカ、ユーリ、アオイ(監視役)
・トウマ、キャリー、ロク爺
・サーヤ、アカネ
「エリカたちが一番危ないので、アオイに目を光らせてもらいます」
「えーーーアオイが一緒かよ、真面目でつまんないぜ」
「大丈夫、エリカ。アオイなんて、漫画一冊あれば余裕だよ」
「そうか、任せたぜユーリ。うししし」
海賊とは常に非情となり相手の急所を攻め立てる。
アオイの弱点を握った海賊たちは、密かに不敵な笑みを浮かべた。
最後まで、読んでいただきありがとうございます。
いよいよ始まったシェンカー海賊団の四次元都市への潜入!?
果たして、サーヤ達一行は、夜の街を無事調査できるのか?




