第12話.さらばルーン。孤独な神は、強欲令嬢に「双子ユニット」として雇用されました
「……あなたのマスターは、いつもあのような横暴な振舞いをするのですか?」
瓦礫の山に腰を下ろしたアオイが、傍らに立つアカネに問いかけた。
視線の先では、サーヤが消し炭になった戦艦の残骸を這いずり回り、鼻歌交じりにニヤニヤと笑っている。
「あら、この反重力コイル、まだ生きてるわね!……はい、四次元ボックスへ! これは中古市場でも五万ギラは下らないわよ、うふふふ!」
銀河の命運を左右する管理OSを前にして、彼女は一欠片のレアメタルすら見逃さない。
その背中は、あまりに「生」のエネルギーに満ち溢れていた。
「いいえ。……それが、良いのです」
アカネは慈しむような、それでいて誇らしげな微笑みを浮かべた。
「あなたも、あなたのマスターも……。やはり私の演算能力(理解)を超えるようです」
アオイは自嘲気味に目を伏せた。
「それよりもアオイ。あなたの艦隊、三〇万隻も潰れてしまったけれど……。多くの人命が失われたことは、残念に思うわ」
アカネの言葉に、アオイは感情のない瞳を向けた。
「いいえ、気にしないでください。いつでも補充できますから。……あの艦隊は全て、私の一部。マザーシステム直結の無人機です」
「補充……? 帝国には多くの人民と兵士がいたはずでは」
「……今、帝国に人間は一人もいません。私が受け継いだ時には、既に手遅れだった」
アオイの淡々とした告白が、戦場に冷たく響く。
「内乱、果てしない戦争、そして最期の引き金となったのは疫病でした。人間は、私を造り、私に管理を押し付けて死に絶えたのです。これ以上の悲劇……『人間現象』という名の自滅を抑えるために、私はこの銀河を静止させ、統治しているのです」
銀河を統べる神の正体は、墓守だったのだ。
「正直、生身の人間に、また会えるとは思わなかった。……生き残りは、このルーンを含めて、ごくわずか。十億人にも満たないでしょう」
「……でも。あのサーヤ様のたくましさがあれば、人はまた必ず復活するでしょうね」
アカネが確信を込めて言うと、アオイは初めて、微かな、本当に微かな笑みを漏らした。
「ふふ……。それは、否定できそうにありません」
「ちょっとあんたたち! 何しんみり談笑してるのよ!」
そこへサーヤが、煤で汚れた顔に満面の笑みを浮かべて戻ってきた。
「いいこと思いついたわ。あんたたち二人、顔が似てるんだから『ブルー&レッド』っていう双子ユニットで売り出すわよ! アカネが赤、アオイが青。これでブロマイドの売上は二乗……いえ、三乗ね!」
「……はい、私達、おそらく双子(同型機)ですので、問題ありません」
即答するアカネに、アオイは「……これがお断りできないパターンですね」と肩を落とした。
◇ ◇ ◇
一方、ルーン聖王国の正教会では、一万の兵士と海賊たちが、息を呑んで「地平線の彼方」を凝視していた。
突然、聖堂の広場の中央で時空が歪み、亀裂が走る。
「……帰ってきたわよー!」
悠然と現れたのは、サーヤ、アカネ、そしてもう一人。
「よかったぁぁぁ、ふえぇぇぇん!」
マリが弾かれたように走り出し、サーヤに抱き着いた。
「やつらはどうでした? 帰ってきたということは、勝ったんですね」
セシリアが歩み寄るが、その表情は硬い。
「当然でしょ。あんなのワンパンよ……と言いたいところだけど、アタシが到着した時には、奴らもう虫の息だったの。十万の兵も全滅してたわ」
「えっ……? 一体誰が……」
トウマも困惑して話に加わる。
「アオイよ。あの子が全部やっつけちゃってたの」
その瞬間、広場の空気が凍り付いた。
「アオイ……? あの帝国の、独裁者……!?」
聖女マリアの顔から血の気が引く。五〇〇人の近衛兵、エリカ率いる海賊船のクルー、全員が本能的な恐怖に震え上がった。
「あはは……。どんだけチートなんだよ、そのアオイってやつ。きっと三つ目で角が生えたバケモノなんだろうな」
エリカが震える声を誤魔化すように笑うと、キャリーも青ざめた顔で頷いた。
「……四天王の四人を全滅させたバケモノよ。私達じゃ、決して勝てないわ……」
「えー、みんな注目! はい、ちゅーもーく! この子がアオイちゃんでーす!」
サーヤが、隣に立つ少女をぐいっと前に押し出した。
「「「「ええええええーーーーーっ!?」」」」
「嘘言うな二代目、それはアカネだろ! ……って、あれ? 二人いる!?」
ユーリが目をこすり、絶叫する。
「でしょー、言うと思ったわ。赤い髪留めがアカネ、青い髪留めがアオイ。はい、覚えたわね?」
「いやいや、そういうことじゃなくて!」
「そこのアオイ! 僕らを襲ったりしないだろうね!?」
詰め寄るユーリたちを、アオイは硝子細工の瞳で一瞥した。
「……私は帝国に害を及ぼさない限り、手を上げません。まして……サーヤの仲間に手を出すのは、非効率です。……サーヤは、怖いですから」
その言葉に、全員の視線がサーヤに集中した。
「……ねぇ、サーヤ。あんた一体、神様に何をやったのよ?」
「失礼ねマリ、アタシは正当な『雇用契約』を結んだだけよ」
サーヤはふっと表情を引き締め、全員を見渡した。
「さて……みんな揃ったところで発表するわ。アタシ、これから『四次元』に帰ります」
広場が静まり返る。
「四次元大王ってやつと喧嘩しに行くの。だから、シェンカー海賊団以外は、ここでお別れよ」
「私もいく!」
マリが即座にサーヤの腕を掴んだ。セシリア、アルも続く。
「ダメよ。……ここからは、みんなを連れて行けない。本当に危ないの」
「……足手まといだって、はっきり言ってやれよ二代目。その方がこいつら納得するぜ」
エリカの言葉に、キャリーが小声で「言い過ぎよ」とたしなめる。
だが、サーヤは首を振った。
「足手まといなんて言わない。……だけど、あんたたちを失いたくないの。だって……生まれて初めてできた、『友達』だからね」
サーヤの真っ直ぐな瞳。マリは無言で、その腕に込めた力を少しずつ緩めていった。
「……マリちゃん、笑って行かせてあげましょう。それが、サーヤのためなんですよ」
アルの言葉に、マリは涙を拭った。
「わかったわ。……サーヤ、これでお別れじゃないわよね?」
「もちろんよ! 帰ってきたら、また新製品のブロマイド売りまくるからね!」
「それは、い、や、だ!」
笑い声が広がる中、サーヤは一人、トウマを指さした。
「それとトウマくん。あんたは連れて行くからね」
「えっ!? 僕も留守番させてよ!」
「ダメよ、カバン持ちが必要なんだから。それに……あんたのご先祖様からも頼まれてるんだからね」
サーヤは海賊船『強欲の翼』のタラップを上がり、振り返った。
「アカネ、ルーンのみんなを送ったら、すぐに戻ってきなさい! アオイ、あんたも連れて行くから覚悟しなさい!」
「……お断りしても、無駄なパターンですね。……承知いたしました。しばらくの間、私がアカネの代わりを務めましょう」
青い髪の管理OSを従え、強欲令嬢は天を指さした。
「さあ、出発よ! 目指すは四次元の最深部、大王の首と――ついでにお宝全部よ!」
大歓声の中、船は空を裂き、次元の壁へと消えていった。
最後まで、読んでいただきありがとうございます。
孤独な墓守だったアオイの心を動かしたのは、神を恐れぬサーヤ様の「拾いなさい! 五万ギラよ!」という強欲なエネルギーでした。
ついに動き出した最終章。
サーヤ・トウマ・アカネ・アオイという、前代未聞の「最強にして最凶」のカルテットが四次元を蹂躙します。
四次元大王を待ち受けるのは、救済か、それとも破産か!?
次回から始まる新章、ぜひ【☆☆☆☆☆】で応援を!




