第13話.神をワンパンした海賊、お嬢様の実家で「けしからん」夜を過ごす
「……ああ、久しぶりのシャバの空気だぜ!」
四次元の歪みを抜け、見慣れたドクロ岩の入り江に降り立った瞬間、
エリカが大きく背伸びをして叫んだ。
「なんで四次元が『シャバ』なんだよ」
トウマが呆れたように突っ込む。
「いやいや、あっち(三次元)は気がつくとシワができて、白髪まで生えるんでしょ?アタイ達にとっては、実質『時間牢獄』っていう監獄よ!」
そんなやり取りをしている間に、船は巨大な岩壁をくり抜いたアジトへと入っていった。
「おかえり、アンタ達。随分と長かったわね」
出迎えたのは、腰に手を当てた恰幅の良い女性、マルカだ。
「ただいまー、マルカおばちゃん!」
「おばちゃん、腹減った!」
エリカやキャリーたちが口々に叫ぶ中、マルカの鋭い視線がトウマに止まる。
トウマは圧倒されつつも、つい不用意な一言を口にした。
「あ、トウマです。……このおばあさんも、サーヤの仲間の海賊なんですか?」
「……あ」
サーヤが青ざめて口を押さえた。
海賊たちが一斉にクモの子を散らすように距離を取り、遠巻きにトウマを「憐れみの目」で見つめる。
「……アンタ、命がいらないらしいわね」
マルカの低い声が響いたかと思うと、トウマの視界が上下逆さまになった。
気がつくと、彼は足首を掴まれ、天井から吊り下げられていた。
「……あのね、私はまだ二万歳よ。私に向かって言う言葉を間違えるんじゃないわよ。もう一度、言ってみな」
「……は、はい、お嬢様……。助けて、お嬢様……」
マルカがトウマを床に放り出すと、隣で見ていたロク爺がトウマの持ち物を見てボソリと付け加えた。
「……そう言えばこの小僧、トウマ・イワサキというんじゃ。あのマッドサイエンティストの子孫じゃよ」
「なんだってぇぇぇ!? 誰の子孫だって!?」
マルカの怒声が再び入り江に木霊した。
「こいつもあの『変態』の血族なのかい! あの爺さんには何度下着を盗まれたことか! 何が『四次元素材の伸縮率と耐久性の相関研究』だよ、ふざけるんじゃないわよ!」
「い、いえ! 僕は関係ありません」
トウマの必死の弁明も、マルカの鼻息で吹き飛ばされた。
「うるさいよ! よく見りゃ顔がそっくりね。……はぁ、二代目が連れてくる男はどいつもこいつもロクなのがいないねぇ。二代目は小さい頃から、お金を握らせれば大人しくなる可愛い子だったのに。よりによってこんな『遺伝子の欠陥品』を拾ってくるなんて」
ゴミを見るような目でトウマを一瞥したマルカは、ようやくその隣に立つ少女に視線の焦点を合わせた。
「……おや。そっちの綺麗な子は? あんた、そのヘンタイの彼女かい?」
「と、とんでもない! 彼女だなんて滅相もないです! あ、あちらはアオイさんと言って、帝国の管理者で、恐ろ
しく偉い方で――」
「あー、もういいよ。あんたが喋ると空気が汚れるわ」
マルカはトウマの言葉をバッサリ切り捨てると、アオイの肩をガシッと掴んだ。
「いいかい、お嬢さん。こんなヘンタイの言うことなんて真に受けちゃダメだよ。ほら、あんたも二代目と一緒に風呂においで。女の子同士、裸の付き合いが一番の毒抜きになるからね!」
大浴場の重厚な石の扉を開くと、そこには四次元の星空を映し出すかのような、透き通った蒼い湯が溢れていた。立ち昇る湯気が、柔らかく少女たちの輪郭をぼかしていく。
「ふぅ……。やっぱり実家の風呂は最高ね」
サーヤが、惜しげもなくその肢体を湯船の縁に預けた。
濡れた肌に艶やかな光が走り、海賊らしい健康的な美しさが露わになる。
「……サーヤ。なぜ、そんなに無防備なのですか?」
脱衣所で立ち尽くしていたアオイが、戸惑いながらも一歩を踏み出した。
管理装甲を脱ぎ捨てた彼女の体は、驚くほど白く、そして繊細だった。
まるで新雪を磨き上げたような瑞々しい四肢。人間が「理想」として描く全ての曲線が、そこには凝縮されていた。
「硬いこと言わないの。アオイもこっちに来なさいよ。……ほら、アタシが洗ってあげる」
「洗う……? 私は自己洗浄機能を備えていますが」
「いいから。……こっち」
サーヤに促され、アオイがおずおずと湯船に足を浸ける。
「っ……。これは、熱エネルギーの伝播ですか。……いえ、それだけではない。胸の奥が、何かに締め付けられるような、奇妙な感覚です」
「それは『気持ちいい』って言うのよ。……アオイ、あんたの肌、本当に綺麗ね」
サーヤがたっぷりと泡立てたスポンジで、アオイの背中を滑らせる。
初めて触れられる「他人の手の温もり」。
アオイは小さな吐息を漏らし、その瞳を微かに潤ませた。
「あ、ズルい! アタシもアオイちゃん触りたい!」
エリカが元気よく飛び込んできて、アオイの柔らかな二の腕をぷにぷにと突き始めた。
「わあ、本当にスベスベ! キャリー、見てよこれ! 触り心地が高級なシルクみたい!」
「本当ね……。アオイ、この関節の可動域はどうなってるの?」
キャリーまでが熱心な観察を始め、大浴場は一気に華やいだ空気に包まれる。
「あ……。サーヤ……。そこは、演算回路が集中しているので、あまり……っ、揉まないでください……。システムが、ショート……します……」
アオイは頬を赤らめ、身をよじる。
無機質だった神の瞳に、初めて「少女」としての柔らかな光が宿った瞬間だった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回は、そろそろ作品も終盤ということでサービス回を描きました。
束の間の休息、待ち受ける四次元大王と、狂犬の親父。
そろそろラストに向けて、本格的にストーリーが進んでいきます。




